おさかなセミナーくしろ1994:コンブの科学 その生活・漁業・食べ方

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「コンブとはどんな海藻か?」

海藻類の起源

 一般に、生物の起源を知るのに化石は重要な手段です。しかし、海藻の化石は多くありません。海藻は骨格など持たずに非常に分解されやすい組織でできているからです。では海草類の起源はどのように調べるのでしょうか。

 現在生きている全ての生き物は大昔からの情報を「遺伝」によって体の中に受け継いでいます。遺伝をつかさどるDNAという鎖状の分子の一つひとつの輪の順序(配列)がその情報です。その配列が生物が世代を重ねている間に変化し、遺伝によって子孫のDNAに蓄積されていきます。配列の変化する割合は一定と考えられ、一種の時計の役割をします。もちろん、現在では祖先のDNAは分からないのですが、異なる種のDNAの配列を較べればそれらがいつ頃から独立に遺伝を繰り返し始めたか、つまり種が分かれたか推算することができます。

 しかし、この方法では絶滅した生物は分かりません。ひょっとして、恐竜時代の海に巨大なコンブがあったかも知れません。(飯泉)

世界のコンブの仲間

 生き物に名前を付け、似たもの同士をグループ分けすること(分類学)は大昔から行われてきました。その方法は主に生き物の形によっていました。つまり、その生物しか持たない形や性質を見つけて種の定義をするのです。しかし海草類の場合、大きくなくくりでグループを分ける場合はいいのですが、実際にある海藻を拾ってきた時に外見から何という種であるか判別するのは難しいことがあります。というのは海藻の種を特徴付けると思われていた形が安定していない場合があるからです。同じ種でもその生育環境によって形を大きく変えることがあります、また、性質も環境に適応させて変化する例もあります。海藻のどの性質や形がその種を表しているのか(つまり他の種には見られないか)、今までは分子レベルの研究も含めて研究されています。「分類学の完成」というのはまだありません。海藻についても将来、分類名や分けかた(分類方法)がここに掲げた例から変わるかも知れません。(飯泉)

コンブの生活史-世代交代

 海藻には様々な生活史(生まれてから死ぬまでの生活の仕方)があります。例えば、食用にするアサクサノリは配偶体、一方、胞子体は非常に小さな姿をしています。潮間帯に見られるヒバマタは親から放出された精子と卵子が受精すると再び親と同じヒバマタになり、世代交代をしません。

  このような様々な生活史は〈種の保存・生息領域の拡大〉の戦略の一環と考えることができます。コンブの仲間は体を大型にすることによって多量の遊走子を作ることができるようになりました。遊走子はその海底に付着します。しかし、そこは既に小型の海藻類が生育し、しかも親の大型海藻の日陰で生育するには厳しい環境です。その環境に耐えられる形質を備えているのが微小な配偶体なのです。大型海藻が流出すると、光が海底まで到達し配偶体は成熟し再び胞子体が出現します。子孫を確実に残し生育域を拡大するため、進化の過程でコンブの仲間はこの世代交代という巧みな戦略を選んだと考えられます。(飯泉)

コンブの最先端

 下等植物である海藻類は高等植物のような組織の分化(栄養や水分を吸収する為の根、光合成を行う葉、植物体を支え物質の移送を行う茎、等)があまり進んでいません。しかし、多細胞植物であるコンブには高等植物と似た組織の分化が見られます。

 コンブは体全体から海水中の栄養を吸収できます。葉で吸収された養分を利用して有機物が合成されると、それは表層の内側にある髄層(ずいそう)へ運ばれます。髄層には篩(ふるい)管と呼ばれる細長い細胞があり、その末端はちょうどフルイのように穴があいていて次の篩管細胞に通じています。この細胞を通して物質が移動します。これはちょうど陸上植物で茎を通って養分が葉から根へ、根から葉へ運ばれるのと同じです。その速度はコンブの仲間で1時間5~10cm程度です。移動する機構はまだはっきりとは証明されていませんが浸透圧の差によるものと考えられています。(飯泉)

海の林

 タンパク質などの有機物を炭酸ガスや水から作り出すことのできるのは植物など限られた生物のみです。動物はその植物の生産した有機物を食べて生きています。この植物の作用を、全ての生物の基本となる有機物を余り出す、という意味で基礎生産といいます。

 コンブの群落で生産された有機物はどのように利用されているのでしょうか。ウニやアワビはコンブを食べて成長します。コンブが枯れると小さな動物たち、例えばヨコエビなど、がアタックしたり、バクテリアが分解を始めます。その小型動物やバクテリアをねらって、別の動物(魚やカニなど)がやってきます。またその動物をねらって・・・・・・。このような生物の間の食べたり食べられたりの関係を食物連鎖と呼んでいます。食物のおおもととなる植物が多く基礎生産が高いコンブ群落では食物連鎖を通して豊富な生物が生息できるのです。北海道沿岸の豊かな生き物たちはコンブ群落の恩恵を少なからず受けています。(飯泉)

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「釧路地方のコンブ漁業について」

食用コンブの分布

 北海道で食用として採取されているコンブの種類と分布は、釧路地方を除く地域では、日高地方を主産地として白糠町~渡島半島恵山岬にかけて分布する「ミツイシコンブ」、室蘭市地球岬~渡島半島東部沿岸まで分布する「マコンブ」、渡島の福島~天売・焼尻両島まで分布する「ホソメコンブ」、稚内地方を主産地として増毛町~羅臼町まで分布する「リシリコンブ」の計4種類があります。

 釧路地方では釧路市~根室市歯舞に至る太平洋沿岸に分布する「ナガコンブ」厚岸町~羅臼町沿岸まで分布する「オニコンブ」の計2種類が代表的であり有名ですが、当地方ではこのほかに、釧路市~根室市歯舞ノサップ岬にかけて分布する「ガツガラコンブ」と「ネコアシコンブ」という名前のコンブも各種加工用として採取されています。

 さらに、近年では従来商品価値の低かった「トロロコンブ」という種類が、松前漬けのコンブ原料として非常に好適であるということで、一部で採取されて利用されています。(阿部)

コンブの形

 北海道で採取されているコンブは、葉の部分はすべて「帯状、笹葉状」と呼ばれる形をしていて、若いときの色は「アメ色」と呼ばれる茶色に近い琥珀色で、その後葉が厚くなると褐色になります。また、根の部分の形はコンブの種類により変わりますが、一般的にはすべて「繊維状」と呼ばれる陸上植物の根に似て枝分かれした糸状の形をしています。 「ナガコンブ」は世界のコンブの属中で最も長いコンブで、最大の長さは15~20mにも達します。「オニコンブ」は長さ1.5mから最大のもので4mに達します。このコンブは特に羅臼で非常に品質の優れた製品が取れますが、そのコンブは特に「らうすこんぶ」と呼ばれて、通常のナガコンブよりも高い値段で取引されています。「ガツガラコンブ」は長さが最大で7m程度になります。「ネコアシコンブ」は長さが2~3mです。このコンブは2年目以降の形に他のコンブにはない特徴があり、特に根の部分はあたかも猫の足に似た形をしていて、名前の由来になっています。(阿部)

コンブ漁業

 釧路地方のコンブ漁業は、まず5~6月の期間に拾いコンブ漁とコンブの身入り前に成長を促進するための間引きを兼ねた棹前コンブ漁が行われ、そのあと成コンブ漁が7月中旬~9月にかけての漁期間に毎年行なわれています。

 コンブを取るときの漁具は、左図にあるような形をした「かぎさお」、「ねじり」、「柴まっか・てんじんまっか」、「なげかぎ」と呼ばれ、海底に着生しているコンブの葉体を破ったりせずに上手に採取できるように工夫された道具が使われています。

 コンブは採取した後、浜に上げられて、その日のうちに「乾場」と呼ばれるジャリ等を敷いて整備された広場に並べられて天日乾燥します。また、最近ではコンブの乾燥に人工乾燥機も用いられています。このように乾燥したコンブはその後、葉の選別(選葉)、結束、バンド掛け等の工程を経て、製品として出荷されます。(阿部)

コンブの増やし方・育て方

 コンブは比較的昔から、漁場で増やす方法、または人工的に育てる方法が、色々と考えられて実施されています。

 近年の釧路地方では左図にあるようなロープ等の資財を細工した施設に、室内で人工的に育てたコンブの種(種苗)を付けて、それを海中に設置して育てる「コンブ養殖」、あるいはコンブが発生する前に、コンブの発生や成育の邪魔をする雑海藻を水中ブルドーザーなどの道具を使って駆除し、その跡地にコンブを生やす増殖方法が実施されて、一定の成果をあげています。(阿部)

釧路支庁管内のコンブ生産量の変遷

 釧路地方のコンブ生産量は全道一高く、全道の3割以上を占めます。当地方のコンブ生産量は、昭和9年の約12万トン(生重量)が最高で、このあと戦争による労働力の不足により生産量は減少しました。そして、戦後の生産量は約5万トン前後(製品重量で約9千トン)の状況が続いています。さらに、近年はコンブの発生を促進する効果のある流氷の到来回数が減り、それに伴い雑海藻の繁茂による漁場の荒廃が進んでおり、このままでは今後さらにコンブの生産量の減少する可能性が心配されています。そのため、近年地元では雑海藻駆除事業の実施など、コンブ増産のための各種対策が、多くのお金をかけて実施されています。

 一方、近年はコンブの養殖技術が進歩し、その技術を用いた養殖コンブの生産量がある程度コンブの生産量の増加に貢献するようになりました。特に渡島地域では養殖コンブが5千トン以上生産されており、この地域の全コンブ生産量の5割以上を占めるまでになっています。(阿部)

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「はじめましょう、あなたのための食べ方を」

コンブの用途と流通

 市販されている素干し昆布は、多くの種類があります。採取海域、採取時期、葉体の部位、葉の身入りなどにより、品質、風味など利用上に著しい違いがあるため、銘柄と等級の格付けがされています。

 価格は、道漁連、生産者代表、業界の代表による値決め交渉及び入札によって決まり、価格差は浜格差、等級掛目(掛率指数)と需要動向により決まります。風味の佳いだしの出るコンブが高級品です。この順位は、白口浜真昆布>黒口浜真昆布>羅臼昆布>利尻昆布>本場折浜真昆布>三石昆布>細目昆布>長昆布>厚葉昆布となっています。

 日本は昔からコンブの利用・加工の素晴らしい技術をもっています。真昆布は塩こんぶ・おぼろこんぶ・切りコンブに、利尻昆布は京都の千枚漬けや湯豆腐に代表され、羅臼昆布と合わせてこの3種類は高級だし昆布とされています。三石昆布は家庭用だしや惣菜に、細目昆布は納豆こんぶやとろろこんぶに、長昆布は昆布巻、佃煮などに利用・加工されます。(芳賀)

コンブの成分

 地球創成期の頃、陸上にあった90種類くらいのミネラルが、雨によって海に流れ込み、海水はミネラルのエキスとなりました。人体体液の塩類組成は、20億年前の海水組成に類似しているとされています。

 海水中で生活しているコンブは、海水中に溶在するミネラルを生体にとり込むため、人間の生命維持に不可欠な微量元素のほとんどを含んでいます。

 今日では、ミネラル栄養学が重要視され、日本人のミネラル所要量および目標摂取量が示されています。(カルシウム600mg、リン600mg、鉄10~12mg、カリウム2,000~4,000mg、マグネシウム300mg)。ヨウ素は、毎日10mg以上長期にわたり摂取すると、甲状腺機能低下を起こす可能性が高いとも言われています。

 ダイエタリーファイバー、つまり食物繊維も今日では、第6の栄養素と言われ、大切な働きがありことが分かってきました。

 海藻の成分は、同一種であっても生育環境や採取時期によって組成が異なります。(芳賀)

コンブと健康-アルギン酸の旅-

 食物繊維
 消化されず胃の中に長くとどまり、他の栄養素を小腸へゆっくり送る役目をしますので、小腸から血液中へのブドウ糖吸収をゆるやかにし糖尿病予防に役立ちます。アルギン酸が腸を通ることで、腸のそうじをしながら、腸の働きを活発にしナトリウムと共に有害物質やコレステロールを体外に排出し、便通を良くし大腸癌の予防にもなります。
 ラミナランは、血圧を下げる働きがあります。

 カルシウム
 骨や歯を形成維持し、血液の働きを正常に保ち、精神を安定させます。

 
 ヘモグロビンとして酸素を運搬し、新陳代謝を活発にします。

 カリウム
 ナトリウムとのバランスを保って、血圧が上昇しないように働きます。

 ヨウ素
 甲状腺ホルモンのチロキシンを作り、交感神経を興奮させ、代謝を盛んにして、老化を予防し若さを保ちます。 (芳賀)

コンブの特性

 コンブは水に20分浸しておくだけで、マンニットのほとんどや、ヨウ素の約90%、ナトリウムやカリウムの60%、リンの50%が浸出液に溶出してきます。ワカメやヒジキのヨウ素含有量は、コンブの1/20、1/10と少ないのですが、60分浸漬しても30%程度しか溶出しません。

 だしはうま味の相乗効果をねらって、混合だし汁を用いることが多いのですが、コンブを汁の1%(1椀に約1.5g)使います。だしをとったコンブには、まだ有機分やマグネシウムが50%、カルシウムは80%残っています。コンブだしをとる時、葉に切り込みを入れても、入れなくても味に差はないので、切り込みを入れずにだしをとると、残ったコンブは、いろいろに料理して食べることができます。

 コンブの消費量の多い沖縄では、素干しコンブを水でもどしてから束ねたり、せん切りにしたり、または蒸して柔らかくしてから売るのが主流でした。しかし、この方法では栄養素が半減してしまうため、この売り方は少なくなりました。(芳賀)

コンブを利用した食品

 食物の味は極めて複雑ですが、甘味、塩味、酸味、苦味、そしてこれらをどのように混合しても作りだせない味「旨味」の5原味からなっています。この旨味は池田菊苗博士が、コンブより発見・研究したグルタミン酸ナトリウムに命名した言葉です。そして工業的に“味の素”が製造されましたが、今日でもコンブだし汁の旨味は、化学調味料では出しきれません。旨味は減塩に役立ちます。コンブ醤油はコンブを4~6%配合し、塩分が9~13%の醤油に仕上げています。

 家庭で作る昆布巻は、水に浸してから巻き、この浸し液で加熱します。加工場では、酢酸液に漬けたり、噴霧したりしてから一晩寝かせます。これは付着しているゴミを取り易くし、葉を柔軟にし、製品に保存性を持たせ、コンブの持ち味を出させます。この処理を「漬け前」といい、この後、水漬や湯煮で酢を抜きます。佃煮は、圧力鍋で加熱し、水洗いで塩分を除いてから調味する方法もあります。コンブの加工は、原料の品質がいろいろで、一定した製品を作るには相当の技術と経験が必要です。(芳賀)

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