北水研ミニ情報「北の漁火」 第53~64号(1996年,平成8年発行)

号(年月) 今月の話題 研究の紹介
第64号(平成8年12月) パイセス(北太平洋海洋科学機構)第5回年次会合が開かれた 魚たちの餌の豊度に大きな経年変化がある
第63号(平成8年11月) 日・ロ中間ラインと千島周辺調査 海の牧草=植物プランクトンの四季
第62号(平成8年10月) オホーツク海でのスルメイカ調査 表層混合層=海と大気との接点 そして生産の場
第61号(平成8年9月) おさかなセミナー’96 を終えて 計量魚探による資源量推定
第60号(平成8年8月) ハダカイワシの資源化技術開発 スルメイカの種仔調査
第59号(平成8年7月) おさかなセミナー’96 ゛道東のサンマ゛ 資源管理と魚の生死
第58号(平成8年6月) 研究レビューの実施について 生態系にやさしい種苗放流技術
第57号(平成8年5月) PICES-GLOBEC モデリング・ワークショップ 沿岸の生物生産を支えるコンブ
第56号(平成8年4月) 着任にあたって 沿岸の生物生産を探る
第55号(平成8年3月) 平成八年度に向かって 浮魚の餌としての亜寒帯海域の動物プランクトン
第54号(平成8年2月) 真冬の味覚 ゛しらこ゛ 紫外線の増加が動物プランクトンの再生産に与える影響
第53号(平成8年1月) 資源管理型漁業における合意形成 混合水域における北太平洋中層水の形成機構

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北の漁火 第64号(平成8年12月)

今月の話題:パイセス(北太平洋海洋科学機構)第5回年次会合が開かれた

 10月にカナダ・バンクーバ島のナナイモで開催された今回の会合は、初代議長ウースター博士の退任というパイセスにとって節目を成すものとなった。
 会議の冒頭、ウースター議長はパイセスの展望についてスピーチを行い、今後に向けて解決すべき事を提起した。それらは議題として検討され、各メンバー国内のパイセス活動に関する連絡調整機能の確立とパイセスのコミュニケーションの革新への取り組みが成されることになった。新議長としてはカナダのダブルデイ博士が選任された。
  1973年にまで遡るパイセス設立の動きから終始リードしてきたのが、これまで議長を務めてきたウースター博士である。博士の執念とも言うべき情熱に牽かれて、パイセスはその揺籃期を通り抜け、これ以降は、自らの体躯と精神を自ら鍛えつつ、国際社会における役割を確立していくことになる。
 今会合は、私にとっては、科学評議会議長としての最初の年次会合であり、気力を昂揚させ続ける必要のある場であった。
(海洋環境部長 柏井 誠)

研究の紹介:魚たちの餌の豊度に大きな経年変化がある

 ほとんどの魚たちは動物食です。それは海洋での植物は小さなプランクトンとして水中に散在しているため、効率よく食べられないからです。小さな植物プランクトンを食べる動物プランクトンは少しサイズが大きいため、魚たちが餌として利用できるのです。
 かつては、魚たちの餌は海の中に有り余っていると信じられていました。しかし、それを疑わせる事実が明らかになりつつあります。マイワシ資源が爆発的に増加したとき、マイワシの成長は悪くなりました。サケ・マスの回帰量の増加とともに体長が小さくなっています。限られた餌を分け合っているためと考えられます。
 道東沖定線で続けているモニタリングの結果、動物プランクトンの豊度に5年あるいはそれ以上の時間規模で、5倍近い豊度の変化が起きていることが明らかになりつつあります。この変化は、親潮前線に至る定線全体で見られることから、親潮水域全体の変動である可能性があります。
 この変動の原因は何か、魚の資源量にどのように影響しているか?その解明に取り組んでいます。
(話題提供:海洋環境部長 柏井 誠)

ひとこと

 北海道地方では、厳寒の冬期間における保存食品として古くから飯ずしの製造が行われております。飯ずしは漬物の一つであり、塩蔵魚肉を飯と一緒に長期間漬け込み、自然発酵させたものです。飯を乳酸菌などの発酵により酸とアルコールを生成させ、これらの成分が腐敗を防止すると同時に魚肉に浸透し、うま味を増すバイテク食品の一つでもあります。日常生活習慣から、自然に考案された昔の人々の知恵にひたすら感服するだけであります。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

ミニじょうほう

<調査船行動>

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北の漁火 第63号(平成8年11月)

今月の話題:日・ロ中間ラインと千島周辺調査

 最近、我が国漁船のだ捕と銃撃が繰り返されている中、ロシア200海里水域内での調査はいつになく緊張します。
 日・ロ中間ライン水域(根室海峡、野付水道、珸瑶瑁水道)を航行・調査中は、灰色のロシア国境沿岸警備艇1~2艇が本船の行動を黙視しながらも、なにげなく監視している模様です。調査海域では200海里へ入域する際、ロシア側へ通報し、入域許可書、各種証明書等を保持し、船体両舷に英、ロ文字で日本科学調査船の表示の上、国旗、水産庁旗、調査船旗を掲げています。さらにロシア研究者が乗船して共同調査を行うのですが、官庁船であっても臨検の可能性があり、時間のロスを避けるためにも、調査点周辺における警備艇や漁業監視船の行動にも十分留意しながら調査を行っています。
 この水域における我が国漁船の安全操業の確保については、現在も引き続き政府間で枠組みつくりのための協議が行われていますが、一日も早い決着を期待したいものです。
(探海丸船長 土谷 貞征)

研究の紹介:海の牧草=植物プランクトンの四季

 釧路の後背地、道東には広い牧草地が広がっています。春、雪解けが終わり暖かくなると、牧草地は一面に芽吹き、初夏には一番草が刈り取られ、大きなおむすびのような牧草ロールが草地に点々ところがります。
 海の牧草、植物プランクトンも春に勢い良く育ちます。植物プランクトンの春の大増殖です。牧草と違って、植物プランクトンは、小さな細胞が、海の中を浮遊しています。草地の肥沃な表土にあたるのが、表層混合層です。冬には混合層は光の届かない深さにま達していて、植物プランクトンの生育に適さなかったのが、春の太陽に表層が暖められて表層混合層が浅く形成されると、春の大増殖の開始です。
 道東沖で続けてきた観測の結果、この春の大増殖が親潮水域では毎年起こること、その担い手は豊富に存在する硝酸塩を利用する大型の植物プランクトンであること、親潮前線以南の水域では顕著に起こらないこと、大増殖期に硝酸塩が使い尽くされた後はアンモニア塩を使う小型のプランクトンが生産を担うこと、などが明らかになってきました。
(話題提供:海洋環境部長 柏井 誠)

ひとこと

 10月下旬に水産庁研究所庶務部課長会議が北水研で開催されました。
 釧路特有の秋の好天にも恵まれ会議は無事に終了しましたが、厳しい財政事情と近い将来予想される行政改革に向けての対応、また実務面では時代に即応した事務処理要領の改正等、穏やかな中にもこれからが大変だなと思われる会議でした。
(庶務課長補佐 毛利 正樹)

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北の漁火 第62号(平成8年10月)

今月の話題:オホーツク海でのスルメイカ調査

 ここ数年、オホーツク海沿岸や羅臼沿岸でスルメイカが豊漁というニュースを聞く機会が多くなりました。オホーツク海のスルメイカは太平洋と日本海の両方から来遊すると考えられますが、その詳しい生態は不明です。
  北水研は、平成七年から道東及び千島列島南部海域で日本・ロシア協力イカ類資源調査を8~9月に実施しています。 調査は自動イカ釣り機でスルメイカ等を漁獲し、その分布状況や成長・成熟状況を調べることを主な目的としています。 今年は太平洋側に加えオホーツク海でも調査を行った結果、太平洋側に匹敵あるいはそれを上回る漁獲がみられ、オホーツク海でのスルメイカ分布密度が高いことが示唆されました。
 今後もオホーツク海での調査を継続し、オホーツク海でのイカ類、特にスルメイカの分布・来遊生態の解明、来遊量水準の推定、漁況予測精度の向上に結びつく調査・研究を実施していく考えです。
(資源管理部頭足類資源研究室長 中村 好和)

研究の紹介:表層混合層=海と大気との接点そして生産の場

  海の表層の暖められた軽い水の層は、嵐の風浪などでよく混合しているため、表層混合層と呼ばれます。植物プランクトンは、浮力も泳ぐ力も持ちませんが、この混合の効果で表層の光の届く層(有光層)に留まって光合成が出来るのです。
 冬には強い混合のために光の届かない深さにまで発達します。この時植物プランクトンは有光層に留まれないため生産はされず、植物プランクトンの密度は極めて低くなります。しかしこの時、表層の水は栄養塩の豊富な深層の水と混ざり、上 層の栄養塩は豊富になります。
 1993年に千島列島周辺 の海域を10月と11月に調査したデータと人工衛星のデータを使って、この混合層の発達に何が作用するのかを調べました。その結果、冷却の効果が一番大きく、風の力はそれに比べて二百分の一の影響しかないことが分かりました。オホーツク海内部の宗谷暖流の影響を受けた、塩分が高く温かい水は最も強く冷却の影響を受けて重くなり、混合層も深くまで発達します。オホーツク海が冷たい親潮の水の起源になるメカニズムの一つです。
(話題提供:海洋環境部長 柏井  誠)

ひとこと

 魚を糠に浸けた漬物があることは知っていましたが、釧路ではサンマ、ニシン、イワシ、ホッケなどこんなにポピュラーとは知りませんでした。今年の「おさかなセミナーくしろ」のテーマはサンマで、講演会での芳賀先生のいかにもおいしそうな食べ方のお話し振りに刺激されて、これまで何となく敬遠していたサンマの糠浸けを買って食べてみました。個性的な味で北国で育った人々にとっては、忘れられないふるさとの味の一つではないかと思いました。
(所長 佐々木 喬)

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北の漁火 第61号(平成8年9月)

今月の話題:おさかなセミナーくしろ’96を終えて

 市民への水産研究の広報セミナー、今回は、「道東のサンマーその生活からおいしい食べ方までー」 の主題でパネル展(8月1日~9月6日)と講演会(9月6日)を開催しました。おいし食べ方まで、とテーマに盛り込んだため、婦人団体からの参加予約や料理教室の有無の問い合わせが多数あり、さい先良いスタートでした。
 釧路市立博物館でのパネル展では、サンマの生態・漁業からその食べ方までを分かりやすく図解した15枚のパネルの他に、サンマ操業現場のビデオを放映、小学校の教材にとダビング依頼があるほど好評でした。4人の研究者の講演には、90名近くの参加があり、例年に比べ女性の姿が目につきました。講演についてのアンケートでは、おもしろかったと答えてくれた方が76パーセントと、もう一工夫必要のようです。
 期間中の解説パンフの持ち帰りは1,590部、釧路市民の125人に一人がこの企画に参加して下さったことになります。これを励みにもっと愛されるセミナーを。
(「おさかなセミナーくしろ’96」企画・実行委員会事務局長 鶴田義成)

研究の紹介:計量魚探による資源量推定

 水産資源の管理を行うためには、まずその魚がどこにどれだけの量が分布しているのかを押さえる必要があります。浮魚資源研究室では計量魚群探知機を用いたスケトウダラとオキアミの現存量評価法の研究を行っています。
 下の図は本年6月下旬に北海道東部沿岸沖合域で実施した調査結果で、縦に並んだ棒の高さがその場にいた魚の量を示します。
 この調査から、本年6月の道東太平洋の大陸棚には、およそ33億尾、9万トンのスケトウダラ1歳魚が分布していることが推定されました。この調査は今後も各季節ごとに実施する予定ですが、スケトウダラ1歳魚が漁獲対象となる2歳魚になるまでの間の移動や減耗の程度が把握できるものと期待しています。
(話題提供:資源管理部浮魚資源研究室 本田  聡)

ひとこと

今年も、釧路地方で始まったサンマ漁は豊漁の予測がされています。かつて、毎年秋に開催される農林水産祭で、サンマの薫製品が水産部門で天皇賞を授賞しました。この製品は、サンマを薫製にすることで骨ごと食べられ、現代のカルシューム不足に対する消費者の健康指向ををうまく捉えた加工法が、工夫努力したことで認められたものです。
 現代の消費者ニーズを捉えたアイディアがヒット商品に結びついたことに注目したいものです。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

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北の漁火 第60号(平成8年8月)

今月の話題:ハダカイワシの資源化技術開発

 昭和62年~63年頃に最盛期であった道東沖での夏場のマイワシ漁は、近年ではほとんど皆無になっています。このマイワシの代替魚種のひとつとしてハダカイワシが考えられ、その資源化のための技術開発研究が水産庁の補助事業として、社団法人マリノフォーラム21により平成六年度より実施されています。
 このハダカイワシ類は世界中に広く分布し、イカ類やオキアミ類と同様に膨大な資源量が存在するとされ、その種類は日本近海でも約百種類にも及ぶと言われています。
 今回の事業調査により、今までにデータの少なかったハダカイワシ類の生物特性や成分特性について次第に明らかになってきています。これらの成果から漁獲技術、すり身生産等の食用化技術、ワックスの分離技術、養魚用飼料化技術、油脂の利用技術等のハダカイワシ類の資源化についての周辺技術が確立されつつあり、今後の研究成果が期待されているところです。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

研究の紹介:スルメイカの稚仔調査

 太平洋側でのスルメイカ年間水揚げ量は、1960年代後半には30万~50万トン以上もありましたが、その後急激に減少し、1970年代・1980年代には1,2万トン台の年が多く続きました。それが1989年頃から増え始め、1992年~1995年までの水揚げ量は9万~15万トンを示すようになりました。
 太平洋側で漁獲されているスルメイカの大部分は、これまでの調査・研究から、九州や四国の南側の海で冬に生まれ、黒潮や黒潮から派生する暖かい水に乗って夏には東北・北海道の海にやって来ると推定されています。
 頭足類資源研究室では、太平洋のスルメイカ資源に関する調査・研究の一環として、スルメイカの稚仔調査を最近始めました。過去にも稚仔調査を実施したことがありましたが、当時は資源水準が低かったためにほとんど稚仔が採れず中断していました。
今年の2月に本格的な調査を行い、ボンゴネットという採集器具を使い、ネットを1回曳いて数十~数百尾のスルメイカ稚仔を採集できたところが、九州の南側の海で多くありました。調査を始めたばかりで比較できるデータはまだありませんが、スルメイカの稚仔は沢山いる感じがします。
 スルメイカの稚仔の生態や分布量を調べることは、スルメイカ資源の変動機構の解明や漁況を予測する上で重要な情報を与えると考えています。
(話題提供:頭足類資源研究室長 中村 好和)

ひとこと

  新聞・テレビ等でインターネットという言葉をよく聞くようになりました。住んでいる場所に関係なく、新しい情報が瞬時に伝わる時代になり、5年前「北の漁火」の発行を始めた頃と比べ、伝達方法が多様になりました。北水研ではインターネットで研究所を紹介しています。
(情報係長 高 幸子)

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北の漁火 第59号(平成8年7月)

今月の話題:おさかなセミナーくしろ’96 ”道東のサンマ”-その生活からおいしい食べ方まで-の開催

 一般市民への水産研究の広報を目的に、釧路水試、市立博物館などと共に始めたセミナー、5回目の今年は 8月1日から始まります。今回の主題は、「道東のサンマーその生活からおいしい食べ方までー」です。道東 から姿を消したマイワシやマサバとともに青魚の代表であるサンマ、全国の30%が道東で水揚げされます。 サンマの漁業、生活史、海中のサンマの量の測り方、そしておいしい食べ方までをパネル展示と講演で分かり やすく紹介します。今回はとくに主婦層を主なターゲットとしました。

講演会:9月6日 釧路市生涯学習センター

講題:「サンマの生活と漁業」、「サンマの量を測る」、「サンマの栄養と利用」、「おいしいサンマ」

パネル展:8月1日~9月1日 釧路市立博物館 9月3日~6日 釧路市生涯学習センター

「おさかなセミナーくしろ’96」企画・実行委員会事務局長 鶴田義成(資源管理部長)

研究の紹介:資源管理と魚の生死

 国連海洋法条約の発効を迎えて、合理的で公平な資源管理の実現が、これまでに増して強く求められています。
 資源管理とは、魚介類を将来にわたって永く採り続けることができるよう、さまざまな手立てをとることを言いますが、その中心となるのはTAC(許容漁獲量)に代表される漁獲量の調節です。
 TACを決めるうえで基本になるのは、管理対象資源の、量の多寡や増減の傾向を捉え、さらにそれらに及ぼす漁獲の影響を推し量ることです。
 魚介類は、産み出されたあと、成長する一方で自然の原因(飢え、他の生物に食われる、病気、不適切な気候・海況など)によって死んでいきます。これに漁獲が加わったとき、資源がどんな状態になるかを底魚類(タラ類、ホッケ、カレイ類、キチジなど)について明らかにすることが、私たち底魚資源研究室の主な研究課題となっています。
 これまでの研究から、北海道周辺の底魚資源の増減は、主に自然の原因による場合(マダラ)、自然の原因と漁獲による場合(スケトウダラ)、そして主に漁獲による場合(キチジ、メヌケ類)の3つに分けられることがわかってきています。ただし、このことを証明するに必要なデータは不足がちです。限られたデータから、できるだけ確実な情報を引き出す工夫、これが大切だと考えています。
(話題提供:資源管理部底魚資源研究室長 渡辺一俊)

ひとこと

 長年続いていた北海道日本海沿岸の磯焼け現象が、本年は今のところほとんどみられないと聞いています。海藻が深所まで繁茂している所もあり、海草が邪魔でウニの収穫しにくい所もあるほどで、このためウニの実入りも大変良いとのことです。
 今年は平年に比べ、冬の終わりから春先にかけて低水温で推移したことが影響したものと思われ、特研「磯焼け」の研究成果を裏付けるものとして関心の持たれるところです。
(資源増殖部長 大池 数臣)

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北の漁火 第58号(平成8年6月)

今月の話題:研究レビューの実施について

 今年の7月17、18、19日の3日間にわたって、水産庁の6つの海区水産研究所(北海道、東北、中央、南西、西海、日本海)の研究レビューが農林水産技術会議の専門委員と研究管理官等で構成されるレビュー班と各水研の所長および企画連絡室長が一堂に会し、釧路で実施されることになっております。 研究レビューは、試験研究の円滑かつ効果的な推進を図るために、農林水産技術会議と試験研究機関との間で相互に意見交換を行い、試験研究の実施状況等について検討し、所要の措置を講ずる主旨の下で実施されるものです。
 このレビューは昭和40年の開始以降、平成3年度までの間で5巡目が終了しております。今度の6巡目の研究レビューでは、国連海洋法の批准、生物の多様性に関する条約の発効等水産試験研究を取り巻く諸情勢が大きく変化しており、これらの動向に適切に対応するために試験研究の推進方向、管理運営上の問題点の摘出 を行い、その改善方向について検討することになっております。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

研究の紹介:生態系にやさしい種苗放流技術

 水産庁では、平成7年度から「生態系保全型種苗生産技術開発事業」という調査・研究事業を開始し、水産研究所をはじめ水産試験場、水産孵化場、大学、日本栽培漁業協会など、多数の機関が参加して研究に取り組んでいます。このプロジェクト研究の目的は、人工種苗を放流する際に、すでに天然に生息している対象種の遺伝的多様性をそこなわないよう、多様な遺伝的組み合わせを持った種苗を生産するための技術を開発することにあります。そのために、この事業の中では①種苗の遺伝的多様性を確保するに足りる親魚数の基準化と、②必要数の親魚を効率的に管理するための早期雌雄判別法の開発を2本柱として課題が組み立てられています。
 私たちの研究室は、ニシンを対象に「アイソザイム対立遺伝子を指標とした有効親魚数推定法の確立」と、北方性カレイ類を対象に「医療機器等による形態学的雌雄判別並びに血清診断による生化学的雌雄判別」という2つの課題で参加し、この問題の解決に向けて貢献していきたいと思っています。
 将来に向けて永続的に海や川を有効に利用していくために、自然の調和を乱さない利用方策を考えていくことは、水産研究機関に与えられた重要な役割の1つであると受けとめています。
(話題提供:至言増殖部浅海育種研究室長 松原 孝博)

ひとこと

 水産物の流通が全国的に整備され、なんでも手に入る時代ですが、それでもその土地でしか味わえないものがあり、そのようなものを探し歩くのも楽しみの一つです。先日週末に厚岸までドライブした折、海苔とカニの外子の醤油漬けを見つけて買ってきました。厚岸産の海苔は厚く、歯ごたえと旨味に富み大変美味でした。カニの外子の醤油漬けは、かつて調査船上で自分で作った覚えがある食べ物で、プチプチと歯ではじけた後に広がる独特の旨味が、当時の船上での生活を懐かしく思い出させてくれました。これからも、北海道でしか味わえない味覚を楽しみにしています。
(所長 佐々木 喬)

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北の漁火 第57号(平成8年5月)

今月の話題:PICES-GLOBECモデリング・ワークショップ

 PICES(北太平洋海洋科学機構)が進めているGLOBEC・プログラム“気候変化と環境収容力”の一環として、北太平洋亜寒帯生態系のモデリングに関するワークショップが、6月23日~28日に根室市で開催されます。この中には日本GLOBEC委員会と東大海洋研が主催するミニシンポジウム“海洋生態系における計測への新技術の適用とモデリング”も組み込まれています。この“気候変化と環境収容力”プログラムでは、モデル、究成果の整理統合のためだけでなく、研究展開の設計図として位置づけています。このため、研究実行の最初にこのモデリング・ワークショップが企画されました。
 わが国におけるGLOBEC関連プロジェクトは、今ちょうど予算申請あるいはそのための研究計画の設計段階にあります。したがって、このワークショップでの論議の結果は、わが国の研究プロジェクトの立案にも大いに貢献するものと期待されます。
(海洋環境部長 柏井 誠)

研究紹介:ナガコンブの光合成特性

 北海道の沿岸には十数種のコンブが生育していますが、釧路地方沿岸の岩礁域に生育しているナガコンブはその中でも最も低い水温域に生育する種類の一つと言えます。私たちの研究室ではこの冷たい海に生育するナガコンブの生理学的な特性を調べてきました。
 これまでの研究の結果、ナガコンブは厳冬期の摂氏0度以下にまで低下した温度条件でも植物の基本的な生理機能である光合成の活性を比較的高い状態で維持できることが明らかになってきました。
 光合成とは太陽のエネルギーを利用し、二酸化炭素と水から炭水化物を合成する反応です。ここでつくられた炭水化物に他の元素が加わって、たんぱく質や核酸などの生体構成物質がつくられます。
 今後、暖海性のコンブ科褐藻についてのデータとと比較検討しながら、ナガコンブの光合成活性が低温でも比較的高く維持される仕組みについて明らかにしていきたいと考えています。
 これからの時代は沿岸の生物生産をいかに有効に利用していくかを考えていかなければなりません。したがって、その生物生産の基礎となる「一次生産者=海藻」の持つ様々な機能を研究することも水産研究所の重要な仕事の一つと考えています。
(資源増殖部藻類増殖研究室主任研究官 坂西 芳彦)

ひとこと

 水研の周辺には、4、5cmの大きさの砂利が敷きつめられた昆布干しの広場があちこちに広がっている。5月中旬になるとその殺風景な中に、アサリ採りの如くに砂利を掻き雑草を引き抜く老婆の姿や、5m位の手すり付きの桟橋を整備する人がみられてきた。まもなく昆布森や益浦地先の海から採集された昆布がところ狭しとならべられる。今年は何時になく寒い冬が続いている。流氷の南下もみられたことから、海底の雑草が掃除されて昆布の漁のよいことが予想される。昆布干しの風景と香りが醸し出す道東の春、早く体験したいものだ。
(資源管理部長 靍田 義成)

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北の漁火 第56号(平成8年4月)

今月の話題:着任にあたって

 本誌初登場の佐々木と申します。新宮前所長の後任として、静岡県清水市にある同じ水産庁の遠洋水産研究所から、今回が初めての異動で北水研に過日赴任しました。遠洋水産研究所では、ギンダラを始め主に北洋の底魚類の資源を対象に仕事をしてきましたので、北海道周辺の魚種についてはそれほど違和感はありませんが、北水研の仕事との係わりにつきましては、スケトウダラを中心とした生物生産過程の解明を目標とした研究計画に関するワークショップに2回程参加した程度です。また、我が国の沿岸・沖合漁業についても、北海道を含めこれまでほとんど関係してこなかったため、これから勉強しなければなりません。国連海洋法を批准して排他的経済水域を設定し、その中の資源と漁業を許容漁獲量によって管理するという全く新しい時代を迎え、水産研究所の役割が改めて問われています。これまでの経験を生かし頑張りますので、よろしくお願い致します。
(所長  佐々木 喬)

研究の紹介:沿岸の生物生産を探る

 当研究室ではアサリとフクロエビ類を研究し、寒冷ながら増養殖が盛んな北海道沿岸の生物生産のなりたちを探っています。北海道のアサリ生産は本州に比べ多くありませんが、近年になり増産をめざして増殖場が造成されるようになっています。しかし北海道のアサリ増殖は経験が浅く技術は未確立ですので、事業の展開に資する目的で増殖場の調査をすすめています。これまでに、成果があった増殖場のアサリと環境の特性を概括的に把握することができました。現在はアサリの棲みやすさというフクロエビ類は種類数が多く生態も多様で、沿岸では生物量がかなり大きい動物群ですので、本群の物質循環へのかかわりは沿岸生態系の生物生産を考える場合などに重要です。水産では新規の分野でして、藻場のオホーツクヘラムシが海藻を摂食していることや砂海底のシオムシが秋から冬に幼体を孵出することなどいくつかの新しい知見を得ています。底棲性の多産種を対象に野外調査と飼育実験により摂餌や繁殖などについてさらに研究をすすめています。このような内容で現在のところ二人で研究にあたっていますが、来年度には本来の三人体制になる予定ですので、より活力ある研究の推進がはかれるものと思います。
(資源増殖部魚介類増殖研究室長  伊藤 博)

ひとこと

  ニシンといえば春を告げる魚と親しまれ、この資源の回復が待ち望まれております。ニシンの乾製品として古くから身欠きニシンが製造されており、現在でも根強く市場に出回っております。この製品には30%程度のあぶらが含まれておりますが、イワシやサバ等と異なってあぶらが悪く(酸化)なりにくい性質をもっております。人間の場合、老齢化とともに体内に脂肪の酸化生成物が増えてきますので、ニシン等を食することがその対応策として期待されます。
(企画連絡室長  柴田 宣和)

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北の漁火 第55号(平成8年3月)


今月の話題:平成8年度に向かって

 3月になると恒例の人事異動を迎えることになります。出てゆく人そして新しく入ってくる人たちの顔が少しずつ見え始め、新しい研究所の態勢が形づくられてきます。新年度を前にして毎年感じる節目の時でもあります。
  20年の歳月を要し、マラソン会議といわれた国連海洋法条約が間もなく批准されようとしています。ようやく開花した条約といえるかもしれません。これが21世紀へ向かって結実していくかどうか、水産研究所に期待される役割は大変大きなものになることでしょう。このような意味でも、今年七月に釧路で行われる海区水研の研究レビューは、私たちのこれまでの研究成果の集大成として位置づけられると考えます。現在議論されている水産研究の将来方向を的確に見すえ、新しい海洋利用のあり方について、思考のパラダイムが形成されることを期待します。
(所長 新宮 千臣)

研究の紹介:浮魚の餌としての亜寒帯海域の動物プランクトン

 親潮水域およびその周辺の亜寒帯海域は、亜熱帯海域に産卵場を持つ多獲性の浮魚類の索餌海域としてその生活に不可欠の海域となっています。それは亜寒帯海域の動物プランクトン密度が他の海域より高いうえ、大型で、成魚の餌としての効率が良いためです。
 しかし亜寒帯海域の動物プランクトンがすべて餌として有効であるとは限りません。魚の索餌行動と動物プランクトンの日周鉛直移動との時間的関係、分布水温帯の相違などで、餌と魚が出会う機会が限られるからです。
 親潮水域の動物プランクトンの中で餌として重要なカイアシ類の優占種は、メトリディア・パシフィカ、ネオカラヌス・プルムクルス、カラヌス・パシフィカの3種です。マイワシとこれら3種の関係を見てみましょう。
 メトリディア・パシフィカは夜間にのみマイワシの遊泳層である表層混合層に出現するため、マイワシの餌とはなりません。ネオカラヌス・プルムクルスは水温15度以下の親潮流軸上に多く、カラヌス・パシフィカスは水温13~20度の海域に多く出現します。したがって、水温の高い年にはネオカラヌス・プルムクルスの分布域が狭まり、マイワシはより小型のカラヌス・パシフィカに多く依存することになります。
(海洋環境部長 柏井 誠)

ひとこと

  釧路沖の海にいわしが来なくなって3年が過ぎました。かつて100万トン以上の漁獲の続いたことが忘られつつあるようです。海の中で何がどう変わったのか?いわしの餌であった植物および動物プランクトンは、今利用されないまま無駄になっているのか?この海の生物生産の変動の仕組みを明かにすることが、私達の使命と痛感しているところです。
(資源管理部長 村田 守)

ミニじょうほう

<調査船行動>

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北の漁火 第54号(平成8年2月)

今月の話題:真冬の味覚,”しらこ”

 厳寒の時期に鍋物で一献さすことは楽しみなことで、辛党の人間にとってはなんとも堪えられないものがあります。この時期に、水産食品の売り場に”タチ”なるスケトウダラの”しらこ”が並んでおります。このしらこは鍋物の素材として、最適であり、味覚も絶品であります。しらこは魚類の精巣の俗称ですが、”タチ”のように魚類や地域によって独特の呼び名があるようです。この”しらこ”にはプロタミンとヒストンと呼ばれる特有のタンパク質が含まれて、核酸と結合している核タンパク質に属し、精巣の成熟とともにヒストンが減少し、プロタミンが増加することが分かっています。このプロタミンは抗菌作用等の生理作用のあることが古くから知られております。また、最近になってこのプロタミンが脂肪やコレスレロールの吸収を遅延させることから、肥満や動脈硬化の予防に効果的であることが明らかにされつつあります。現在のところ、”しらこ”には化学的、生理学的にも不明な点が多く(特にスケトウダラについて)、科学的にも楽しみな研究素材でもあります。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

研究の紹介:紫外線の増加が動物プランクトンの再生産に与える影響

 フロンガスによるオゾン層の破壊は地表に到達する紫外線放射量を増加させつつあるため、海洋表層における低次生物生産に対する紫外線の影響を調べている。
  これまでの研究の結果、海洋表層に無視できない量の紫外線が差し込んでおり、植物プランクトン生産量の低下や色素の白化、カイアシ類のふ化率の低下をもたらすことが明らかになっている。ふ化率の低下は、総紫外線照射量が同じであっても、紫外線強度が強い短時間の照射よりも、紫外線強度の弱く長い照射の方が著しい。またふ化率低下への感受性は産卵直後の卵で高い。またこのふ化率の低下は、冷水域を生息域とし季節鉛直移動をする種類において顕著である。これらのことから、表層で産卵する種について紫外線増加の影響を楽観できない。
 紫外線の動物プランクトンに与える影響は種や発育段階によって異なることから、紫外線増加の影響を正しく予測するためには、動物プランクトンの個体群動態の定量的研究をより強力に推進する必要がある。
(話題提供:海洋環境部長 柏井 誠)

ひとこと

  今年の北海道の冬の寒さは例年になく一段と厳しく、しかも記録的な降雪量になっているようです。当初、初めての釧路地方での冬を迎えるにあたって、低い外気温に恐れ戦っておりました。しかし、日常生活の中では寒さを殆ど実感することはありません。この北海道の厳しい寒さを肌で感じる思い出をつくりたいと感じる今日この頃です。
(企画連絡室長 柴田 宣和)

ミニじょうほう

<調査船行動>

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北の漁火 第53号(平成8年1月)

今月の話題:資源管理型漁業における合意形成

 今年は、新しい海洋資源管理の年だと言われます。資源管理を実践していく上で、広く合意が行き渡ることは、やはり容易なことではないと思います。それは、管理管理に対する不自由さが連綿と持続し、伝統的な経済活動に負の誘引が働く、という思いがあるからかも知れません。
 生態系に調和した持続的な漁業の発展を目指して合意を得るためには「高度な管理システムの下で、漁業の自由度は大きくなる」・「エコロジー的に合理なものは、経済的にも合理である」といった視点からの考察が必要ではないかと考えられます。
 我々がこれまでに継続してきた資源研究のなかで、資源管理に対する思考の枠組みの中心部に据えてきた命題はどのようなものであったのか、もう一度点検をしてみる年ではないかと思います。
(所長  新宮 千臣)

研究の紹介:混合水域における北太平洋中層水の形成機構

 北太平洋の亜熱帯域の中層には塩分の極小を示す層が存在して北太平洋中層水と呼ばれている。この水の起源は、その水温と塩分から亜寒帯域に求められる。北太平洋中層水は亜熱帯の温かい水の底部から冷やす働きをしており、北太平洋の亜熱帯循環の長期変動機構の解明の上で注目されている。この北太平洋中層水の塩分は日本の東岸付近で最も低く、この海域が、すなわち親潮と黒潮が出会う混合水域が、主たる形成域とされている。
 この混合水域に流入する親潮と黒潮の流量と混合比を調べた結果、つぎのことが明らかになった。
 北太平洋中層水となる塩分極小層を境に、その上方では親潮系水の流量は密度の減少とともに急激に減少する。これに対し黒潮系水の流量は密度区分に対してほぼ一様である。この流量配分で親潮系水と黒潮系水が同じ密度層で混合すると、親潮系水の密度躍層底面に相当する層に塩分極小層を持つ混合水域の水系分布が形成される。したがって、北太平洋中層水は、この層に亜寒帯水が侵入して形成されるのではなく、この層を境に親潮系水と黒潮系水の混合比が大きく変化するために形成される塩分極小層である。
 亜寒帯から亜熱帯への作用である北太平洋中層水形成と相補的な、上層における亜熱帯から亜寒帯への熱と塩分の供給過程が、亜寒帯水域の海況変動機構の解明においては重要であり、今後の研究の課題である。
(話題提供:海洋環境部長  柏井 誠)

ひとこと

 例によって、師走には幾つも懇親会や忘年会をしました。そして毎度レストランに残してくる食べ物の量をみると、欠食児童を経験した者としては誠に恨めしく“消費ニーズの多様性”では割り切れない気がしました。食の形態ももう少しスリムにする必要があると考える今日この頃ですが、これはきっと年のせいだと思います。
(所長  新宮 千臣)

ミニじょうほう

<調査船行動>

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