おさかなセミナーくしろ1996:道東のサンマ その生活からおいしい食べ方まで

パンフレット表紙
パンフレット
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  • パネル展
    • 平成8年8月1日~9月1日 釧路市立博物館(1Fエントランスホール)
    • 平成8年9月3日~9月6日 釧路市生涯学習センター(2F展示ホール)
  • 講演会
    • 平成8年9月6日 14:00~16:30 釧路市生涯学習センターまなぼっと幣舞(2F多目的ホール)
  • 講演内容
    1. サンマの生活と漁業 (道立釧路水産試験場 本間隆之)
    2. サンマの量を測る (北海道区水産研究所 本田 聡・福田雅明)
    3. サンマの栄養と利用 (道立釧路水産試験場 辻 浩司)
    4. おいしいサンマ (釧路短期大学 芳賀みずえ)

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「サンマの生活と漁業」

サンマの分布と生態

 世界には5種類のサンマがいます。
 主に漁業の対象となっているのは皆さんお馴染みの「サンマ」です。
 サンマは渡り鳥のように季節ごとに南北に大きく移動します。
 これは北の冷たい海へ餌を食べに行く「北上回遊」と南の温かい海へ卵を産みに行く「南下回遊」に分けられます。

 回遊する海域は北は千島列島やオホーツク海、南は奄美大島から沖縄あたりまでです。マグロにはかないませんがマイワシ、マサバなどに比べて、南北にかなり大きく回遊します。
 サンマが北上回遊する北の海には餌の動物プランクトンがたくさんいます。サンマは夏にこの動物プランクトンをいっぱい食べて太ります。
 ですから釧路などで8月~9月に水揚げされるサンマは脂がのって美味しいのです。(本間)

サンマの餌と卵

 サンマの餌は動物プランクトンです。
 サンマが食べているプランクトンは主にカイアシ類のネオカラヌス・プルムクルスとオキアミ類のツノナシオキアミです。千島列島~道東沖にかけて流れる冷たい親潮にたくさん分布しています。
 サンマは三陸沖から九州にかけての暖かい黒潮が流れる海で卵を生みます。
 卵は流れ藻や流木など海に浮かんでいる物に腹をこすりつけるようにして産みつけます。(本間)

サンマの獲り方

 皆さんの食卓にのぼるサンマのほとんどは現在、「棒受網」と呼ばれる漁法で漁獲されています。これはサンマを船のそばに集めて下からすくいあげて漁獲する方法です。

 珍しいサンマの獲り方として、新潟の佐渡島などで昭和40年頃まで行われていた「手づかみ漁業」があります。これはサンマが海に浮いている物に卵を産む習性を利用した漁法です。方法は海に浮かべたムシロに卵を産みに寄ってくるサンマを素手で捕まえるという簡単なものです。

 さて、現在行われている棒受網はサンマが光に寄ってくる習性を利用しますが、積極的にサンマの群れを探してから、光で更にたくさん集めます。

 探すときには超音波を使ったスキャニング・ソナーや魚群探知機などの機器を使います。これらの機器を使うと夜だけでなく、日中からサンマの群れを探すことができます。(本間)

棒受網の方法

 魚群を見つけたら、集魚灯を点灯して船の右側にサンマを集めます。その間に左側に網を海の中に降ろしておきます。
 サンマが十分に集まったところで網の方にサンマを誘導します。そして網の上にサンマが集まったところで、赤い光をつけます。
 実はサンマは光の中で特に赤い光が大好きです。サンマが赤い光に気をとられている隙に、大きな網で下からすくいあげて一網打尽にします。
 それから網を船に寄せて、フィッシュポンプでサンマを水ごと甲板へ吸い上げて、氷と一緒に魚倉へ入れます。
 棒受網はこのように効率が良く、しかもすくいあげて漁獲するので、魚は網にからまって傷つくことがありません。
 でも、卵を産む時期が近づいたサンマは光に寄って来ないので獲ることが出来ません。
 サンマも人間みたいに赤いネオンに弱いんですね。(本間)

サンマ漁業

 日本ではサンマ漁業はかなり昔から行われています。古典落語「目黒の秋刀魚」があるように、庶民の味として親しまれていました。
 昔は陸の近くで漁獲する沿岸漁業でしたが、エンジンの付いた動力船の普及とともに沖合漁業として発展しました。そして棒受網の普及もあって漁獲量も多くなりました。

 道東地方では昭和20年代からサンマ漁業が盛んに行われるようになり、現在、道東地方のサンマの漁獲量は全国の2~3割を占めています。
 オホーツク海や日本海のサンマ漁業は、かつては盛んでしたが、この頃はあまり行われていません。
 サンマ棒受網漁業(10トン以上の漁船)の操業期間は8月6日~12月25日の間と決められています。
 それ以外の期間は他の漁業をして経営の安定化をはかっています。(本間)

サンマ漁海況予測

 多くの研究機関が参加してサンマ漁業が始まる前に、天気予報のように漁海況を予測します。
 数隻の調査船で広い海域を一斉に調査して、サンマの分布を調べる漁獲調査や海の水温や塩分を調べる海洋観測などを短い期間に行います。

 調査結果から「サンマの資源は多いか少ないか?」「どのくらいの大きさのサンマがどのくらいいるのか?」「サンマがたくさん獲れる所はどこか?」「水温は高いか低いか?」「親潮など海流の状況は?」を予報文として発表して漁業者に役立ててもらっています。

 他に人工衛星の赤外線センサーを利用して、宇宙からの海の水温を測っています。表面の水温しか測れないことと、霧の日が多い道東の海では測るチャンスが少ないのが欠点ですが、広い海域を一度に調べることができ、サンマがたくさん獲れる潮境が早く分かります。(本間)

サンマ漁場の長期的変動

 サンマの漁場は長期的に大きく移動します。漁場が「日本に接近」→「日本から離れる」を10数年周期で繰り返します。なぜ、このような大規模な変動をするのでしょうか?
 漁船にとっても、これは重要なことです。

 漁場が日本から近いと、漁船は時間と燃料をあまり使わずに1日程度で出港してサンマを獲って戻って来れます。逆に漁場が遠いと時間も燃料もかかります。
 この謎を解決するために、海洋研究からのアプローチとして各研究機関が共同で海の水温を1,000mまで観測して、海流の動向を詳しく調べています。
 解明するまで、まだ時間がかかるでしょうが、解明されれば、サンマ漁業に大きく役立つでしょう。(本間)

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「サンマの量を測る」

国連海洋法条約と私たち

  最近、TVや新聞で「国連海洋法条約」という言葉を聞くことが多くなりました。

  この条約に加盟した国は、沿岸200カイリ(1カイリ=1852m)内の生物資源を優先的に利用する権利を持つと同時に、その資源を維持し、管理する義務を果たさなくてはなりません。
  魚をとる権利は分かりやすいですが、では、[資源を維持し、管理する義務]とは一体どんなことを指すのでしょう?

  毎年魚は子供を生み、それが育って魚の数は増えます。この増えた分だけ獲っていれば、いつまでも魚は減りません。従って資源を維持し管理するということは、この獲ってよい量を正しく推定して、それ以上獲らないようにすることです。
  獲ってよい量を正しく決定するためには、魚の総量、親の量とそこから生まれる子供の量の関係、それが親になるまでに死んでしまう割合など、明らかにしなければなりません。(本田)

サンマの量の測り方(1)

 広い海の中にいる魚の量はどうやって測るのでしょう?

 サンマがいっぱいいるところで漁をした漁船が一網でたくさんサンマを獲り、サンマが少ないところで漁をした漁船が、同じ一網で少ししか獲れなかったとしたら、それぞれの漁船が一網で獲ったサンマの量は、それぞれの漁場にいたサンマの量に比例していると考えます。これを単位努力あたり漁獲量といい、この数字は漁業者に報告してもらいます。

 あとは、漁場にいたサンマの量と、漁船が一網で獲ったサンマの数との比率(=漁具能率)が分かれば、単位努力あたり漁獲量×漁場面積÷漁具能率で、その漁場にいたであろうサンマ全体の資源量を計算することができます。(本田)

サンマの量の測り方(2) -計量魚探を使って-

  先の方法では、漁場の広がりがサンマの分布域をカバーしていることが資源量推定の条件となります。また漁具能率の正しい値が分かっていなくてはなりません。しかし、近年ではサンマ漁場はサンマ分布域のうち沿岸よりの一部のみに形成されるため、このままで計算をすると量を少なく見積もる恐れがあります。また棒受網の漁具能率の算定は非常に難しく、最近年の棒受網操業における漁具能率は計算されていません。そこで現在では[漁業から独立した資源量推定法]の開発が試みられています。

 魚群探知機は、海中に音を出して、魚に反射してかえってきた音の強さから、魚のサイズ、水深と分布量を調べる機械です。これを積んだ船で調査することにより、船の通った下に分布した魚群量を計算する方法が試みられています。

 しかし問題もあります。サンマは表層に分布する傾向がありますが、あまりに浅いところに分布する個体は魚探に映りません。この分をどのように補正したらよいか、今の私たちの仕事の一つです。(本田)

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「サンマの栄養と利用」

サンマの水揚げと利用状況

 サンマは北海道から東北、関東地方で水揚げされ、北海道のなかでは釧路、厚岸、花咲港などの道東地方で主に漁獲されます。水揚げ日本一は東北地方の宮城県で9万トン以上の漁があり、関東地方では千葉県で主に水揚げされています。

 サンマの需要は食用としての利用が多く、生鮮、冷凍、缶詰、食用加工が80%にもなります。最近、漁獲量が減少してしまいましたがイワシの食用化率が5%弱であった点からもサンマが食卓に馴染みの深い魚であることが分かります。食用加工は開干し、糠漬け、酢漬、丸干し、いずしなどがあり、缶詰では水煮、蒲焼、味付けがあります。餌料としては主にマグロ延縄に使用されています。北海道に比べて、全国では冷凍向けのサンマが60%を占めます。これは9月後半から10月にかけて水揚げが集中するため、冷凍し、貯蔵する必要があったわけです。こうして秋に限らず、いつでも食べることができ、冷凍原料を用いて加工品の製造が可能となっています。(辻)

サンマの栄養

 「サンマが出るとあんまが引っ込む」と言われるほど栄養のあるサンマは消化吸収率の高いタンパク質が豊富で、さらに良質の脂肪が多く含まれています。脂肪に含まれるEPAには脳血栓や心筋梗塞を予防する働きがあり、またDHAは乳ガン、大腸ガン、肺ガンの抑制、学習機能の向上、老人性痴呆症の防止に効果があることが知られています。

 サンマを背中、腹、皮、内臓に別けてEPAとDHAを測定してみると、皮と内臓にも多く含まれていることが分かります。また、皮に近い部分の茶褐色の肉は血合肉といわれ、EPAやDHAのほかにも各種ビタミンと鉄分が豊富に含まれているので積極的に食べることをお勧めします。その他にも日本人に最も不足しているカルシウムとその吸収を助けるビタミンDが多く、また肝臓の働きを強化するとされるアミノ酸の一種、タウリンも含まれています。このように、サンマは栄養的に優れ、健康維持に役立つ魚です。(辻)

大きさ別のサンマ脂肪量の季節変化

 一般に、脂肪量が多い回遊性の魚は餌をたくさん食べる時期(索餌期)と産卵期では脂肪量が大きく変化します。道東沖で8月後半から水揚げされるサンマは千島沖で餌(動物プランクトン)を十分とり、南下してきたものです。ここでは、体長29㎝以上が大型、24~28㎝は中型、それ以下を小型としました。脂肪量は体長が大きいものほど多く含まれており、8月の大型では脂肪が20%以上にも達します。また、夏から秋の終わりに向かって脂肪量は減少し、特に小型のサンマでは5%程度まで落ちてしまいます。

 このように、サンマの脂肪量は季節や大きさで変動があり、また同じ大きさのサンマなら太めのものが脂肪量も多い傾向にあります。(辻)

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「おいしいサンマ」

サンマの鮮度変化

  魚は死後一定時間が過ぎると硬化します。これを死後硬直と言い、硬直をおこすまでの時間や硬直状態の続く時間は、魚の種類や年齢、生きていたときの状態、漁獲の方法、死後の取り扱い方などによって異なります。これはATP(アデノシン三リン酸)という物質が分解され減少することが原因で筋肉収縮がおこり歯ざわりが良くなります。そして分解過程において、乳酸やうまみ成分のイノシン酸などが生成されるため、硬直後半が最高においしくなります。その後魚は軟化します。これは、細胞組織が生前からもっている酵素の作用でたん白質が分解されて生じるため自己消化と言われます。酵素作用は、熱や酢で処理すると停止します。魚の筋肉はもともと無菌ですが、エラや消化管の内部に多数の細菌が存在し、自己消化と平行してか、やや遅れて腹腔内や筋肉内へ侵入し、成分を分解して腐敗を起こします。水は0℃で凍り始めますが、魚や一般食品は-2℃~-5℃で凍り始めます。冷蔵庫は品質を保持するのではなく、品質低下を遅らせるものですから、サンマの鮮度とおいしさを保つには、パーシャルフリージング(-2℃)で保存し3日以内に食べるのが良いでしょう。(芳賀)

調理の四面体におけるサンマ料理

 ジュージュー焼けた丸まんまのサンマ。キラキラ光るさしみ。秋ならではの醍醐味です。それが今日では、冷凍技術の向上やコールドチェーンの確立により、年中どこででもサンマが食べられます。脂の多いズングリしたサンマ。脂の落ちたスリムなサンマ。ピンと堅いサンマ。少しくたびれたサンマ。それぞれに食べ方が違います。脂が多いと、どのように調理してもおいしいのですが、干物にはむきません。鮮度の落ちたサンマは、調味料や香辛料を多めに使用します。サンマの個体にあった料理を考えるとき、調理の四面体を使うと便利です。

 調理の四面体とは、三角錐の底面3つの頂点に熱媒体である水、空気、油を置き、残りの頂点に火を置きます。火と水を結ぶラインは煮物で、煮ながら味付けができます。火と空気を結ぶラインは焼き物で、素材のおいしさをストレートにひき出してくれます。火と油は揚げ物ラインとなり、油をおぎなって食べます。単一調理はこれら稜線上にスポットし、揚げ煮や焼き煮等の複合調理は面上にスポットします。底面には、火を使わないまま物料理が入ります。

 副材料や調味料の工夫でもっとおいしい発見があるかもしれません。(芳賀)

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