号(年月) | 今月の話題 | 研究の紹介 |
第16号(平成4年12月) | ワークショップ「JN-GLOBECの設計」の開催(1992.12/17-18) | 海の魚の餌そして餌の餌としてのプランクトン |
第15号(平成4年11月) | 北海道東部釧路管内の秋色に思う | 親潮とその源流域の海洋構造の寿命について |
第14号(平成4年10月) | 道東沖合域のいさり火 | スケトウダラ等底魚資源研究の主な成果(平成3年度) |
第13号(平成4年9月) | 道東沖でのイワシ・サンマ・イカの今夏漁況の明暗 | いか類資源研究の主な成果(平成3年度) |
第12号(平成4年8月) | ミニ情報第12号の発行に当たって | いわし等浮魚資源研究の主な成果(平成3年度) |
第11号(平成4年7月) | 「おさかなセミナーくしろ’92」開催 | 資源管理部における平成4年度の研究計画 |
第10号(平成4年6月) | 秋篠宮文仁親王殿下の北水研ご視察 | 増養殖場の管理技術の確立 |
第9号(平成4年5月) | 特別研究「磯焼けの発生機構の解明と予測技術の開発」 | 種苗生産及び養殖技術の高度化 |
第8号(平成4年4月) | 「7条報告」について | 優良品種の育成と遺伝資源の保存 |
第7号(平成4年3月) | 親潮・ラブラドル海流水域の比較研究 | 北方亜寒帯水域における水域特性の把握技術と情報の総合化手法の開発 |
第6号(平成4年2月) | マイワシ資源の緊急調査について | 北方亜寒帯水域における生物生産機構の解明 |
第5号(平成4年1月) | 北水研と日栽協との官民共同研究交流について | 北方亜寒帯水域の海洋構造と変動機構の解明 |
地球環境の変動が海洋の生態系に与える影響を分析評価し予測することを目指す、国際研究計画GLOBEC(GLOBal ECosystemdynamics)の、わが国での始動のための動きが始まっています。この計画の目指すところは、水産資源研究及び水産海洋研究のまさに達成しようとする、長期的で大規模な海洋環境の変動のもとでの水産資源の変動を予測し評価できるようにすることに他なりません。
このワークショップは、日本のGLOBECの亜寒帯域のサブプログラムを設計するために、北水研が関連する研究者に集まっていただいて開催しました。狙いとする生態系は、親潮とかいあし類-オキアミ-スケトウダラで特徴づけられるものです。計画は息の長いものになります。また研究の基盤となる各種の資源環境の基礎調査の設計調整も必要とされます。研究基本計画の見直しの時期でもあり、このワークショップの成果に期待するものは小さくありません。
(海洋環境部長)
海洋環境部では、農技会の研究プロジェクト「生態秩序」の中で、マイワシの索餌場である(あった?)親潮水域で餌がどのように生産されているかという、マイワシの資源変動の謎を解明するために不可欠の問題に取り組んでいます。マイワシは海の魚の中では珍しく植物プランクトンも餌にする魚です。魚にも好みがあって、マイワシは北の海のよく太った大型の動物プランクトンを食べに親潮水域にやってくることがわかってきました。このこと自体は画期的な新事実ではありません。面白いのは方法です。餌である動物プランクトンがどんな植物プランクトンをどれだけ食べるかを調べるために考えた方法、すなわち海中の植物プランクトンと動物プランクトンの糞との化学成分の組成の違いと量から餌の選択の仕方と食べる量を求める方法を、ほぼ同じ形でマイワシに当てはめました。違いはマイワシでは糞を集められないので消化管の中身を調べる点です。同じ方法で、植物プランクトンと動物プランクトンとマイワシがつながりました。これは餌を介して形成されている海の生態系の構造を解きあかす方法の原型ができたことを意味します。
科学技術答申第18号を受けて、政府は去る4月24日科学技術政策大網を発表しました。その中に含まれている主な問題として、中核的研究機能を持つCenter of Exellenceが提唱され、科学技術の飛躍的発展を期待しようとする内容となっています。われわれ水産研究者として、これからどのように対応するかが重要となってきます。
(所長)
十勝連邦旭岳に昨年より2週間早い初冠雪の便りがあり、釧路市内の街路樹ナナカマドの実が8月末から色づき、白鳥飛来も2週間早いなど、例年にない気象変動が起きています。さらに釧路沿岸も流氷の訪れが最近見られず、岩礁に雑海藻類が蔓延り重要なコンブ類の生産を抑制しているようです。最近では珍しい台風の襲来があり、沿岸では内陸からの材木倒木の流出があったり、大時化による沿岸の攪乱で、沿岸岩礁の極相状態となった海藻群落に変化をもたらす可能性が考えられます。この結果として有用海藻の大量繁殖が期待できればこの上なく富をもたらすことになります。秋色濃い釧路が来年の豊かな実りになることを期待したいものです。
(所長)
人の心と秋の空という言葉があるように、大気の構造は3日経てばがらりと変わってしまいます。海の構造はどうでしょう?
北水研では海洋環境部と資源管理部の共同航海として、道東~千島列島沖太平洋~オホーツク海の広域に及ぶ親潮とその源流域の資源環境調査を行っています。調査期間は20日かかります。もし海の構造の寿命がこの期間と同程度だとすると、航海から帰ったときにはもうその航海の調査結果は全く過去のことになってしまいます。昨年の航海の時、この海域で協力して研究を進めている東大海洋研がアルゴスブイを放流しました。このブイは、観測で得られた親潮の流路に沿って3カ月かけて千島沖から道東太平洋に流れてきました。このことはこの海域の海洋構造の寿命が少なくとも3カ月以上あることを意味します。いいかえれば、広域の観測で捉えられた海洋構造は、少なくともその季節の間は継続して保たれると考えてよいということです。
人工衛星の時代にあっても、調査船による観測の意義は失われることはありません。この海域の観測は、北水研のこの航海が唯一のものとなっています。
今年は、釧路でも安価な「いかそーめん」を食べることができます。今、グルメが騒がれていますが、その一つは、今朝水揚げされた獲れたての新鮮なものを、その土地に行って土地の食べ方で賞味することではないかと思っています。
(企画連絡室長)
前号でお知らせしたように今年度のイワシ漁は大不漁です。しかし、昭和55年に一時漁獲があったスルメイカ釣り漁がここ2~3年再び活発になっていますし、サンマも好漁で、このいさり火が道東の夜の海を賑わしています。
私達の研究対象は、自然の生物とその生活環境です。しかも研究の対象は、私達の食糧として重要な生物達です。この生物達は、自然の諸条件や、生物達相互の関係の中で生活をしながら子孫を残しています。その相互関係は、極めて複雑で現在の私達はまだ十分に理解しているとは言えません。
私達は、長年にわたる海洋の物理・化学的環境や、生物の相互関係を注意深く比較検討し、一定の規則性を見つけ出す努力を続けています。自然の環境の中で生活する生物の特性を注意深く把握することは、将来とも海の豊かな資源の有効利用を図るための研究推進に大切だと考えています。
(企画連絡室長)
(1)スケトウダラの卵・仔魚分布量に基づく産卵親魚量の推定:太平洋系群の主産卵場である襟裳以西太平洋海域で、平成3年1月~2月に卵・稚仔の採集を行い、卵の分布量が例年に比べて少ないことを明らかにしました。また、過去5年間の発生ステージ別卵量指数、成魚資源尾数、漁獲尾数の比較から、卵分布量の多寡は必ずしも年級群豊度を決定しないと推察しました。
(2)漁獲物解析によるホッケの系群別資源水準の推定:ホッケの漁業・資源管理の基礎となる年齢査定法として、耳石を切断してその断面を染色する方法を確立しました。また、道東海域での関連漁業の漁獲統計と漁獲物の年齢、体長、成熟度等を解析し、当海域の資源は平成元年以降減少傾向にあること、漁況は0~1歳魚の加入量の多寡に左右されることを明らかにしました。
(3)スケトウダラ太平洋系群の許容漁獲量の推定:常磐~北方四島の太平洋海域での漁獲・生物統計を用いて、コホート法により、近年の資源量を推定し、今後の資源動向を予測しました。また、最近の漁獲量は、年々の加入をほぼ一定と仮定したときの適正利用水準を下回ると推定しました。
今年の釧路沖のマイワシ漁は、前年同期の水揚量の20%に満たない状況となりそうです。この急激な資源の減少については、かねてから研究者の間で1988年級群の大幅な欠落が、資源の減少に繋がると予測しておりましたが、その予測以上に激しい漁獲の落ち込みとなっております。しかし、何故、欠落年級群ができるのかについての研究は、多くの資料を基に推計する必要があり、今後に期待したいものです。
(所長)
釧路港は昨年まで13年連続の水揚げ日本一の記録を続けていますが、今夏はマイワシ水揚げの著しい不振により、いつもの活況がみられません。道東海域ではマイワシ魚群の来遊が非常に少なく、道東主要港の8月末累計水揚量(約9.3万トン)は不漁であった昨年同期の23%に過ぎません。これとは対照的に、サンマ棒受網漁業は大型魚主体の好調な漁獲を続け、同水揚量(約1.2万トン)は昨年同期の27%増となっています。また、スルメイカ釣りの漁況も近年の好漁年である昨年をさらに上回るペースで経過しています。
これら3魚種の好、不漁は、関係水研・水試が今漁期前に出した漁海況予報とよく一致してますが、しかし、“漁種交代”のメカニズムや資源の変動要因の解明は遅れており、今後の緊急で最重要な研究課題となっています。
(資源管理部長)
(1)バイオテレメトリーによるアカイカの行動特性の解明:平成3年7~8月にいか流し網漁場付近で、超音波発信器を大型の雌個体に付けて追跡する実検を7回試み、内5回で11~48時間追跡できました。昼夜の鉛直移動は、個体によって異なりましたが、夜間は主に水深20~40mの水温躍層に分布し、日中の遊泳層の水温は6℃以上であることが明らかになりました。
(2)平衡石日周輪によるスルメイカのふ化時期及び成長過程の推定:系群の検証と資源変動要因の解明に役立てるため、元年6~9月に日本海の5地点で採集された標本を用いて、平衡石(魚の耳石にあたる)日周輪による日齢査定を行いました。ふ化時期についての地点間の特徴や体長と成熟状態からの推定発生季節との相違点が明らかになりました。
(3)三陸・北海道太平洋海域におけるスルメイカ及びアカイカの夏季の来遊量の推定:平成3年6月と7~8月に三陸・北海道太平洋海域で調査船による漁獲試験等を行い、他の水研・水試調査船調査の結果を併せて、スルメイカとアカイカの来遊量水準を推定し、漁況予報として公表しました。
私達の水産食糧の多くは自然の生産物に大きく依存しています。しかし、私達はこれまで自然を利用することだけ考え、生態系の破壊にまで配慮していなかった様に感じます。この問題は、難しい点を含んでいますが私達は科学する心を養い、かけがえのない自然を守る必要があると考えています。
(企画連絡室長)
昨年9月、第1号を発行して丁度1年が過ぎました。皆様のおかげで紙面を維持できましたことを感謝申し上げます。
この間、水産を巡る情勢は大きく変化しています。北海道ではソ連邦が崩壊してから、北方四島へのビザ無し渡航や日露合弁企業による生産流通等の交流が活発化しています。 一方、地球環境保護や生物多様性保護等国際的な動きの中で、わが国の主な漁業も厳しい状況に置かれています。
人類は古来、海の資源を生活の糧として利用してきましたが、これからは自然に対して調和のとれた資源利用と管理が重要になると思われます。
我々研究者は地球環境にやさしい調和のとれた漁業の振興のために、邁進なくてはなりません。
(企画連絡室長)
(1)マイワシの卵形成に影響を及ぼす内的、外的要因の解明:卵形成の特徴を把握し、資源変動との関連性を探るため、12、15、18、21、24℃の5段階の水温と自然光周期の下で、平成3年8月~4年2月に飼育実検を行いました。12~15℃の水温では雌雄共に生殖腺が順調に発達しましたが、18℃以上の高水温では発達が阻害されることが明らかになりました。
(2)まき網漁業における魚群探索戦略決定過程の解析:道東海域のマイワシまき網漁業の漁獲実態を解明し、来遊量推定の精度向上に役立てるため、平成2年6月の試験操業データーを解析しました。漁獲の各作業過程毎の所要時間を明らかにし、また探索行動における「先導者」と「追随者」の存在を示唆しました。
(3)北方水域におけるサンマの発育段階別分布・回遊特性の解明:夏季に千島・道東沖に来遊するサンマの分布・来遊生態を把握するため、平成3年8月~9月に同海域において小目合流し網による漁獲試験と海洋観測を行いました。太平洋側では肥満度の高い大型魚がかなり高い豊度で漁獲されたのに対して、オホーツク海岸での漁獲は少量の捜せた中、小型魚のみでした。
このところ、近くて遠い国ロシアとの距離が短くなったように感じられます。両国の水産研究調査は、科学者会議等窓口は一本化されており、このルートに沿って相互の調査研究が推進されています。しかし、民間の合弁企業等による調査が進むなかで、自由度が増えたかのような印象を受けますが、国研の科学者は調査内容によっては、この原則を守らなければなりません。
(所長)
市民への広報のための企画として、テーマ「マイワシの科学-変動のナゾを探る」のもとにパネル展(8月1~23日)とセミナー(8月6日)を開催することになりました。
会場は釧路市立博物館を使わせていただき、経費は実行委員会に参加した釧路市内の水産関連機関がそれぞれの経常経費から負担しあって、実現しました。
この企画は、水産都市釧路とその周辺の市民のみなさんを対象として、水産の試験研究をより分かりやすく理解して頂くことを目的に、北水研・釧路水試・市立博物館などの活動と成果を紹介しようとするものです。これからテーマを変えながら毎年開催していきたいと考えています。
回を重ねて広報のノウハウを高め、より充実した内容にしていくとともに、北海道内を巡業できることを目指しています。
(実行委員会事務局長 海洋環境部長 柏井 誠)
浮魚、底魚、頭足類の各研究室(研究職員各3人)では3つの大課題の下で、以下の研究(小課題数19)を進めています。北海道周辺海域のマイワシ・サンマ・スケトウダラ・ホッケ・スルメイカ・アカイカ等重要漁業資源の分布・回遊、成長、産卵などの生態解明が第1の大課題です。2つ目は、これら主要種の資源量と漁場への来遊量の評価・予測と資源変動要因の解明を目的としています。第3は、これら資源と漁業の適正管理手法を確立することです。
(1)浮魚資研では、最近資源の高齢化と減少傾向が著しいマイワシを対象に、室内実験による成熟機構の解明、資源量・成長・海洋環境の関連性の解明などを、(2)底魚資研では、スケトウダラ太平洋系群の資源量と適正利用水準の推定を主な柱として、分布・回遊特性の把握、卵分布量に基づく産卵親魚量の推定などを、(3)頭足資研では、最近漁獲量が増加しているスルメイカの平衡石日周輪を用いた資源構造と成長の解明、バイオテレメトリーによるアカイカの行動特性の把握などをそれぞれ進めています。
地球環境を破壊せずに開発を進める必要があるとの考え方があります。私達は、自然環境の維持を図る一方で、より快適な生活のため開発も必要です。この相反する関係をどう調和するのかは今後研究を進める上で必要な視点ではないかと考えています。
(企画連絡室長)
5月26日~28日の3日間、釧路市で開催された日本水族館動物園協議会総会に名誉総裁としてご出席された殿下は、27日午前10時55分~11時50分、釧路市長の公用車にて富士宮務官とお二人でご視察されました。
ご進講は所長室で35分間にわたり、北海道の水産現勢、研究の概要、主な研究トピックスを所長から申し上げ、熱心に耳を傾けられ、科学者としての専門的なご質問をされました。ご進講の後、予め用意された白衣をお召しになり、飼育室のマイワシ、カレイ類等実験生物をご覧になったのち、別棟に育成中の日本で唯一保存されているジャイアント・ケルプをご視察、その頃から釧路名物の濃霧に見舞われ、「釧路の霧はいかがですか」との問いかけに「霧の中でも日射しが強いですね」とのご返事でした。
所員一同が整然と見送るなか、会釈をされて車中の人となりました。ご気さくな方との印象が残りました。
(所長)
人為的に造成した藻場では、海藻類を安定的に維持する技術開発が重要です。しかし造成藻場は当初コンブ等の着生が見られるものの、次第に着生量が減少し、コンブ礁としての機能が失われることが知られています。この遷移機構については不明な部分が多いため、造成藻場での群落形成とその後の経過に各種の環境要因がどのように影響するかを明らかにする必要があります。
(1)海藻類の生理特性の解明:コンブの生産力と環境要因との関係を明らかにするため、光合成活性と温度等の関係を解析しています。(2)海藻類の生理活性物質検索:海藻群落と植食動物の関係を明らかにするため、コンブの水溶性物質を検討した結果、ウニ・アワビ等の摂餌刺激並びに誘引活性物質を含むことが明らかになりました。(3)造成藻場におけるウニ類生産機構の解明:ウニの摂餌量や生殖腺等の成長の点から造成藻場内の海藻餌料としてはコンブが最適であることが明らかとなりました。
「21世紀に向けての水産研究の在り方」に関する議論は、8年後に迫った新世紀を見据え、厳しさを増しつつある我が国の漁業の生きる道を探る重要な部分です。特に水産の研究者が問題意識を持って意見を出し、議論したいものです。
(所長)
この研究は、平成4年度から3年計画で開始されます。
磯焼けとは、わが国の沿岸岩礁域でコンブなどの有用海藻類が凋落する現象で、それにともない、アワビなどの経済的価値の高い磯根資源が激減することから「海の砂漠化」と呼ばれています。特に北海道日本海側では広域的に発生していますが、その発生機構については不明な点が多く残され、抜本的な対策を講ずることが困難な状況にあります。そこでこの研究では、海藻類の群落構成と植食動物の生息量およびこれを取りまく海域の環境特性について総合的に研究し、磯焼けの発生機構を解明し、合わせて発生予測技術を開発しようというものです。
研究には北水研、東北水研、日水研、北海道中央水試等が参加します。
(資源増殖部長)
北海道海区の増殖生産を発展させるためには、対象生物の種苗の大量生産技術の確立が重要であります。特に海域の特性から、カレイ類、地域性ニシン、ウニ類等の種苗生産技術の高度化が重要で、良質卵を得るための親魚の育成や幼稚魚の管理にかかわる基盤的研究を進める必要があります。また資源添加にあたっては放流種苗のサイズ、放流時期、場所等といった放流技術の確立が重要であり、そのため対象種の初期生態を把握することが必要です。
(1)カレイ類の成熟と産卵;カレイ類の親魚養成上、早期に雌雄判断ができ、また成熟の程度がわかれば、採卵技術の向上に大変役立ちます。オヒョウとマツカワで雌特異蛋白を利用した免疫学的方法によって雌雄判別方法と雌成熟度判定法を開発しました。(2)カレイ類稚魚の生態解明:釧路沿岸、厚岸湾および厚岸湖において、天然のカレイ類の稚魚が分布する水深帯、水温、塩分、底質等の環境条件が明らかになりました。また、釧路沿岸ではアブラガレイが水深30~50mに、厚岸湖・湾にはクロガレイが成育場を形成することが明らかになるなど多くの知見が収集されています。
自然を対象とする研究は、生活にどう役だっているのだろうかとの疑問を持つことが多いかと思います。このことは、研究の対象が複雑であり、研究成果も大きな研究目標の一部分になっている場合が多い故かもしれません。しかし、目標達成のための研究全体は、確実に進展しつつ生活に大きく役だっています。
(企画連絡室長)
水産研究所の4月は、「7条報告」の月です。これは、研究の状況把握と進行管理のために、研究推進方向の背景とねらい、試験研究の主要な成果と問題点plb+ty、試験研究業績を年度毎にまとめる作業です。名前の由来は、この報告の作成が、農林水産省試験研究事務処理規程の7条に基づくからです。毎年度全国の国立公立の試験研究機関で取りまとめられた報告は「農林水産試験研究年報(水産編)」として農林水産技術会議事務局・水産庁から刊行されています。これは、わが国の国公立試験研究機関の活動の総覧として、もっと参照して頂き、活用されるべき資料です。作成する我々もそれを意識して、試験研究活動の生きた記録としていきたいと考えています。
(海洋環境部長)
バイテクの育種素材としての遺伝資源の需要はますます増大するでしょう。また環境の変化や特定品種の普及によって、在来種への影響が懸念され、遣伝資源の保存が急務です。従って、遣伝的形質の特性を把握すると共に長期間にわたり形質が変化しない保存技術を開発する必要があります。
さらに、北海道周辺海域に適した耐寒性・高生長等の形質を有した優良品種の育成を目標に、基礎的研究を進める必要があります。(1)大型褐藻類の収集・保存:主としてコンブ類を収集し、特性を調べ配偶体の継代培養で保存していますが、昨年度は培養細胞凍結保存を試み、40%前後の生残率を得ることができました。これは褐藻類の凍結保存として初めての成功でした。(2)異体類再生産形質における変異生の解明:各海域のマガレイの再生産形質について比較検討しました。成熟年令は雌雄とも2~3齢で各海域で同じでしたが、成熟サイズに顕著な差があり、北海道太平洋側で大きな傾向のあることが分かりました。(3)魚介類の成長機構の解明:甲殻類の成長に関与する整理活性物質を探索し、ハナサキガニの脳及び胸部神経節にインスリン様物質の存在することが示唆され、その確認を急いでいます。
羅臼のスケトウダラは流氷と共にくるといわれていますが、その真為のほどは不明です。今年、流氷は3年ぶりに接岸しましたが、スケトウダラ漁獲量は同じ時期と比べて1/3と減少しました。資源の有効利用は人と自然のよりよい調和が必要です。今後、自然科学を希望する多くの科学者が調和を大切に取り組む姿勢が必要です。
(企画連絡室長)
北水研の目の前を流れている親潮は、ご存知のように、北太平洋最大の寒流です。ラブラドル海流はこれと並ぶ、北大西洋の最大の海流です。これらはともに、それぞれの海域の大漁場の生産を支えている点も共通しています。親潮は北水研が担当する重要な研究対象です。ラブラドル海流域の水産研究は、ニューファンドランドのセントジョーンズにある、カナダ漁業海洋省の北西大西洋漁業センターが担当しています。北水研と北西大西洋漁業センターは、科学技術庁の予算で、この親潮とラブラドル海流域の比較研究を進めています。この3月までに海洋動態研川崎室長と浮漁資源研和田室長がカナダを訪れ、ヘルビック博士とウェア博士が北水研に来所し共同研究を進めました。成果にご期待下さい。
(海洋環境部長)
新しい問題と海域の特性把握のためには、新しい測定手法が必要です。水産海洋研究は、環境と資源変動との関係を解明することがその使命です。したがって、海洋環境の物理的そして生物的計測手法だけではなく、相互作用を解明するための方法を開拓しなくてはなりません。
この課題では、物理的海洋環境については、親潮を含む西部亜寒帯循環系の強さと広がりなど大規模で長期的な変動を監視し予測する手法を、生物的環境については、低次生物生産過程を定量的に測定する手法、そして紫外線を含む光条件の効果の測定法の開発を進めています。またマイワシの資源変動の解明、磯焼現象の解明のために、総観的海況が生物の分布に与える影響を評価する手法を開発しようとしています。
口は出しても手を出さず、不言実行等名言がありますが、前者は他人事に言いたい放題発言する場合が多く、当事者は大変苦労の多いものです。後者は先輩諸氏から良く言われたものです。自ずと発言内容に責任を伴うようになります。貴方ならどちらを選びますか。「口も出し手も出す」研究体制が必要なのではありませんか。
(所長)
マイワシ資源の減少が心配されています。マイワシは歴史的にみて長周期の大きな資源変動を繰り返しており、現在は高水準期を過ぎ、減少期に入ったと考えられています。全国の漁獲量は1988年の449万トンから昨年は推定約290万トン(新聞情報)に低下しました。昨年の道東海域でのまき網漁況は9月下旬から急速に悪化し体長18㎝未満の若齢魚も殆ど出現せず、漁獲量は一昨年の72%、66万トンでした。
マイワシ資源動向の迅速な把握・予測は社会的に重要で、水産庁は昨年度から太平洋系マイワシの緊急調査を始めました。シラスから成魚に至る時期の分布調査や定置網調査等を行い、予測に役立つ資料の速やかな収集・解析がねらいです。平成4年度から、対馬暖流系マイワシを追加します。この調査から資源変動要因の解明が、さらに前進すると期待されます。
(資源管理部長)
親潮水域を含め北方亜寒帯水域の生物生産における生産性の高さは、量的な面よりも餌料生産としての質の特性にあります。亜寒帯水域と比較した場合、亜寒帯水域の生物生産は、植物プランクトン大増殖が春と秋の2回あること、その間も沿岸部では高い基礎生産が持続すること、それらの生産物の沈降によって陸棚上での二次生産が高いこと、餌料生物のサイズが大きいこと、などを特徴としています。この研究課題では、こうした親潮水域の生物生産の構造的特徴を流氷・結氷を含めた親潮水域の海洋構造とその変動との関連で明らかにし、高い生産生物の維持機構と変動特性を解明して、重要水産資源の環境収容力の動態の把握を目指します。
具体的には、マイワシ資源の大規模な変動と索餌域である親潮水域の餌料生産の変動との関係の研究や、地球環境変化が海域の生物生産に与える彰響の評価などの大きな問題との係わりの中で、研究を展開しています。
2月の北海道は、寒気の厳しい時期ですが、産卵のため沿岸に来遊する魚コマイがいます。厚い氷の下で行われるコマイ漁は、氷下待網漁と言われており、道東の冬の風物詩です。コマイが何故酷寒中に産卵を行うのか、それは北方生物の季節変化に適応した種族維持をするための自然の知恵の深さだと感じています。
(企画連絡室長)
北方四島の返還問題は当水研にとって、遠くて近い問題です。「何時、どんな形」の返還になるかは、予測がつきませんが、いざ返還となると、北方海域担当水研としては、当然準備しなくてはならないことが、目白押しに出てくるでしょう。また、北海道周辺を巡る漁業情勢は、沖合遠洋漁業からの撤退を余議なくされています。
このような情勢から、我国沿岸の漁業生産秩序の見直しと一層の生産性向上のために、平成3年11月12日、北水研会議室において、日本栽培漁業協会との間で官民共同研究交流会が持たれ、栽培漁業の推進を目標に、今後継続的に研究交流を実施し、本邦北部沿岸海域の「つくり育てる漁業」の推進に役立てようと考えております。
(所長)
北方亜寒帯水域特に親潮水域は、寒流系魚類の生活域であるとともに、サンマ・マイワシなどの広域回遊性魚類の索餌域となる生産性の高い水域です。高い生産性の維持には、豊富な栄養塩をこの海域に運ぶ親潮が重要な役割を果たしています。この研究課題では、親潮水域の生産性を支えている物理的自然基盤を明らかにし、資源変動の法則的理解に必要な基礎的知見を得るために、親潮の流れと水系の構造、それらの変動を解明します。
これまでの海況研究は、表面あるいは100mまでの比較的上層の水温分布によって捉えられ、現象記述に留まっていました。この研究では、力学的な構造と変動の物理的機構の解明を通じて、海況の法則的理解に向けた新たな展開を目指しています。具体的には、北太平洋にわたって展開されている海洋大循環の解明に向けての国際的研究計画、そして大西洋における親潮に相当するラブラドル海流域との比較研究、などの中で研究を進めています。
一頃、騒がれていた物を再利用するという風潮が、再び起こり、所謂、社会活動としてリサイクル運動を推進する人達がふえています。紙パックの再利用等々。
我々の住む地球が分解・合成等を繰り返す巨大なリサイクル・システムなのです。この地球に住む我々も、可能な限り資源を大切にして行きたいものです。
(企画連絡室長)