北太平洋亜寒帯水域におけるカラフトマスとシロザケとの種間関係


[要約]

ベーリング海では、カラフトマスの資源量変動がシロザケ未成熟魚の分布を変化させ、間接的にシロザケの成長量にまで影響を及ぼす種間関係の存在が示唆された。

北海道区水産研究所・亜寒帯漁業資源部・浮魚・頭足類生態研究室
[連絡先]0154−91−9136
[推進会議]北海道ブロック水産研究関係試験研究推進会議
[専門]資源生態
[対象]さけ
[分類]研究

[背景・ねらい]

  カラフトマスは北太平洋亜寒帯水域に生息する遡河性魚類の中で最も多い資源量をもつ。このカラフトマスとシロザケの沖合生活期の分布海域は重複しているが、カラフトマスがシロザケの分布密度や成長に対しどのような影響を及ぼしているか明らかになっていない。本研究では北太平洋亜寒帯水域において実施されてきたさけ・ます資源調査資料を用いて、カラフトマスとシロザケの種間関係について調べた。

[成果の内容・特徴]

  1. ベーリング海におけるカラフトマスのCPUE(調査流網 30 反当たりの漁獲尾数)の経年変化には、奇数年に高く、偶数年に低くなる明瞭な隔年変動があった(図1 (a))
  2. シロザケの未成熟魚のCPUEの経年変化にも隔年変動がみられたが、カラフトマスの変動とは逆に奇数年に低く偶数年に高かったが、シロザケの成熟魚のCPUEにはこの様な隔年変動は存在しなかった(図1 (b))
  3. シロザケ未成熟魚資源量に現れる隔年変動は、カラフトマスの資源変動に応答したシロザケ未成熟魚の分布域の変化によって生じたことを示唆する。
  4. シロザケの各年齢間の成長量を調べると、2才魚から5才魚間の成長量が経年的に減少しており(図2 (a))、更にこの成長量はシロザケの資源量に対して密度依存的であった(図2 (b))
  5. これらの結果より、ベーリング海では、カラフトマスの資源量変動がシロザケ未成熟魚の分布を変化させ、間接的にシロザケの成長量にまで影響を及ぼすという種間関係の存在が示唆された。

[成果の活用面・留意点]

  北太平洋遡河性魚類委員会(NPAFC)の枠組みの下で実施されているさけます調査船データベースを整理し、沖合海域におけるさけます資源豊度を把握することができるようになった。日本系シロザケ資源量の増加に伴い、沖合海域における環境収容力をめぐるシロザケと他のさけます類との種間関係が注目されている。本研究成果は、カラフトマスがシロザケの成長量に間接的に影響しており、環境収容力を考える場合カラフトマスの資源量変動にも留意する必要があることを示している。今後の課題として、カラフトマスとシロザケの胃内容物や生息していた海域の餌環境を時空間的に把握し、両者間に餌生物を通しての競合が存在するか調べる必要がある。

[具体的データ]

図1 (a)Bering海におけるカラフトマスのCPUEの経年変化
    (b)Bering海におけるシロザケのCPUEの経年変化

図2 (a)シロザケの各年齢間成長量の経年変化
    (b)シロザケのCPUEとシロザケ成長量の関係 


[その他]
研究課題名:さけ・ます類の分布・資源量と海洋環境との関係の把握
予算区分 :プロジェクト さけます資源調査費
研究期間 :平成10年度(平成10年〜平成12年)
研究担当者:北海道区水産研究所 亜寒帯漁業資源部 浮魚・頭足類生態研究室  福若 雅章・東屋 知範・森 賢・木下 貴裕
                亜寒帯海洋環境部 高次生産研究室  山村 織生・飯泉 仁
                国際海洋資源研究官  石田 行正 
発表論文等:

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