おさかなセミナーくしろ1998:スケトウダラを知ろう 実はこんなに身近な魚なんです

パンフレット表紙
パンフレット
PDF 16MB
  • パネル展
    • 平成10年8月3日~8月10日 釧路市役所(1Fロビー)
    • 平成10年8月11日~9月4日 釧路市立博物館(1Fエントランスホール)
  • 講演会
    • 平成10年8月6日 14:00~16:30 釧路市生涯学習センターまなぼっと幣舞(2F多目的ホール)
  • 講演内容
    1. スケトウダラの生活史 (釧路市立博物館 針生 勤)
    2. スケトウダラの漁業と資源 (北海道区水産研究所 渡辺一俊)
    3. スケトウダラの利用・加工 (北海道立釧路水産試験場 飯田訓之)
    4. スケトウダラの調理方法 (釧路短期大学 芳賀みずえ)

おさかなセミナーくしろへ ホーム


「スケトウダラの生活史」

名まえと形

 スケトウダラはタラの仲間で一般にスケソあるいはスケソウと呼ばれ、北の海を代表する魚です。名前の由来についてはいろいろな説がありますが、江戸時代の魚鑑によると、佐渡の近海で多くとれ、しかも味がよいことからこの名が生まれたと言われています。すなわち、「佐渡」は「スケト」と読めることから、由来したと言われています。そこで漢字名も「佐渡鱈」とか、あるいは「介党鱈」などの文字を当てています。日本近海で知られているタラの仲間にはほかにマダラとコマイがいますが、スケトウダラは細身で、眼と口が大きいのが特徴です。また、この魚は下あごが上あごよりも突き出ており、しかも、下あごにはマダラとコマイのようなひげがありません。このことは底にいる生き物を餌にしていないことを示しています。さらに、オスの腹びれはメスより長いことが知られていましたが、産卵生態の項で述べるように産卵するときにオスがメスを抱くような行動に関係していることが、最近の研究で分かりました。(針生)

分布と回遊

 この魚は世界的に見ると日本海、オホーツク海、ベーリング海そして北太平洋に広く分布し、日本周辺では日本海側の山口県、太平洋側の千葉県あたりが南限です。水深が2,000mもあるような海域では表層から水深400mほどの中層にも生息します。また、生息する層の水温帯が限られており、もっとも多く生息する層の水温は2~5℃です。稚魚の時期は沿岸で生活し、成長するにしたがい沖合の中層や底層へと移動します。成熟すると冬から春にかけて沿岸に集群し、産卵します。産卵場は北海道沿岸の一帯にみられますが、岩内湾、噴火湾そして根室海峡などが主な産卵場です。これらの海域は水深200mの等深線が入り組んだような海底地形になっているのが特徴です。夏から秋にかけては餌をとるために分散し、産卵期に再び沿岸に回遊するという生活を繰り返します。回遊の範囲は太平洋、オホーツク海そして日本海の3つに分かれています。このように、スケトウダラは底魚のように思われていますが、浮き魚としての性質も持つ回遊性の魚です。(針生)

成長と成熟

 ふ化したばかりの稚魚は体長4mmほどで、体の2ヶ所に黒い色素の集まりがあるのがタラ類の稚魚の特徴です。体長3~7cmくらいまでは沿岸で生活し、それより大きくなると沖合に移動します。稚魚や幼魚はカイアシ類、オキアミ類、エビ類などの小型の甲殻類を捕食し成長します。満1歳で体長13~15cmに、2歳で20~24cmになります。日本海ではほかの海域より成長が悪く、体長25cmほどの満3歳から成熟し、体長31cm前後の4歳ですべてが成熟します。一方、太平洋やオホーツク海では体長36~39cmの4歳から成熟し産卵に加わり、体長40~43cmの5歳ですべてが成熟します。年齢が8~9歳の体長51cm、体重1kgをこえる大物もみられます。オスよりもメスのほうが1~2cmほど大きいという特徴があります。成魚になるとオキアミ類やカイアシ類などの動物プランクトンのほかに、魚類やイカ類などの大型の餌を捕食します。親が自分の子供である幼魚や未成魚を食べるという「共食い」は、この魚の特徴的な習性のひとつです。(針生)

産卵形態

 北海道周辺の産卵期は12月から4月で1~2月が盛期です。スケソウダラは産卵に適した水温帯と、卵や稚魚が沖合に流されにくい地形を産卵場として選択します。産卵場の水温は太平洋とオホーツク海で1~3℃、日本海で3~5℃ほどです。従来、産卵期には上の層にオスが多く、下の層にメスが多いことから、下の層でメスが産卵し上の層でオスが放精するという産卵行動が考えられていました。しかし、北海道大学の桜井泰憲は、この魚が雌雄1対で産卵することを初めて明らかにしました。オスがメスの腹の方に回り込み、腹びれであたかもメスを抱くような姿勢で泳ぎながら産卵、放精するという産卵行動が水槽飼育実験で観察されました。また、1尾のメスは1ヶ月ほどの間に数日間隔で数回産卵を繰り返すことも分かりました。体長40cmで約20万粒、60cmで100万粒の卵が産卵されます。中層や底層で産みだされた直径1.3mm前後の受精卵はばらばらになって海中を浮遊し、水温2℃であれば1ヶ月ほどでふ化します。(針生)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム


「スケトウダラの漁業と資源」

スケトウダラの漁場と漁獲量

 スケトウダラは、北太平洋に分布しており、日本海(韓半島~サハリン)、太平洋(常磐地方~ベーリング海~カナダ)、オホーツク海(北海道~サハリン~カムチャッカ半島)で漁獲されています。日本近海では、北海道の周辺と三陸地方の沿岸が、主な漁場となっています。

  1980年代の中ごろまで、アメリカやロシアの沿岸は日本漁船の大漁場でしたが、沿岸国が排他的経済水域(200カイリ水域)を設定したため、日本漁船は操業できなくなりました。

  スケトウダラを漁獲している国には、日本・韓国・北朝鮮・中国・ロシア・アメリカ・カナダのほか、珍しいところではポーランドがあります。

  スケトウダラの漁獲量は、1990年代にはいってから、減少に向かっています。1994年の漁獲量は、全世界で406万トン、日本近海で24万トンでした。日本近海で漁獲されるスケトウダラのうち、1/2~2/3は、太平洋岸のものです。(渡辺)

道東漁場のスケトウダラ

  太平洋岸のスケトウダラは、全体として1つの資源(系群)を形づくっています。漁獲量の最も多い季節は冬ですが、地方によって、漁獲される魚の成長段階には大きな違いがあります。産卵場のある道南地方では、親になった魚(4~7歳)が、餌場の道東地方では、親になる前の魚(2~4歳)が、これも餌場の東北地方では、もっと若い魚(0~2歳)がとられています。

  道東地方では、3~7万トンと道南地方に次いで多くのスケトウダラが漁獲されています。1980年代中ごろまでの漁場だった北方領土周辺水域では、ロシアが漁獲規制を強めたため、ほとんどスケトウダラがとれなくなりました。その一方で、北洋水域で操業できなくなった韓国船が、十勝沿岸などでスケトウダラを大量に漁獲し、問題を起こしています。

  太平洋岸では0~3歳の若いスケトウダラが漁獲物の大部分を占めていますが、魚が成長するまでとることを我慢すれば、将来の漁獲量の増大が期待できます。(渡辺)

スケトウダラの漁法

 スケトウダラは、主に底びき網、刺し網、そしてはえなわによって漁獲されます。

 底びき網には、オッタートロールとかけまわしの、2つの漁法があります。オッタートロール漁法では、網の前に飛行機の翼のような鉄製の板を付けて、網の口を開きながら網を曳きます。道東地方でのスケトウダラ漁獲量のほとんどは、この漁法によるものです。

 かけまわし漁法では、網の一方の端に付けた浮子を投入したあと網をぐるりと繰出し、もとの場所に戻ったところで浮子を拾い上げて網を曳きます。

 刺し網は、産卵のため沿岸に来るスケトウダラを待構えてとる漁法で、道南地方で、この漁法が盛んにおこなわれています。

 はえなわは、スケトウダラを釣る漁法ですが、太平洋岸ではあまりおこなわれていません。日本海の檜山地方や、根室地方の羅臼沿岸で、はえなわによってスケトウダラが漁獲されています。 (渡辺)

資源をじょうずに利用しよう

 スケトウダラの資源は、無尽蔵ではありません。とりすぎれば、必ず減っていきます。

  とり過ぎによって、魚の資源を潰してしまうことを乱獲といいます。

  身近なところでは、道東地方のキチジ(メンメ)やメヌケが、乱獲によって資源崩壊の瀬戸際に立たされています。スケトウダラでも、ベーリング公海の資源が、乱獲で激減したため、禁漁となっています。

  乱獲には、未熟で小さいうちに魚をとってしまう「成長乱獲」と、産卵する親魚をとってしまう「加入乱獲」の2つのパターンがあります。

  スケトウダラは、未熟で小さい魚から産卵する大きな魚まで、まんべんなく漁獲されていますから、2つの乱獲が一緒に起こる最悪の状態に、いつ陥らないとも限りません。

  小さな魚が大きくなるまで、とるのを少し待ち、子孫が残るように親魚の漁獲を少し抑えれば、スケトウダラの資源は、これからも私たちに恵みを与えてくれるはずです。(渡辺)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム


「スケトウダラの利用・加工」

冷凍スリ身ってなあに?

  現在、かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージなどの練り製品は、ほとんどが冷凍すり身からつくられています。今から40年ほど前、魚肉ソーセージをはじめとする練り製品の需要が急増し、深刻な原料不足となっていました。一方、北海道ではスケトウダラが大量に漁獲され、その利用方法が大きな課題となっていました。しかし、スケトウダラは鮮度低下が速く、冷凍すると冷凍変性(解凍すると肉がスポンジ状になる)してしまうため、練り製品原料としては鮮魚のみに限られていました。1960年(昭和35年)、北海道水産試験場が開発した冷凍すり身化技術は、スケトウダラの冷凍変性をほぼ完全に抑えるという画期的な技術でした。冷凍すり身の開発によって新たなスケトウダラの利用の道が開かれたことから、この技術は食品業界ではノーベル賞に匹敵する業績といわれています。現在行われている冷凍すり身の製造法も、当時開発された技術がそのまま受け継がれています。(飯田)

スケトウダラの冷凍すり身生産量と漁獲量

 1960年(昭和35年)に初めて北海道においてスケトウダラの冷凍すり身が生産されました。1965年(昭和40年)には北洋漁場において船上での冷凍すり身(洋上すり身)が企業化されました。そして、冷凍すり身の生産量が増加するにつれてスケトウダラの漁獲量は急激に増加しました。冷凍すり身が開発される以前のスケトウダラの利用配分は、塩干品、鮮魚(練り製品向け)および魚粕向けが主なものでしたが、冷凍すり身開発から約10年後(1969年)には全体の6割が冷凍すり身の原料となっています。以後、冷凍すり身の生産量は順調に増加し、漁獲量も1972年には300万トンを記録しました。しかし、200カイリ時代に入った1970年代後半から冷凍すり身の生産量は減少し続けています。現在の冷凍すり身の供給状況をみると、米国をはじめとする国外からの輸入品が半分以上を占め、スケトウダラ以外の魚を原料とした冷凍すり身も多くなっています。(飯田)

冷凍すり身以外のスケトウダラ加工品

 冷凍すり身以外のスケトウダラ加工品というと、スケトウダラの卵巣(成熟卵)を塩漬けした「たらこ」があります。大正末期に岩内町で赤く着色された別名「もみじ子」がつくられ、以後全国的に知られるようになったといわれています。もともと「たらこ」は北海道が主産地でしたが、需要の拡大と輸入冷凍品の増加により東北各県でも生産されるようになりました。そのほかのスケトウダラ卵巣加工品としては、福岡県が主産地である「からしめんたいこ」が有名です。

 乾製品については、素干し品として冬季に凍結と融解を繰り返して乾燥する「凍干丸すけとうだら」、塩干品として釧路が発祥の地とされる「すきみすけとうだら」などが主なものですが、いずれも生産量は伸び悩んでいます。(飯田)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム


「スケトウダラの調理方法」

鮮度の良いスケトウダラは高級魚

  スケトウダラと聞くと「たらこの親」「すり身」を連想しがちです。しかし、日本海のスケトウダラ漁場近くの人々は獲れたての鮮度の良いスケトウダラは、「マダラ以上においしい」と言い、好んで食べています。スケトウダラは「白身で柔らかく、さっぱりした癖のないおいしい味」です。日本では「食感や持ち味を生かした食べ方」を大切にしますから、鮮度の良いスケトウダラはこの淡泊さを強調し、薄い味付けの「三平汁」「ちり鍋」「塩ふり焼き」や「昆布じめ」「刺身」などにします。「刺身」のおいしさを味わうには気をつけなければならないことがあります。昭和40年頃スケトウダラ漁の盛んな冬になると、岩内病という胃潰瘍や虫垂炎に似た奇病が多発し、恐れられていました。その後、原因は寄生虫「アニサキスの幼虫」で、加熱や冷凍で死滅することが分かりました。刺身好きの人たちは、鮮度抜群のスケトウダラをおろした後、細心の注意を払って虫をつまみとってから、刺身の旨さに舌鼓をうっています。

 鮮度の良いスケトウダラをぜひ食べたいものです。(芳賀)

食材としてのスケトウダラ

 スケトウダラはマダラに比べ痩せてみえますが、三枚おろしの身はスケトウダラ(40%)のほうがマダラ(35%)よりも多いのです。あまり大きくないスケトウダラは「筒切り」で調理するのが簡単です。

 動物の筋肉を構成するたんぱく質は、肉基質、筋形質、筋繊維の三種類に分類でき、この組成は調理に深く関係しています。

 魚肉は「肉基質」が少ないため歯ごたえが柔らかく、加熱すると筋節がはがれやすくなり、「身くずれ」をおこしやすいのです。豚肉は「肉基質」が多いので噛みごたえがあるのです。「肉基質」はコラーゲンが主成分なので、これが多い肉のぷりぷりした魚は、煮ると「煮こごり」ができやすいのです。

 「筋形質」は加熱すると「筋繊維」を強く接着する役目をします。刺身の消化がよいのは、「筋形質」の接着作用が弱いので、消化酵素が入りやすいためです。この「筋形質」が少ないスケトウダラの肉は、ほぐれやすく「そぼろ」ができるのです。カツオは「筋形質」が多く接着作用が強いため、しっかりした「角煮」ができるのです。(芳賀)

魚のにおいを弱める調理の工夫

  魚料理は魚のデリケートな風味をひきだすため、まず新鮮でなければなりません。しかしお惣菜として毎日新鮮とはいきません。特にスケトウダラは鮮度低下が速く独特の魚臭がでやすいのです。この魚の臭を弱める調理法をマスターすると、創造性に富んだ楽しい調理ができます。和風では生姜を利かせた「甘辛煮や味噌煮」等濃い目の味付けにします。洋風では下処理をしっかりして「添えのソースや付け合わせの野菜類との調和」を持たせます。スケトウダラに合うソースは、「マヨネーズ、ベシャメル、トマト、レモン、ヨーグルト、マスタード、バター」等自由自在にあります。添えの野菜は魚と別に調理します。じゃがいも、ほうれん草、アスパラ、人参、マッシュルーム、セロリ、きゅうり等、茹でてから風味をだすためバターやみじん切りにしたハーブを加えます。そしてポイントはレモンやライムの輪切りやくし形切りを添え酸味を補います。これに軽い辛口の白ワインがあると最高です。また、スケトウダラは脂質が非常に少ないので、「揚げ物やムニエル」等安心して油を補って食べることができます。(芳賀)

おいしさを秘めた干しダラ

 スケトウダラの食文化は韓国とかかわりがあるのです。

 朝鮮半島のスケトウダラは東海岸北部が名漁場であった頃、呼び名はたくさんありますが、明川(ミョンチョン;地名)の太(テ)と言う姓の人が獲ったので「明太」(ミョンテ)と名付けられたと言われます。明太(メンタイ)の凍干品は18世紀に流通し「黄太」(ファンテ;黄色くなるので)や「北魚」(ブクオ)と呼ばれ、南部や内陸でも保存のできるたんぱく源としてポピュラーな魚になりました。

 日本では17世紀に乾燥品は食べられていましたが1925年朝鮮の凍干技術を岩内で導入し、朝鮮に製品を移出もしました。「スケトウダラの棒ダラ」は安く手に入るので生魚がない時よく煮付けられていました。しかし手間がかかることや日持ちが良いことから「棒ダラ煮」は晴れの食になり、なつかしい味となりました。

 朝鮮半島では色々の塩辛を作りますが、明太の子も塩をしてねかせ唐辛子で漬けます。ミョンランチョッと言い、博多を拠点に輸入しましたが戦後輸入できなくなり、スケトウダラの捕れない博多で博多ブランドの「辛子明太子」が作られたのです。(芳賀)

ページ先頭へ|おさかなセミナーくしろへ|ホーム