おさかなセミナーくしろ1999:サケの科学 もっと知ろう、食べようサケ

パンフレット表紙
パンフレット
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  • パネル展
    • 平成11年8月10日~8月22日 釧路市立博物館(1Fエントランスホール)
    • 平成11年8月24日~9月9日 釧路市福祉会館(1Fロビー)
  • 講演会
    • 平成11年8月24日 13:30~16:00 釧路市福祉会館(6F大会議室)
  • 講演などの内容
    1. サケの一生 (釧路市立博物館 針生 勤)
    2. サケの資源と環境 (北海道区水産研究所 石田行正)
    3. サケの利用 (道立釧路水産試験場 西田 孟)
    4. サケの食べ方 (釧路短期大学 芳賀みずえ)
    5. サケ・マスについての法律や条約

アンケート集計結果

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サケの一生

種類と形

 サケ・マスはたいへん身近な魚ですが、分類学のうえでサケ科にふくまれる魚は世界で9属約68種が知られています。日本でみられるサケ科の魚はイトウ属、イワナ属、サルモ属およびサケ属の4属にふくまれますが、普段、私たちがつかっているサケ・マスはサケ属の種類をさすことが多いと思われます。すなわち、サケ=シロザケ、カラフトマス、サクラマス、ベニザケ、ギンザケ、そしてマスノスケで、いずれも魚屋の店先にならんでいる馴染みぶかい魚ばかりです。このほかにニジマス、サクラマスに近いサツキマスとビワマスがあげられます。

 これらの中で、日本に天然に生息するサケ属の魚はサケ=シロザケ、カラフトマス、サクラマス、サツキマス、ビワマス、そしてベニザケの陸封型のヒメマスです。さらに、産卵のために日本の川にそ上する(川に上ること)サケ属はシロザケ、サクラマス、カラフトマスおよびサツキマスの4種のみですが、北海道では前3種にかぎられます。(針生)

日本と世界の分布

 日本の川にそ上するサケ属の魚4種類を前項であげましたが、この中でやはり資源量が最も多いのはシロザケです。シロザケの国内の分布は太平洋側では利根川よりも北、日本海側では山口県よりも北ですが、まれに九州北部や高知県の川にそ上することもあります。こうした日本の分布はアジア側の分布の南限になっています。国外ではオホーツク海、北太平洋、ベーリング海そして北極海の一部に広く分布します。しかし、最近の研究ではいくつかの地方集団にわけられ、日本をふくむアジア系のシロザケはアラスカ湾まで広く分布し、一方、北米系は180度から東側に分布するという特徴があります。

 カラフトマスは北緯36度よりも北の北太平洋やベーリング海に広く分布しますが、日本では北海道が分布の中心で、根室海峡を含むオホーツク海に面する川にそ上します。また、三陸地方の一部の川にもそ上します。サクラマスの分布は日本海、オホーツク海および北太平洋の極東にかぎられ、しかも北太平洋の沖合ではほとんど漁獲されません。(針生)

回遊と成長

 川で4,5cmほどに成長したシロザケ稚魚は、河口などの汽水域に降海・移動します。そこで小型のカイアシ類やヨコエビ類などの動物プランクトンを食べ、5~8cmほどに成長した稚魚は体のパーマークが消え銀白色になります。沿岸で8~12cmに成長した幼魚は7月頃に沿岸に沿って北上し、オホーツク海に移動します。8~9月の夏場をここで過ごしたのち、10~11月に北太平洋の外洋へと大回遊をはじめます。徐々に東に移動しながら、夏はアリューシャン列島周辺の南に分布し、秋に南下して越冬するという生活をくりかえし、成長します。

 海洋では、おもにオキアミ類やヨコエビ類などを食べ、1年後に32cm(尾叉長)、2年後に45~53cm、3年後に49~55cm、4年後に57~59cmに成長します。2年から6年で成熟しますが、3年魚~5年魚が大部分をしめます。成熟する年に日本にむけた大回遊にうつります。このように、日本を起源としたシロザケは西経140度付近のアラスカ湾までの広大な海洋を回遊し、成長して生まれた川にふたたび帰ってきます。 (針生)

そ上と産卵

 シロザケは秋から冬にかけて産卵のために日本の川に回帰してきます。海で回遊中のシロザケの体は銀白色をしていますが、川にはいるとブナの木の肌に似た紋様になります。いわゆる産卵の間近いことを示す婚姻色です。また、産卵期のオスは鼻が著しく曲がるのが特徴です。釧路川では人工ふ化放流事業のため、9月から12月にかけて河口近くで捕獲されます。近年、釧路川にそ上するシロザケの数は増加の傾向にあり、最近では約30~40万尾が捕獲されています。そのほとんどは4年魚と5年魚ですが、最近、7年魚という高齢魚も捕獲されています。

 増水などで魚の止め柵であるウライをこえたシロザケは、湿原奥深くあるいは釧路川の上流へとそ上します。底が砂利で湧水のある比較的あさい所を産卵場として選び、メスが尾びれで川底を掘り産卵床をつくります。そのくぼみに、メスとオスが並んで産卵と放精をはじめます。産卵後はメスが一週間ほど卵を保護しますが、やがてすべての力を使い果たし、オス・メスともにその一生を終えます。因みに、釧路川への稚魚の放流数は5~6千万尾です。(針生)

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サケの資源と環境

サケの資源

 北太平洋におけるサケ・マスの資源は1970年代半ばから増加し、その漁獲量は近年約90万トンに達しています。特に動物プランクトンを食べるシロザケ、カラフトマス、ベニザケが著しく増加しています。

 このような資源増加の原因として、公海での漁業禁止や沿岸での漁業管理が成功したこと、人工ふ化放流技術の向上によりたくさんの稚魚が放流されるようになったこと、餌生物などの海洋環境がサケ・マスの生残や成長に好適であったことなどが考えられています。

 北太平洋全体では毎年約50億尾のサケ・マスが放流されています。このうち日本では約20億尾のシロザケ稚魚が北海道や本州のふ化場から放流され、その約3.5%、約7000万尾、20万トンが日本沿岸に回帰し、漁獲されています。

 サケ・マスの生まれる河川やふ化場のある日本、ロシア、カナダ、アメリカなどは母川国と呼ばれ、サケ・マスを利用する権利と管理する責任を持っています。(石田)

サケの漁業

 日本の近海では、春から冬に沿岸の定置網で、また春から初夏に沖合の流網などでシロザケやカラフトマスなどが漁獲されています。

 定置網は、岸から沖に向かって垣根のように張られた垣網とその先端に袋の形に張られた身網からできています。沿岸に回遊してきたサケ・マスは垣網にさえぎられ、沖に向かって移動し、身網で漁獲されます。

 流網は、網の上端に浮き、下端に重りをつけたカーテン状の長い網を海に浮かしたもので、サケ・マスは網目に絡まって漁獲されます。

 秋に定置網で最も多く漁獲されるシロザケは「アキアジ(秋味)」や「アキサケ(秋鮭)」と呼ばれています。一方、春から初夏にかけ定置網や流網などで漁獲されるシロザケもあり、これらは時期はずれに漁獲されることから「トキシラズ(時知らず)」と呼ばれています。

 河川に上って産卵する親魚を確保しながら、回遊してくるサケ・マスを上手に漁獲することが、資源管理の基本です。(石田)

サケと環境収容力

 日本に回帰するシロザケの尾数が増加するのに伴い、その体長や体重が小さくなったり、年齢が高くなったりする現象が見られます。このような現象は日本だけでなく、ロシアなどのシロザケでも見られ、その原因の1つとして、沖合水域での密度効果が考えられています。

 広い北太平洋でもサケ・マスの分布する海域は、水温や餌などの条件により限られています。このように限られた海域で生活するサケ・マスの尾数が増加すると、1尾当たりの餌量が減少し、成長が悪くなり、成熟が遅くなる、と考えられています。

 このことは、北太平洋が大きな天然の「飼育池」のようなものであり、餌生物の量にも限りがあり、生息できるサケ・マスに限界があることを示しています。このような限界を環境収容力と呼んでいます。

 北太平洋という巨大な「飼育池」を、母川国で上手に利用し、サケ・マスを効率良く生産していくことが、これからの課題です。(石田)

サケと気候変動

 縄文時代や擦文時代から、人々はサケ・マスを利用してきました。釧路湿原の北斗遺跡からも、サケの歯が発見されています。

 北太平洋のサケ・マスの漁獲量は長期的な変動を示します。その原因の1つとして、気候変動、特に冬季のアリューシャン低気圧の変化との関連が考えられています。

 冬季のアリューシャン低気圧が強い→北太平洋の海水が良く混合される→表層の栄養塩が豊富になる→植物プランクトンが増加する→動物プランクトンなどのサケ・マスの餌生物が増加する→サケ・マスの生産量が増加する、というものです。

 一方、海洋におけるサケ・マスの分布は水温と密接な関係があり、二酸化炭素の増加に伴い、地球温暖化が進むと、サケ・マスの分布範囲が狭くなるのではないか、との予測もあります。

 これからもサケ・マスを守りながら利用していくためには、気候変動や地球温暖化にも注目して、地球環境を守っていくことが必要です。 (石田)                           

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サケの利用

サケ・マスの体成分について(原料特性)

 サケ・マスにはいくつかの種類があり、店頭で見かけるものとして、シロザケ(通称、秋サケ、春に獲れるトキシラズ)、ベニザケ、ギンザケ、マスノスケ(キングサーモン)、カラフトマス(ピンクサーモン)、サーモントラウト(海水養殖ニジマス)、スチールヘッド、ドナルドソン系ニジマス(以上、サケ属)、アトランティックサーモン(サルモ属)などがあります。サケは栄養成分が豊富で、また健康性や生理活性を有する多くの機能成分が含まれています。サケの体成分含量は種類により、また同一種でも、漁獲時期(成熟度合い)、場所(系統群)などにより、また天然、養殖物などの環境条件、さらには部位により、大きな差異が見られます。それらの主なものは脂質、カロチノイドやヒスチジン、アミノセリンなどの遊離(エキス)アミノ酸組成および脂肪酸組成などです。また、肉眼観察や官能評価でも差異が認められます。最近は輸入・養殖物のサケ・マスが増加し、道内の主要水産物の一つである秋サケと同じ位のシェアを占めています。(西田)

食用としての秋サケの利用について(秋サケ加工品)

 北海道を代表する魚といえばシロザケです。孵化放流事業が本格化する(S.50年頃)以前は高級魚として位置付けされましたが、今ではすっかり大人から子供まで人気のある多獲性魚の一つとして定着しています。秋サケは周知のように、成熟(ブナ)度合いにより大きな差異があり、それに応じた食用向けが考えられます。食品素材としては表皮は青、銀白色(グアニン色素)で、肉色(アスタキサンチン)が良く、適度な脂質含量のギンケが上位とされ(これ以上にランク付け、また旨いとされるメジカ、ケイジおよびトキシラズなどがありますが)、成熟が進むにつれ、いわゆるブナザケと称され、表皮は硬さを増し、粘質物も多くなり、赤褐色の縞模様(婚姻色)が現れ、肉食が退色し、脂質含量も減少し、その度合いが大きくなるほど、Aブナ、Bブナ、Cブナというように、下位にランクされます。またランク付けは地域によって差があります。ただし、卵巣は成熟度合いからA~Bブナが最上とされます。食品として製造される秋サケ加工品には次のようなものがあります。(西田)

サケの機能成分について(食と健康、筋肉および卵巣、精巣中の機能性物質)

 これまでに秋サケについて様々な栄養成分が明らかにされ、これらの中には健康性機能成分が少なくありません。例えば、動物実験から血中コレステロールの低下や動脈硬化予防に効果のある含硫アミノ酸の一種、タウリンや高度不飽和脂肪酸、EPA(エイコサペンタエン酸)などがあり、同じく脳の成分で血栓予防や学習記憶能力を高めるDHA(ドコサヘキサエン酸)などがあります。EPA、DHAなどはイクラに多く含まれています。また最近、イクラに抗酸化(酸化を抑制する)成分が存在するという研究や肉色でカロチノイド系色素の一つアスタキサンチンの抗酸化作用、またDHAが大腸ガンを抑制するという報告などもあります。精巣(白子)に含まれる核酸(遺伝子、DHA)やプロタミンも生理活性機能があります。核酸65%と塩基性タンパク質、プロタミン33%が結合した核タンパク質はサルミンといわれ、健康食品として市販されています。一方、プロタミンは抗菌活性が明らかにされ、天然保存料として各種食品に広く利用されています。(西田)

サケの機能成分について(頭や皮など未低利用部位の高度活用)

 サケ頭部からは高血圧抑制(ACE阻害活性)ペプチドが見出されており、これらのペプチドは味噌など他の食品でも知られています。同じくサケ頭部から鼻軟骨由来のコンドロイチン硫酸は小腸で脂肪酸の吸収を抑制し、抗肥満作用があることが解り、医薬品や食品開発など、また保湿効果があることから、目薬や化粧品への添加などの研究が進められています。サケ皮(真皮)の主成分はコラーゲンで、この変性したものがゼラチンで、煮こごりの主成分です。このコラーゲンとイカ軟膏から抽出調製したキチンを複合して親和性の高い代用皮膚が造られ、臨床試験が行われています。同じくサケ皮コラーゲンから高機能分離膜(バイオマテリアル)を調製し、鮮度保持フィルムやたれ、エキス成分を分離する試みが行われています。今後さらに多くの健康性機能成分が見出され、これまで加工残滓としてミール(飼料)などとしてしか利用されなかった頭部、内臓、精巣(白子)、骨、皮部など、未低利用部位に付加価値を与え、生物資源の高度有効利用に繋がるものと考えられます。(西田)

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サケの食べ方

サケの旬

 世界のサケ・マス生産量の約1/3を日本が消費しています。総務庁の家計調査によるとサケ・マスの消費量は増加傾向にあり、特に生の消費がのびています。これはシロザケの漁獲量増加や健康志向のみでなく、輸入サケ・マスが生鮮で飛んで来たりもしているからと思えます。

 輸入サケ・マスの主流は天然のベニザケから養殖のトラウトやギンザケへ移り、脂質量の多い見栄えの良い安い養殖サケが、切り身や刺身・たたきとして何処でも売られています。そして、見た目の勝負に負ける一部のブナサケは、輸出されシーフードバーガーにもなっているようです。

 サケを焼いて食べる時、私たちは脂の乗りを求めますが、色々な食べ方があるのです。北海道ならではの旬の秋サケは、頭部や内臓は勿論、程良い脂のある腹須、身の厚い背肉、肛門から後ろの身の締まった尾部などに切り分け、1尾を余すことなく美味しく食べ尽くすことができます。時代のニーズに合った売り方で、食の原点である1尾を食べ尽くす文化に、磨きをかけてみませんか。(芳賀)

秋サケの美味しさを引き出す食べ方を!

 魚肉の遊離アミノ酸、ATP関連物質やその他のエキス成分が、筋肉酵素の作用によって貯蔵中や加熱調理過程において変化し、品質や食味の強さの変化と密接に関係しています。この遊離アミノ酸の1種のグルタミン酸とATP関連物質のイノシン酸が魚肉のうまみの主体です。この呈味物質を同時に与えた時、両者の和以上に味刺激が増強されます。これを味の相乗効果と言い強さはYamaguchiの式(y=u+64,200uv、uはグルタミン酸、vはイノシン酸のモル濃度)で算出できます。このうまみのベースに、サケらしいエキス成分が微妙に加わりサケの味となるのです。サケのうま味を引き出すのには、グルタミン酸を含む食品と共に味わったり、塩蔵熟成させてグルタミン酸を増加させるとサケのうまみがグンと引き立ちます。

 塩蔵品は保存目的から、嗜好的食べ方となりました。新巻は個体や部位によって塩辛さが違うため、フィレーにして塩水に漬けた定塩漬けもあります。手間暇掛けて熟成させた山漬けは触感や風味が格別の美味しさになります。(芳賀)

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サケ・マスについての法律や条約

 サケ・マスを保護しながら利用していくために、これらの法律や条約を守っていくことが必要です。

 漁業法:
この法律により、釧路におけるサケ・マス漁業は、農林水産大臣や北海道知事の許可や免許を受けて実施されています。
 水産資源保護法:
この法律の一部に、サケ・マスの保護や人工ふ化放流を実施することなどが規定されています。
 北太平洋における遡河性魚類の系郡の保護のための条約:
この条約は、日本、ロシア、カナダ、米国の4カ国が、北太平洋におけるサケ・マスを保存するために結んだものです。4カ国は協力しながら、科学的調査や取締りなどを実施しています。
 日ソ漁業協力協定:
この協定は、日本と旧ソ連が、サケ・マスの保存や再生産、最適利用や管理について協力するために結んだものですが、引き続きロシア連邦との間でも有効であり、日ロ間でサケ・マスの漁獲量を決めたり、調査研究やふ化場などの協力を実施しています。

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