おさかなセミナーくしろ実行委員会共催
「博物館特別講演会」

1.日時

平成16年3月11日(木) 13:30〜16:00

2.場所

釧路市立博物館講堂

3.主催

釧路市立博物館

4.共催

釧路市動物園、おさかなセミナーくしろ実行委員会、日本生態学会北海道地区会、釧路市立博物館友の会、釧路自然保護協会

5.演題と講演者


(1)「漁業の世界的危機:漁業管理がなぜそんなに難しいのか?」

講演者
コリン・W・クラーク氏
 王立協会フェロー、カナダ王立協会フェロー
 カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授
【コリン・W・クラークは、応用数学者で、氏の教科書「数理生物資源経済学」 およびその教科書に説明されている氏のモデルでも著名です。この他、漁 業管理の教科書も翻訳されており、水産資源管理では世界でもっとも高名 な研究者です。氏の今回の講演では数学・数式は含みません。】
要旨
世界的規模で多くの漁業資源がほとんど枯渇してきています。
そして、そのほとんどが、漁船の総量が大きく許容量を越えており、その収穫による被害です。
現在推奨されている方策として、巨額の資金(アメリカドルにして数億ドル以上)で超過している容量分の船を買い戻すことが提唱されています。
この講演では、この買戻し方策は現在の漁業管理の対処法を大きく変革しないかぎり、失敗するであろうことを提案します。


(2)「調和生態学(和解生態学)」

講演者
マイケル・ローゼンツバァイク氏
 米国、アリゾナ大学、生態・進化生物学教室教授
 Evolutionary Ecology Research(進化生態学研究誌)編集長
【進化生態学の分野では世界の第1人者のひとりです。捕食の動態、採餌 選択、生息地選択、種の多様性などに関する数理理論研究は各種の生 態学の教科書に無数の引用がみられます。】
要旨
この意味は地球環境が有限であるので他の生物種と共存し、資源を共有する必要を説いています。
氏は「調和生態学(reconciliation ecology)」という言葉を作り、この学問の提唱者です。
生物保全のあり方についての人間の認識を変える必要性を説いています。


(3)「餌付けがサルに奇形を引き起こした?−高崎山のニホンザルの個体群動態−」

講演者
吉村 仁 氏
 静岡大学工学部システム工学科教授
【略歴:千葉大学で沼田真教授に学ぶ。ニューヨーク州立大学環境科学林学校で 学位(Ph. D.1989年)を取得、その後、カナダ、バンクーバーでコリン・W・クラーク 教授のもとで2年、デューク大学(アメリカ)、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校、 英国のインペリアル・カレッジなどで研究を続ける。進化生態学が専門、とくに環境 の不確定性が自然選択に及ぼす影響を理論的に考察し、確率論的な自然選択 理論の一般化を試みる。17年ゼミの進化史など各種の進化生態理論の研究を 行っている。】
要旨
1950年代初頭から、高崎山をはじめとする全国の野生サルに対して、餌付けがはじめられました。
この数年後より、各地で奇形サルが頻繁に観察されるようになりました。
高崎山では、一時20個体にも及ぶ奇形サルが見られました。
これら奇形の原因として、食物の農薬汚染、公害近親交配による遺伝疾患などの要因が詳細に調査されましたが、原因として明白に認められる要因は特定できませんでした。
この講演では上述の個体レベルの要因ではなく、餌付けによる選択圧の低下(除去)が奇形の出生・生存を助長したという個体群レベルの要因により明確に理解できることを示します。
環境を良くすると奇形(問題)が増えるという逆説的現象です。
この現象は、特に、動物園の飼育動物の繁殖、そして、近年盛んになった水産業における養殖において起こりうる可能性が高いと想像されます。



司会進行:
針生 勤 氏
釧路市立博物館館長補佐(おさかなセミナーくしろ企画・実行委員)