ニシンの人為的産卵誘導技術


[要約]

本研究では、ニシンの産卵に係わる生理生態学的特性を明らかにし、それに基づく人為産卵誘導技術の開発を通して、新たな栽培漁業、資源回復技術に繋がる基盤の整備を行った。

北海道区水産研究所・資源増殖部・浅海育種研究室
[連絡先]0154−91−9136
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]水産増殖
[対象]魚介類
[分類]研究

[背景・ねらい]

  ニシンは湾あるいは汽水湖の海藻(草)などの産卵基質に卵を産み付ける。従って、藻場はニシンの再生産にとって不可欠であるが、沿岸域の開発等によって好適な藻場は失われてきている。本研究では、ニシンの産卵生態と再生産の生理学的特性を明らかにし、天然の海藻(草)に代わる人工産卵基質(人工海藻)による産卵誘導技術を開発して、新たな栽培漁業技術、産卵場造成など資源回復技術にしすることを目的とした。

 

[成果の内容・特徴]

  1. ニシンの成熟過程の解明: 飼育したニシンを用いて各月生殖腺と血液をサンプリングし、雄雌の組織学的観察、血中性ホルモン及びビテロジェニンの測定結果をとりまとめて本邦産ニシンの生殖年周期と成熟の特性をはじめて明らかにした。雌は9月から卵黄形成を開始し、4月上旬にほとんどの個体が排卵した。雄では同時期精子形成が進行した。産卵基質がない状態では、排卵はするものの産卵は認められなった。
  2. 人為的産卵誘発: (図1)飼育ニシン3歳魚(564個体)を用いて40m3の水槽にて、人工産卵基質による産卵誘発を試みた結果、3回の実験でいずれも1日以内に産卵が行われた。産み出された卵は1,283万粒で、雌魚の72%が産卵した。人工産卵基質の材質を比較したところ、ビニール製キンランに比べて顕著にシュロ製マブシを好んで産卵した。また、人工産卵基質の設置方法では、水槽上部に懸垂したものよりも、底部に設置したものを好んだ。人工産卵基質に産み付けられた卵は高い割合で受精していることを確認した。
  3. 産卵行動の観察: 人工産卵基質近傍に水中ビデオカメラを設置し、水槽内での産卵行動の撮影に成功した。本種は雌雄のペアを形成せず、雌雄それぞれ産卵基質にそって下方から上方に遊泳しつつ、少量ずつ放卵・放精した。この性質により、卵は人工産卵基質にまんべんなく付着した。

 

[成果の活用面・留意点]   

  1. シュロマブシによる人為産卵誘導は、極めて有効な受精卵獲得技術として、種苗生産現場で利用し得る。
  2. 開発した産卵誘導技術を天然産卵場に適用する方法として、定置網内部に人工産卵基質を設置する方法を考案し、実施に向けた準備を急いでいる      

[具体的データ]

図1. 人工産卵基質によるニシンの産卵誘発

表1. 人工産卵基質による産卵誘発試験の結果例


[その他]
研究課題名:ニシン資源回復技術開発のための再生産特性の解明と人為的産卵制御に関する基礎研究
予算区分 :科学技術振興調整費
研究期間 :平成9年度
研究担当者:北海道区水産研究所 資源増殖部 浅海育種研究室 松原孝博
発表論文等:・古屋康則・中島才喜・尾花博幸・山本和久・征矢野清・松原孝博:飼育ニシン雄の初回成熟過程」平成9年度日水学会秋季大会 1997
      ・松原孝博:ニシンの成熟と産卵 おさかなセミナーくしろ´97 1997
       ・尾花博幸・山本和久・松原孝博:人工産卵基質によるニシンの産卵誘発 栽培漁業技術開発研究、25(2)、75−80 1997
目次へ戻る