夏の宗谷海峡周辺海域の海面に見られる冷水帯の起源を日ロ共同海洋観測で探る


[要約]
1995年8月の調査から、宗谷海峡周辺海域の海面に見られる冷水帯は、サハリン南西部の100~150m付近に存在する日本海の中層の水が湧昇したもので、これが宗谷海峡を通過し、オホーツク海表面に現れる冷水帯につながることが分かった。
北海道立中央水産試験場・海洋部
[連絡先]0135-23-4020
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]海洋構造
[対象]
[分類]研究

[背景・ねらい]
宗谷海峡周辺の日本側100海里水域内の宗谷暖流では、たとえばタコやホタテガイなどの生産性が高い。貧栄養といわれる対馬暖流の下流域であるにもかかわらず、生産性が高いということは、それらの餌生物のもとになる植物プランクトンを涵養する栄養塩類を補給する仕組みがあるはずである。その仕組みを知るために、夏の宗谷海峡周辺海域の宗谷暖流沖側の海面に見られる冷水帯に着目し、最初にその冷水帯の起源を日本とロシアの共同海峡観測で探る。

[成果の内容・特徴]

  1. 1995年8月の同時海洋観測で、宗谷海峡周辺海域の海面水温は、オホーツク海で18℃、日本側で20℃であるのに宗谷海峡の冷水帯の中心部の水温は約8℃で周囲よりも10~12℃も低く、冷水帯の中央部の位置が樺太何端の西能登呂岬の日本海側から宗谷海峡を通ってオホーツク海側まで延びているところを捕らえることができた(図1)
  2. 1995年8月8日から9日にかけて日ロで同時に観測した、潮汐流の影響を除いた平均海流は、冷水帯域でも日本海側からオホーツク海側に流れていることが分かった(図2)
  3. 冷水帯の上流側でも日本海の水温鉛直断面を見ると、冷水帯中心部の水温の8℃の等水温線は、日本海の水深120m~150mの中層から樺太沿岸の表面付近までつながっていた(図3)
  4. したがって、宗谷海峡周辺海域の海面に見られる冷水帯は、サハリン南西部の100~150m 付近に存在する日本海の中層の水が湧昇したもので、これが宗谷海峡を通過し、オホーツク海表面に現れる冷水帯につながることが分かった。
  5. 以上のことから、表層と比較して栄養塩類が多い日本海の中層の水が樺太南部沿岸域で海面付近に湧昇し、宗谷海峡で宗谷暖流と接触・混合することで、貧栄養の夏の宗谷暖流表層域に栄養塩類を補給する仕組みが考えられた。

[成果の活用面・留意点]

    表層に補給された栄養塩類が、植物プランクトン→動物プランクトン→高次の生物へつながる仕組みを次の段階で知ることで、日本海深層水を汲み上げた場合の自然界での有効利用のされ方が見つかる。

[具体的データ]

図1 宗谷海峡周辺の冷水帯の分布(1995年8月)

図2 潮汐流を除いた平均海流(1995年8月8~9日)

図3 樺太南部日本海沿岸の水温鉛直断面図


[その他]
研究課題名:宗谷海峡および隣接海域における北海道水試-Sakhniro共同観測
予算区分 :道費:海洋環境調査研究(平成7年度)、水産技術国際交流事業(平成8年度~平成9年度)
研究期間 :平成8年度(平成7年~平成9年度)
研究担当者:北海道立中央試験場 海洋部 八木 宏樹・田中 伊織・中多 章文
発表論文等:八木 宏樹ほか(1996)宗谷海峡および周辺海域における冷水帯の季節変動とその化学的、生物特性。北太平洋の海洋科学に関する国際研究機構(PICES)第5回年次総会研究発表要旨(英文)
田中 伊織ほか(1996)1995~1996年に行った宗谷海峡における直接測流結果。北太平洋の海洋科学に関する国際研究機構(PICES)第5回年次総会研究発表要旨(英文)
中多 章文ほか(1996)宗谷海峡に出現する冷水帯の起源。北太平洋の海洋科学に関する国際研究機構(PICES)第5回年次総会研究発表要旨(英文)
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