近年の北太平洋西部亜寒帯循環表層域における低塩分化について


[要約]

1987年以降の北太平洋西部亜寒帯循環を横切る定線の表層塩分値の経年的な変化を調べたところ、1994年以降縁辺海を含め循環全体で低塩分化の傾向が認められた。これらの変動は中層以深の高温・高塩分化と連動していると考えられる。

北海道区水産研究所・亜寒帯海洋環境部・海洋動態研究室
[連絡先]0154−91−9136
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]資源生態
[対象]海洋構造
[分類]研究

[背景・ねらい]

  北太平洋西部亜寒帯循環における亜寒帯水系の水塊特性、及びその経年的な変動を明らかにするため、北水研の関与する観測定線のデータ解析を行った。用いた定線データは@西部亜寒帯循環の中央を通る東経 165度定線(165゚E-line、1992年 7月〜1998年 7月)、Aオホーツク海と北太平洋を結ぶ北ウルップ水道定線(NU-line、1988年 9月〜1998年 9月)、B道東海域の親潮を横切る厚岸沖定線(A-line、1987年 4月〜1998年10月、年 6〜 7回)である。図1に各定線の位置を示す。@とAのデータは年1回のみの観測について、Bについては観測が行われた月毎のデータについて年平均値および偏差を求め、規格化した。さらに、表面で採水した海水の塩分値を用いて各定線における表面塩分の変動傾向を見た。

[成果の内容・特徴]

  @とAのデータから、北太平洋西部亜寒帯循環の中層(26.5σ以深)で1994年以降高温・高塩分化の傾向が認められ、 逆に26.5σ以浅で低温・低塩分化の傾向が認められた。
  オホーツク海から北太平洋にかけての定線( NU-line)における表層の塩分、及びその規格化された偏差の経年変化を図2の上下に示す。表層の低塩分化はオホーツク海、北太平洋の両海域で1994年に始まり、現在に至っている。また東経 165度定線でも1994年以降亜寒帯循環全体で低塩分化の傾向が示されている。
  一方、西部亜寒帯循環の南西端にあたるBのデータには1995年〜1997年にかけて表層の塩分が低下する傾向が認められ(図3)、低塩分化の傾向が亜寒帯循環全体に及んでいることが明らかになった。

[成果の活用面・留意点]

  亜寒帯循環表層の低塩分化と26.5σ以浅の低温・低塩分化、また26.5σ以深の高温・高塩分化は連動し、亜寒帯循環全体に及ぶ変動が生じていると考えられる。厚岸沖定線における表層の塩分値は現在平年の値に戻っているが、今後更に監視を続ける必要がある。また、これらの変動現象の原因を探るには、その源と考えられるカムチャツカ半島東岸域を含むロシア共和国 200海里水域の調査・観測、並びに既存資料の取得を行う必要がある。

[具体的データ]

図1.各観測定線の位置

図2.NU-lineにおける表層塩分の経年変化 

図3.A-lineにおける表層塩分の経年変化 


[その他]
研究課題名:北太平洋中層水の形成におけるオホーツク海の役割に関する研究
予算区分 :科・総合研究「亜寒帯循環」
研究期間 :平成10年度(平成9年〜平成13年)
研究担当者:北海道区水産研究所 亜寒帯海洋環境部 海洋動態研究室 川崎康寛
発表論文等:On the year-to-year change in subarctic water characteristics around the Kuril Islands. PICES scientific report, in press, 1999.

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