おさかなセミナーくしろ1993:イカの科学 その生態・漁業・利用

パンフレット表紙
パンフレット
PDF 15MB
  • パネル展
    • 平成5年8月4日~8月22日 釧路市立博物館(1Fエントランスホール)
  • 講演会
    • 平成5年8月7日 14:00~16:20 釧路市立博物館
  • 講演内容
    1. イカ資源・生態研究の最前線 (北海道区水産研究所 中村好和)
    2. 道東のスルメイカ漁業 (道立釧路水産試験場 高 明宏)
    3. イカの利用加工 (道立釧路水産試験場 木田健治)

おさかなセミナーくしろへ ホーム


「イカ資源生態研究の最前線」

日本周辺の主なイカ類 

 イカの仲間は、軟体動物門(巻貝、二枚貝などを含む大きなグループ)の中の頭足網(オオムガイ、イカ、タコの仲間)に属しています。その中にはオオムガイの仲間、コウイカの仲間、ツツイカの仲間、コウモリダコの仲間、タコの仲間の5つの目が存在し、このうちのコウイカ目とツツイカ目を合わせたものをイカと呼んでいます。コウイカ目には胴が楕円形で、体の中に舟形をした石灰質の甲を持っている仲間が多く見られます。コウイカはこの仲間に入ります。ツツイカ目には、コウイカ目のように大きな甲は持たず、胴も筒状で細長いものが多く見られます。この仲間には眼が透明な膜によって覆われている閉眼亜目と、眼が膜によって覆われていない開眼亜目があります。前者にはヤリイカ・ケンサキイカを含むジンドウイカ科が含まれ、一般に沿岸回遊性のものが多く、後者にはスルメイカ・アカイカを含むアカイカ科、ホタルイカを含むホタルイカモドキ科の他に多くの科が含まれ、一般に沖合回遊性のものが多いようです。(中村)

世界のスルメイカ類

 スルメイカ類は3つのグループに分けられ、そのうちのイレックス亜科には、「まついか」と呼ばれるアルゼンチンイレックスを含む2属5種が含まれ、アカイカ亜科には「むらさきいか」と呼ばれるアカイカを含む6属10種程度が含まれます。アカイカやイレックスの仲間はほとんどがさきいかやロールイカなどに加工されています。スルメイカ亜科にはスルメイカ、ニュージーランドスルメイカなどを含む3属9種程度が含まれます。スルメイカやミュージーランドスルメイカは刺身用や「するめ」として利用されています。昔、「するめ」にするためのイカのことをスルメイカと呼んでいました。「するめ」にするためのイカにはヤリイカ・ケンサキイカを使った「一番するめ」と呼ばれる高級品と、“スルメイカ”を使った「二番するめ」と呼ばれる普及品があります。このごろはニュージーランドスルメイカが、スルメイカの代用品として出回っています。さしずめ「三番するめ」というところでしょうか?(中村)

スルメイカの日齢を知る

 スルメイカの寿命は、およそ1年であると考えられてます。ただし、日本のまわりでは、子供のスルメイカから大人のスルメイカまでいろいろな大きさのスルメイカが同じ時期にとれることから、スルメイカはいろいろな時期に、たとえば秋とか冬とかなどに生まれていると考えられています。いままでは、生まれた時期を確かめる方法はなかったのですが、スルメイカの飼育実験の結果、平衡石に日輪があることがわかったので、この日輪を数えることで、いつごろ生まれたのか、生まれてからある大きさになるまでに何日ぐらいかかったのかなどがわかるようになりました。このようなことを知ることは、スルメイカの資源を研究する上で、非常に重要なことです。

  なぜ1日に1本ずつ輪紋ができていてゆくのか、よくわかっていませんが、1日の間に平衡石が盛んにできてゆく時間とそうでない時間とがあるために輪紋ができると考えられます。(中村)

バイオテレメトリーとは

 バイオテレメトリーという方法は、自然の中で観察するのがむずかしい動物の行動を調べるのに非常に良い方法です。水中の動物には超音波を発する、陸上の動物には電波を発する送信器が使われます。いままでに調べられている動物は大型のものが多いです。それは送信器を取りつけても、行動に影響しないようにするためです。魚やイカなどでは体重の2~3%以下の重さの送信器が使われています。

 送信器には水深の他にも水温などの情報を送ってくる種類もあります。これらの情報は、信号(パルス)を発する間隔の違いとして送られてきます。たとえば、水深が深くなるにしたがって信号の間隔が一定の割合で短くなってゆきます。送信器からの信号は、送信器の中の電池が切れるまで発せられます。アカイカに取りつけた送信器の電池の寿命は4~7日ぐらいあります。(中村)

アカイカの日周鉛直移動

 バイオテレメトリーによるアカイカの追跡をこれまでに17回行いましたが、その結果をまとめると、アカイカは索餌海域(成長のために餌をさがし求めている海域)でも産卵海域でも、明らかな日周鉛直移動をすることがわかりました。索餌海域では、夜間は海表面から水深20~40mにある水温躍層(水深とともに水温が大きく変わるところ)までの間をおもに泳ぎ、昼間は水泳150~300mの間をおもに泳ぎます。一方、産卵海域では、夜間は海表面から水深70mぐらいまでの間を、昼間は水深500~700mの間をおもに泳ぎます。 なぜ日周鉛直移動をするのかは、よくわかっていませんが、昼間は深くて暗いところにいて、アカイカを食べる動物(オットセイなど)から身をかくしているのかもしれません。産卵海域は索餌海域よりも水が澄んでいるので、産卵海域では昼間より深く潜らなければならないのかもしれません。 (中村)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム


「道東のスルメイカ漁業」

スルメイカの一生

 日本近海のスルメイカは主に日本列島南部海域、東支那海で生まれ、発生時期の異なる夏生まれ群、秋生まれ群、冬生まれ群の3群に分けられます。道東海域に来遊するスルメイカは冬生まれ群で、主に12月~3月に発生したものです。1尾の雌の卵数は数十万粒、卵経は0.7~1mmほど。受精してから孵化までの期間は水温14-21℃で4~5日です。リンコトウチオンと呼ばれる幼生はダルマのような奇妙な形をして遊泳力がなく、日本海では対馬暖流、太平洋では黒潮に運ばれて北上します。7月に道東海域に現れるころには、外套長が15-16cmになっています。北上回遊するのは索餌のためで、胃袋の中に動物プランクトンや魚、時にはイカも見られます(共食い)。道東海域では10月を中心に産卵場へ向けての南下回遊が始まります。しかし根室海峡では11月末になっても産卵に向かわないスルメイカが多数見られることがあり、それらはそのまま死んでしまうと推定されます。産卵後の雌はもちろん、雄も生後1年ほどで死んでしまいます。(高)

スルメイカの外部・内部形態

 タコは足が8本なので「八ッちゃん」といわれます。では、イカは10本足だから「十ッちゃん」ということになりますが、意外なことに8本足のイカもいるのです。(イカの1種ータコイカ)。うっかり「足」といいましたが、実は「腕」というのが正しいのです。スルメイカでは10本腕のうち2本は餌を捕まえるための「触腕」です。いわゆる胴体は「外套膜」、耳は「鰭」というのが正しいのです。鰭のある方が後ろで、足(腕)の方が前に当たります。ちなみにスルメイカは前後どちらへでも泳ぐことができます。

 腹の中の「ゴロ」というのは「肝臓」です。「スミ」と呼ばれる黒い液は「墨汁」、それを収める入れ物が「墨汁嚢」です。魚でないのにスルメイカにも「鰓」があります。雄の精巣は動物の「睾丸」に当たります。(高)

スルメイカ漁場および海洋構造

 北海道太平洋海域では、スルメイカは主に釣り漁法によって漁獲されます。漁期は7月~11月で盛漁期は8月~10月です。しかしオホーツク海の根室海峡では釣りのほかに特に11月には定置網でもまとまって漁獲されます。

 北海道の太平洋側沖合には北東方から親潮が南下し、沿岸にはオホーツク海から宗谷暖流が流入して道東沿岸流となり、親潮と道東沿岸との間を南西方向に流れています。日本海からは津軽海峡を通って津軽暖流が流入します。スルメイカは餌の豊富な親潮域で索餌をしながら、水温のより高い暖流域に遊するので、沿岸に好漁場が形成されます。(高)

スルメイカ漁具・漁法

 スルメイカは釣り、定置網、底びき網などで漁獲されますが、主な漁法は釣りです。昭和20年代までは釣り糸に擬餌針を付けて、手で釣り上げる簡単な方法でした。昭和30年代から巻き取りリールの付いた釣り機が使用されるようになりました。昭和40年ころから自動釣り機が普及し、以降その機能の改善がすすみました。

 現在ではコンピューター内蔵の釣り機が普及しています。1本の釣り糸に擬餌針が25~30個付いていて、自動的に釣り糸を上下させ、左右舷別の段差運転、各種のシャクリ運動機能も備えています。弾力、色、形、大きさなどを組み合わせたさまざまな擬餌針が造られています。

 スルメイカを集めるための集魚灯も改善され、近年、経済性の高いハロゲン灯やメタルハライド灯が普及しました。(高)

スルメイカの漁獲量変動 

  スルメイカ漁獲量(全国)は1950年に60万トン、1960年代後半に70万トン近くに達しました。しかしその後、減少の一途をたどり、1980年以降は20万トン以下になりました。1950年~1970年には太平洋側の漁獲量が日本海側を上回っていましたが、1970年以降はそれが逆転しました。

  道東海域では1968年(19万トン)をピークに以後激減し、皆無の年もありましたが、1990年から低い水準ながら増加の傾向に転じ、1992年には道東・道南の合計は9万トンと20年ぶりに豊漁になりました。

  スルメイカ資源の増加傾向はここ数年来、日本海側でも見られます。1992年の漁期後半に、道東各地で魚価の暴落を防ぐために、漁業者による自主的な漁獲規制さえ行われました。ですから見かけ上の漁獲量とは違って、来遊資源量はかなり多かったといえます。(高)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム


「イカの利用加工」

各種イカの用途

 国内で量的に多く流通する主なイカは、スルメイカ、アカイカ、アルゼンチンマツイカ、ニュージーランドスルメイカの4種類(以上、スルメイカ類)で、これらイカ類の年間の総供給量(年初在庫、輸入を含む)は約62~77万トン、需要量は約50万トンで推移しています。イカの用途は各種イカの特徴と価格によって生食、惣菜用と加工原料に大別されます。スルメイカは大部分が刺身を主とした生食用で、加工原料としても広く利用されています。アカイカは内臓・足・皮を除去して冷凍したロール・ベタやさきイカ、くん製などの加工原料になります。アルゼンチンマツイカは調理用の惣菜、一本凍結、干しするめ、さきイカ、塩辛など、ニュージーランドスルメイカは刺身を主とした生食用の他、干しするめ、粕漬などの加工原料になります。しかし、年によりこれらの供給量の増減とそれに伴う価格変動によってその用途配分が変化します。(木田)

イカ加工品の種類

 イカの加工品は昭和30年頃までは、干しするめとその加工品、塩辛に限られていましたが、その後、生のイカを原料にしたくん製、姿焼、ソフトさきイカが造られ大衆珍味として消費が拡大しました。その主な原因は剥皮機、切断機、イカさき機、包装機等の発達により大量生産が可能になったことが挙げられます。現在イカ加工品は干しするめとその加工品を始め、調味加工品、塩辛、漬物、冷凍食品など、その種類は極めて多様化しています。

○イカ塩辛
 イカ塩辛は赤作り(肝臓を加える)、白作り(剥皮した胴肉のみ)、黒作り(肝臓とイカの墨を加える)の3種類があり、主にスルメイカを原料にします。近年の塩辛は、塩分が5~6%の低塩分で熟成期間が短いのが一般的になっています。(木田)

イカ肝臓の利用

 イカの肝臓は一部塩辛などに使われますが、主に飼肥料や肝油の原料になっています。肝臓は含まれているタンパク質の分解酵素で自己消化させたのち、遠心分離し、固型分と油分に分離します。固型分からはイカミールや吸着飼料が造られ、家畜用飼料(ニワトリ・ウシ・ブタなど)、養魚用餌料(エビ・ウナギなど)、肥料(カンキツ類など)として使われます。油分は精製して肝油とコレステロールに分離します。肝油は養魚用のフィードオイルや塗料、印刷用インクなど、また、さらに高度の精製を行ってEPA、DHAなどを含む健康食品原料になります。コレステロールは化粧品・医薬品・液晶などの原料になります。液晶はペンダント、ネクタイピンなどの装飾品や温度計に利用されています。(木田)

イカ肉の特性

(1)組織構造
 スルメイカの胴部は4層からなる皮におおわれ、4層目の皮は筋肉と強く結合しています。一般に手で剥皮できるのは2層目までで、加熱すると熱収縮して1~3層の皮は肉部分から離れ易くなります。皮の下の肉部分には巾の広い筋せん維層Aがヨコに並び、タテ(表皮側→内皮側)には巾の狭い筋せん維層Bが並んでいます。タテのせん維は加熱すると収縮します。イカ胴肉がヨコにさけ易く、加熱すると表皮を内側にして丸まるのはこのような組織構造によるためです。このような組織構造は他のイカも基本的にも類似しています。

(2)体色変化
 表皮の1層と2層の間には黒褐色の色素細胞があります。筋肉が生きているときはこの色素細胞は伸縮運動をしているので表面は黒褐色に見えますが、筋肉が死滅すると色素細胞は収縮するので表面は白くなります。鮮度がかなり低下すると色素細胞から色素が溶出してイカ肉全体が赤くなります。(木田)

イカの栄養

 イカ肉の一般成分は概ね水分77%、タンパク質20%、脂肪1%前後で脂肪が少ないのが特徴です。したがってイカ肉は低カロリー食品です。タンパク質を構成するアミノ酸は必須アミノ酸の組み合わせが良く牛乳や卵と同様に良質な蛋白質です。イカ肉はコレステロールが多いのですが、コレステロールの蓄積を抑えるタウリン(アミノ酸の一種)が多く含まれているため、食べても血中のコレステロール値を上昇させる心配はありません。すなわちタウリンとコレステロールとの量的比率(T/C比)が2以上ですので、コレステロール値は上昇しないわけです。

 また、イカ肝臓の肝油には、EPA・DHAが多く含まれています。EPA・DHAはタウリンと同様にコレステロール値を下げる作用があり、DHAは記憶学習機能の低下防止などに効果があります。(木田)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム