平衡石によるスルメイカ稚仔のふ化日の推定方法及び初期成長解析技術の確立


[要約]

スルメイカ稚仔のふ化日並びに初期成長様式を解明するために,平衡石を用いた日齢査定手法を開発し,平衡石の日輪観察から,そのふ化日並びに成長様式を明らかにした.

北海道区水産研究所・資源管理部・頭足類資源研究室
[連絡先]0154−91−9136
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]資源生態
[対象]いか
[分類]研究

[背景・ねらい]

 スルメイカは単年性であることから,本種の資源管理を行う場合,漁場に加入する以前のできるだけ早い時期に,精度高く加入資源量を予測することが重要である。稚仔期は個体数の減少が大きく,加入資源量を左右する重要な期間の一つであると推定される.しかし,スルメイカ稚仔期の生態(発生時期,発生場所,分布・移動,成長など)には不明な点が多い.そこで,スルメイカ稚仔の生態を解明する研究の一環として,平衡石日輪を用いたふ化日及び初期成長解析技術を確立することをめざした.

[成果の内容・特徴]

  1. 平衡石の観察に用いたスルメイカ稚仔(リンコトウチオン幼性:外套長10mm以下)は,1997年2月に産卵場の一つであると推測されている九州南西海域においてボンゴネット(口径:70cm・網目合い:0.33mm)の斜め曳き(最大到達水深 100m 前後)によって採集され,稚仔の平衡石の溶解を防ぐため,船上で10%中性海水ホルマリンで6時間固定した後,水道水で洗浄し,50%イソプロピルアルコール中に保存した.平衡石を摘出する前処理として,平衡胞を傷つけないように稚仔の頭部を胴体部から切り離し,100%エチルアルコール並びにキシレンを用い脱水処理を行った.平衡石の摘出には実体顕微鏡を用い,スライドガラス上に滴下したカナダバルサムとキシレンの混合液中で行った.平衡石摘出後,カバーガラスを掛け観察標本とした.標本の観察及び画像印刷には平衡石日輪計測システムを用い,日輪の計数は,印刷された画像上で行った.
  2. スルメイカ稚仔(外套長0.8mm〜8.4mm)の平衡石を上記の方法で処理した結果,平衡石の日輪の観察に成功した.リンコトウチオン幼性期の日輪は,大型個体(外套背長150mm以上)で日輪観察を行う場合のように平衡石表面を研磨しなくても,この方法で比較的容易に計数できることが明らかとなった(Plate1)
  3. 1997年2月中旬に九州南西海域で採集されたスルメイカ稚仔38個体の平衡石日輪を観察した結果,日輪数は最大61,最小1であった.ここで日輪数から推定したふ化日を(Fig.1)に,また日輪数と外套長の関係を(Fig.2)に示した.スルメイカのふ化日は12月中旬〜2月上旬と推定され,その中でも観察した個体の多くは1月にふ化していたことが判明した.また,観察された個体の外套長とその日輪数を比較すると,スルメイカの初期成長速度は遅く,ふ化後30日で2〜3mm,60日でも5〜8mm前後までしか成長していないことが明らかとなった.

[成果の活用面・留意点]

  以上の方法を用い平衡石に形成される日輪数を計測することで,スルメイカ稚仔のふ化日を推定することが可能となり,その後の定期的採集により,同一日のふ化量やふ化後の生残率を推定する手法に道が開けた.また生活史初期の成長を解析する基礎的手法を確立すること ができたことから,スルメイカ稚仔の成長に関して地域間や経年の比較など,初期生態に関する知見を飛躍的に深化させることが期待される.留意点として採集後のサンプル固定時における外套長の収穫率を明らかにするなど,保存・管理方法に改善の余地がある.

[具体的データ]

Plate1 スルメイカ稚仔(リンコトウチオン幼性)の平衡石上に形成された日輪 

Fig.1 スルメイカ稚仔のふ化日

Fig.2 スルメイカ稚仔の日輪数と外套長


[その他]
研究課題名:スルメイカ稚仔の分布と成長の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成9年度(平成9年〜平成11年)
研究担当者:北海道区水産研究所 資源管理部 頭足類資源研究室 森 賢・中村好和
発表論文等:なし

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