Introduction クルーズ一覧 | N-line測点図

概 要

♦地理的特徴
オホーツク海は北海道、サハリン島及び千島列島によって北太平洋および日本海から隔てられた半閉鎖性の海域です。オホーツク海への海水の流入は主に日本海からの宗谷海峡を通じた暖流 (宗谷暖流) 系水ですが、北西部にあるアムール川からの淡水の流入もこの海域の海洋構造に大きな働きを及ぼしています。一方、流出経路としては、根室海峡や千島列島間の水道・海峡から北太平洋へ流れ出るものが主要であると考えられています。また、そうしたオホーツク海からの流出水が千島列島太平洋側を南下してきた海流 (東カムチャツカ海流) と混合することで、親潮の豊かな生物生産力が形成されると考えられています。

♦海況
オホーツク海沖合域の表層には広く低塩分水が分布しています。これらの低塩分水はアムール川から供給された淡水によって強く影響を受けたものであると考えられています。またオホーツク海の中央部には反時計回りの水塊が見られます。サハリン東部には低塩分の特徴を持ち南向きに流れる東樺太海流があり、季節によっては北海道の沿岸に接岸することが知られています。沖合域では表層の低塩分水と深層水の間に水温極小層が形成されます。冬季間に海水は水温極小層まで冷却される一方、季節による水温の変化は表層の低塩分水で主に起こるので、夏季でも極小層の水温は0°C以下であることは珍しくありません。反面、表層水温は20°Cを超えるので、密度成層が顕著に発達します。一方、北海道沿岸では宗谷暖流水が海岸線に沿って南西方向に流れています。流量は晩夏−秋季に最も多くなりますが、海表面が流氷に覆われた厳冬期でも流量は少ないものの潜流となって沿岸に存在することが知られています。

♦気候学的重要性
オホーツク海は冬季に結氷する海としては世界で最も南に位置する海域として知られていて、冬季には大半が海氷に覆われています。北海道の沿岸でも「流氷」として冬季の観光資源として重要ですが、厳冬期に海の表層を海氷で覆われることによって風成混合が抑制されること、海氷の後退期に融氷によって表層に塩分成層が形成され植物プランクトンの氷縁ブルームが発生すること、等の海氷域に特有な低次生態系が構築されていると考えられています。今後ますます深刻化する地球温暖化現象により、オホーツク海の海洋環境も影響を受けることは避けられず、とりわけ冬季の海氷の形成などに顕著に表れる可能性が指摘されています。

♦水産
オホーツク海の北海道沿岸では大規模なホタテガイ養殖が行われていて、この海域でのホタテガイの水揚げ量は北海道全体の6割以上に当たります。またサケマス類の漁獲も多く、ホタテガイと合わせた漁業生産高はこの海域全体の75%以上にもなります。また底魚資源も豊富で、スケトウダラやカニ類 (ズワイガニ、ケガニ等) の日本有数の漁場の1つです。

♦観測の概要
このような海洋学や水産業にとって重要な価値を持つオホーツク海ですが、沿岸域でのホタテガイ漁場での環境調査は従来より行われてきましたが、冬季間の観測調査が困難であること、日ソ (日露) 間の関係が円満ではなかった時期が長かったことから、沖合域での季節的なモニタリング調査が継続的に行われた研究例は多くはありません。水産総合研究センター北海道区水産研究所 (北水研) では、オホーツク海の沿岸−沖合域にかけての海洋環境のモニタリングを目的として、我が国の経済水域内に定線 (Nライン) を設置し、2000年より春季−秋季を中心とした定線観測を行ってきました (2004年より1定線 (Sライン) を追加) 。観測項目は1980年代より北水研が行ってきたAラインに準じたものとし、長期的な海洋環境の変化を検出できる精度での観測を継続しています。また、基礎生産量、サイズ別クロロフィルa濃度、微小プランクトン定量採集、植物プランクトン分類群組成、水塊トレーサー (13C,18Oなど) のサンプリングも随時行い、オホーツク海における観測プラットフォームとしての役割も果たしてきてきました。

♦おわりに
Nラインでのモニタリングも8年目を迎え、観測データの蓄積とともに研究成果も上がってきました。これまで明らかではなかった沖合域の低次生産の季節変動の概要を明らかにしたのは大きな成果の1つではないかと思います。水産総合研究センターの調査船整理計画により、オホーツク海定線での季節的なモニタリング調査は2007年をもって一段落とし、今後は年1-2回の観測を継続して年ごとの変動からより長期の変動の解明を目的とした調査として継続していく予定です。今回、広く学術研究に利用していただくことを目的とし、これまでの観測データを公開することにしました。これまでの知見や他の観測データと合わせて様々な視点からの分析を加えることによって、オホーツク海の新たな発見に役立てることを願っています。

2007年12月25日
独立行政法人水産総合研究センター 北海道区水産研究所
亜寒帯海洋環境部 生物環境研究室
葛西広海