現場実験的な観測によるクロロフィル短期変動に対する物理環境の影響


[要約]
クロロフィル鉛直分布の短期変化を、現場観測結果をパラメタとして与えた物理-生物複合モデルで再現した。モデルは、表層の高い栄養塩濃度にかかわらず低いクロロフィル濃度の持続は安定した密度構造が要因であることを示した。
北海道区水産研究所・海洋環境部・海洋動態研究室
[連絡先]0154-91-9136
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]水産海洋
[対象]プランクトン
[分類]研究

[背景・ねらい]
気象変動が海洋の一次生産に与える影響を定量的に把握することは資源生物の変動予測にとって重要である。本研究では、親潮域においてブイを追跡しつつ連続的に観測した結果を鉛直一次元モデルに適用させ、混合層の物理過程とそれに伴うクロロフィル濃度の変動過程を再現するとともに、この過程に影響を与えていた物理要因を明らかにした。

[成果の内容・特徴]

  1. 観測期間のクロロフィル濃度鉛直分布には水深30~40mを中心とした顕著な亜表層極大がみられ、表層においては栄養塩濃度が高いにもかかわらず低濃度で推移していた(図1)
  2. 安定同位体をトレーサーとした擬似現場法による培養実験を行ない、一次生産の日変動を調べた。その結果、光合成速度は日射量に依存することが明らかとなった(図2)
  3. 2の結果をパラメタとし風速、表層水温・塩分を境界条件、観測結果を初期条件として数値モデルを実行したところ全期間にわたるおおよその変動傾向が再現された(図3)。。
  4. 生産層において植物プランクトンが増加しない原因は動物プランクトンによる被捕食と植物プランクトンの沈降であった。単位面積当たりの生産量と被捕食量は生産層の厚みに比例するが沈降量は厚みに依存しないため、生産層が薄いと沈降量の影響は相対的に大きくなる。物理過程に着目すれば、安定した表層の密度構造と高い光の減衰率が生産層の厚みを小さくしたため、沈降が植物プランクトンの増加を効果的に抑制したと結論できる。

[成果の活用面・留意点]

    親潮域への適用可能性が明らかとなった一次元モデルとそのパラメタは将来の親潮における広域三次元モデルのサブモデルとして活用が可能となる。

[具体的データ]

図1 連続観測によるクロロフィル濃度の鉛直分布の時間変化

図2 有効層内のクロロフィル当たりの光合成速度と培養中の平均日射量の関係

図3 モデルによるクロロフィル濃度の鉛直分布の時間変化


[その他]
研究課題名:気象擾乱にともなう基礎生産変動の把握のための現場実験的観測手法の開発
予算区分 :重点基礎研究
研究期間 :平成9年度(平成8年)
研究担当者:北海道区水産研究所 海洋環境部 海洋動態研究室 河野時廣・川崎康寛
生物環境研究室 津田敦・齋藤宏明・葛西広海
発表論文等:
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