号(年月) | 今月の話題 | 研究の紹介 |
第76号(平成9年12月) | 日ロ漁業専門家・科学者会議に参加して | カレイ科魚類の成長関連ホルモンの遺伝子構造と生理機能 |
第75号(平成9年11月) | PICES第6回年次会合が開催 | 疑問:沿岸の長期変動 |
第74号(平成9年10月) | 研究所・調査船(北光丸・探海丸)の一般公開を終えて | 漁場環境の保全にむけて |
第73号(平成9年9月) | おさかなセミナー’97を終えて | 親潮流量の季節変動とその亜寒帯風系統との対応 |
第72号(平成9年8月) | (釧路移転20周年記念)研究所及び調査船の一般公開に向けて | 植物プランクトンの生産と気象 |
第71号(平成9年7月) | 「おさかなセミナー’97」の開催 | 水産研究成果情報 |
第70号(平成9年6月) | TAC魚種の漁獲状況 | 魚の年齢 |
第69号(平成9年5月) | チリ国のサケ | 道東海域のイトヒキダラ |
第68号(平成9年4月) | 第5回WPEC会合開催される | スケトウダラ栄養動態モデル |
第67号(平成9年3月) | 平成8年度北海道ブロック増養殖研究部会 札幌市で開催 | 極寒期に産卵するカレイ その2 |
第66号(平成9年2月) | 北水研 釧路移転20周年にあたって | 氷の下 |
第65号(平成9年1月) | 年頭にあたって | フクロエビ類の多様性は『陸の王者』昆虫に匹敵する |
11月7~15日までウラジオストックで開かれた標記の会議に出席しました。この会議は、日ロ漁業委員会や合同委員会に先駆けて行われるもので、両国200海里水域内のサケ・マス類、スケトウダラ、サンマなどの資源状態や両国の共同調査・科学技術協力計画が協議されます。
今会議で、ロシア側は科学技術協力の一つとして、沿岸水産資源の管理と増殖技術の視察・意見交換のための研究者交流を要望してきた。ロシアが地先漁業を重視していることが感じられました。
代表団のサケ・マス担当者はサケ・マスふ化場を見学しました。ふ化場では施設に見合った卵数が確保されておらず、これは、遡上途中で親魚が捕獲される他に、伐採による森林の保水性が失われて河川が渇水状態にあるのも原因の一つとのこと。沿岸生物資源を確保するためには、正常な森林生態系の保存が必須なのでしょう。
(資源管理部長 靍田 義成)
連携開発プロジェクト「水産生物育種の効率化基礎技術開発」(H9~14年)の一課題としてこの課題を進めています。成長に必要な物質の同化制御には膵臓のインスリンが重要な役割を果していますが、魚類においてその遺伝子構造あるいは機能などに関する研究は少なく不明な点が多いというのが現状です。そこで魚類インスリンの一次構造、遺伝子構造、体内での挙動を把握し、魚類の成長の遺伝的改良技術開発のために内分泌系の「どこを遺伝的に改変すべきか?」といった問題に迫ることが目的です。これまでマツカワ等カレイ類においてインスリンや、インスリン分泌に密接な関係を持つグルカゴンとソマトスタチンについてもアミノ酸配列を明らかにしてきました。そして、インスリンに特異的かつ高度感な酸素免疫測定法を開発し、最近、血中でのインスリンの分泌動態を探るために各栄養分(主にアミノ酸)のインスリン分泌誘導能を確かめているところです。今後、飼育環境(温度、投餌量など)を変化させた実験区間おいてインスリンを中心に各ホルモンの量変動を把握し、成長における栄養同化制御系の解明をめざしています。
(話題提供:資源増殖部浅海育種研究室 安藤 忠)
平成9年から漁獲可能量(TAC)制度が実施された。TACの科学的根拠となる生物学的漁獲可能量(ABC)計算に必要な正確な漁獲量の資料の入手がTACの実施に伴い困難となってきた。今後調査船により独自の調査体制が必要となっている。
(資源管理部長 靍田 義成)
韓国釜山市において、PICESの第6回年次会合が、平成9年10月14日~26日に開催された。中間集計で280名以上、最終集計では300名を超えるこれまでの最高の参加者を数えた。
会議では多くの研究発表がなされ、海洋科学・水産科学の着実な進展が示された。昨年から採用された優秀発表賞が今回も各科学委員会毎に授与され、北水研の津田 敦/生物環境研究室長が生物海洋学委員会賞を獲得した。
PICESは、炭酸ガスに関する作業部会とマイクロネクトンに関する作業部会の新設を決定した。またPICES/GROBEC実行パネルに、モニタリングに関するタスク・チームを新設することとし、採集方法の相互検定や標準化、そして生態系動態のモニタリングについての検討を進める方針である。
コーヒー・ブレイクの論議の関心は、赤道域で進行中の、最大規模のエルニーニョに集まり、来年フェアバンクスで開催の年次会合のシンポジウムのテーマとなった。
(海洋環境部長部長 柏井 誠)
昔、沿岸ではニシンがたくさん捕れた、コンブが豊かに生えていた、・・・がたくさんいた、という話がある。統計資料で見ると確かに漁獲量が減少しているものが多い。
では、漁獲する水産物だけ減っているのか?
それともその他の海中の生物の種類や量も変化したのか?
変化したとすれば、それは沿岸の海洋環境が変わった為か?
では環境の何が変わったか?今でもその変動は続いているか?
沿岸環境は何に影響されているのか?変化の予測は?
海洋生物の生産を豊かにするためには環境の管理が必要か?必要ないか?
社会的コンセンサスは得られるか?
それとも、沿岸の生物が減ったのは人間のより直接的な影響(漁獲)か?
・・・?、・・・?、・・・?
沿岸での生物生産を維持し豊かにするためには、水産研究(生物学)にとどまらず、地域全体(・地球全体)の環境学から社会学まで広い分野のこれまで以上の緊密な共同作業が必要なのではないだろうか。これらをひとつひとつ解明するために研究を行っています。
(話題提供:資源増殖部 飯泉 仁)
すっかり冬の様相を呈してきました。つい先だってまで、菊まつり等の秋祭りが道内の各地で盛大に催されておりました。その中で、祭りのイベントとして、「よさこい・ソーラン踊り」がよく見受けられます。かつて、ソーラン節はニシンを船に汲み上げる時の作業唄でありましたが、現代風にメロディをアレンジし、老若男女を全く問わない、見事なリズムと連帯感のなかで素晴らしい躍動感を醸し出しております。昔のニシン漁の活気ある動きが連想されると同時に、今後のニシン漁の復活を祈りたいものです。
(企画連絡室長 柴田 宣和)
釧路移転20周年を記念し、研究施設・調査船の一般公開を通じて市民の皆様に研究所の存在をアピールし、研究活動や成果、調査活動を理解していただくことを目的に、「海と魚の科学」をテーマに9月28日(日)に開催致しました。
当日は、大雨洪水警報発令中にもかかわらず、心配された来訪者の出足も良く、受付に列ができる程でした。来訪者の構成で特に目立ったのは、30代と40代の家族連れで、来訪者の69%を占め、所内は、子供たちの元気な笑顔であふれていました。「お魚とプリクラ」のコーナーでは担当者が昼食を食べる時間もないほど1日中子供たちの対応に追われていました。
一般公開を振り返り多くの手応えを感じました。・・・・・・「職員から熱心な判り易い説明があり、大変おもしろかった」「顕微鏡でスケトウダラの年齢を観察できて感激」「イカの赤ちゃんがかわいかった」「来年の公開を楽しみにしている」等々、紙面に紹介しきれない数の賛辞とご指摘をもいただきました。
これらを糧に、水産に係わる者として、さらに意義ある一般公開にしたいと考えます。
(企画連絡室 情報係長 増田 芳男)
我が国周辺水域の漁獲対象生物にとって良好な漁場環境の維持・達成を図ることを目的に、漁場保全対策推進事業調査指針が平成8年度に策定されました。調査は水質やベントス(底生生物)など多項目について全国統一手法で行われるよう具体的な指針で定められています。この策定中から、全国の水域ごとに関係調査等は既に開始されています。北海道周辺はひとつの水域として区分され、北海道が事業主体となり推進しています。北海道の長大な沿岸漁場を対象領域として実績がある普及指導・資源増殖分野が中心となって担当しています。指針案を作成する段階では、北海道区水産研究所(北水研)が所管ブロックの北海道における実務上の特殊事情を考慮するなどの連絡調整を図る任にあたりましたが、関係機関の理解と協力を得て順調にすすめることができました。そして、平成9年度からは正式に策定された指針に基づく対応となりました。関係する水産技術普及指導所と北海道立水産試験場が担当機関として調査等をさらに本格的に行うことになりました。これからも北水研は北海道水産林務部漁港漁村課を窓口として指針に則り連携することになっています。今後も調査等が指針に沿った内容で実施され、事業が順調に推進していくことを期待しています。
(話題提供:魚介類増殖研究室長)
釧路沖のイカ釣船の漁火を見ながら、ふと思う。1990年から獲れ始めたスルメイカは今後増大するのか。関係者はサバの再来にも期待しているが、両種は共存できるのか。道東沖ではこれまでマイワシとサバとスルメイカの共存の記録はない。なぜ共存できないのだろう。漁師さんの質問に答えるのが研究である。
(資源管理部長 靍田 義成)
釧路市民に水産研究の活動や成果を広く知ってもらうためのセミナー、今回は、「道東のニシン―資源増大へのチャレンジ―」のテーマでパネル展(8月13日~9月13日)と講演会(9月13日)を開催致しました。
パネル展では、ニシンにまつわる話から、生態、成熟・産卵の仕組み、増殖事業の現状まで、15枚のパネルに分かり易く図示され、併せて、ニシンの稚魚から親魚までの標本の展示や太平洋ニシンのビデオが放映されました。解説パンフの持ち帰り数は約1200人でした。また、地元の釧路新聞には解説パンフの15枚の図と説明が1日1枚の割で連載されました。一方、講演会では、パネル展の内容に対応した4つの講演が研究者によって行われ、58人の参加がありました。参加者には大変好評でしたが、「参加者が少なくて残念。参加の呼びかけに問題はなかったか、良い企画を大切に続けてください」というアンケートに書かれたコメントを反省と励みにして次年度の企画に生かしたいと考えています。
(「おさかなセミナーくしろ‘97」企画・実行委員会事務局長 大池 数臣)
親潮は緩やかに深くまで流れている。水温前線に沿った強流帯に流れが集中する、黒潮とは、性格を異にする。水温観察で容易に据えられる、黒潮と同じ姿の海流だけが海流であるかのように誤解され、親潮は、冷たい水塊の広がりとしての姿が強調されてきた。しかし、親潮は、反時計回りに流れる北太平洋亜寒帯循環の主流であり、北太平洋の主要海流である。
海流の流量を測定するには、十数系の係留系による流れの長期連続測定が必要である。これは大規模プロジェクトとしてしか実現できない。そこで、厚岸沖定線観測のCTDデータと、同じ定線上の2系の係留系による長期連続測流データを組み合わせ、海流理論モデルによる流速分布を当てはめて、親潮地衝流量の見積りを試みた。その結果、親潮は、冬~春には表層から海底に至るまで西南西向きに流量30Sv(Svは海流の流量の単位、10
6
m3/secに等しい。黒潮の平均流量は60Sv)の流れを示し、夏~秋には流れは2000m以浅に限られ、流量は2~3Svに減少する。この親潮流量の変化は、北太平洋西部の風が駆動する海流の流量指標の変化と良く対応し、親潮が西部亜寒帯域の風系によって駆動されることを示した。
(話題提供:海洋環境部長 柏井 誠)
「道東のニシン」をテーマに8月から開催していた今年度の「おさかなセミナーくしろ‘97」が、9月13日の講演会をもって終了しました。講演会への参加者がやや少なかったことは今後の課題ですが、新聞等での詳細な紹介もあって、セミナーの活動への一般的関心は広まりつつあるように感じています。関係者は、この地味なイベントが、情報の発信を通して地域に貢献するものと確信し、来年度の新企画に向け取り組みを開始しています。ご支援ください。
(資源管理部長 靍田 義成)
今年の釧路は、何かと「節目の年」です。釧路湿原国立公園10周年、くしろ港まつり50回目等、道東各地で盛大に各種イベントが行われました。
当所も道央の余市町から当時、全国一の水揚げ量を誇る釧路市に移転して、この9月で20周年を迎えます。
当所では、これを記念し研究施設・調査船の公開・海洋観測機器の展示・各種イベントを通じて、水産研究所の研究活動や成果を市民の皆様に理解していただくことを目的に、「海と魚の化学」~その探求の最前線をのぞいてみよう~と題して9月28日(日)に釧路移転20周年記念イベントを開催することとなりました。
当所は、市中心部から離れていることやイベント初体験ということもあり、若干不安な所もありますが、成功に向けて着々と準備を整えています。
関係各位のご指導ご助言をいただけたら幸いに思います。
(企画連絡室 情報係長 増田 芳男)
雨上がりの日差しの中で草木の緑が輝くように、海の中の植物プランクトンの生産も気象の変化に敏感に反応しています。植物プランクトンも植物ですから、太陽の光と無機栄養物質そして海に融けた炭素ガスを用いて生産します。陸上の植物と大きく違うところは、水には困らないこと、大地に根を下ろさず水に漂っていることです。雲は太陽の光を遮ります。海が静かなままだと海の表層の栄養物質はすぐに使い尽くされてしまいます。風が吹いて海がかき混ぜられる必要があります。漂っている植物プランクトンが沈んでいってしまわずに表層付近にいられるためにも、海がざわついている必要があります。
こうした植物プランクトンの生産と気象の変化による物理環境の変動との関係を、定量的に調べるために、ブイを追いかけながら同じ水の固まりの中での植物プランクトンの生産と分布の変化、栄養物質の変化、物理環境の変化を5日間連続して観測しました。そして、海の表層の物理モデルと植物プランクトンの生産のモデルを結合した物質-基礎生産結合モデルを開発し、それを用いて観測結果を解析しました。その結果;
などが明らかになりました。今回開発し短期的な変動について検証されたモデルは、時化に伴う変化についての検証を経て、基礎生産の季節変動さらには経年変動の解析あるいは予測のための武器に、発展させていくことになります。
(話題提供:海洋環境部長 柏井 誠)
例年、夏になると食中毒が発生しやすい時期となり、特に最近になって、病原性大腸菌O-157を原因とする食中毒が発生し、食品の安全性に関する消費者の関心が高まっています。こうした状況下で、危害分析重要管理点方式(HACCP)の導入による新たな衛生・品質管理体制が(水産加工)食品業界において国際的趨勢の中で求められるようになっています。食品の衛生管理に関する認識が高い我が国でありますが、各製造工程における温度管理等の数値によるデータが求められている国際的対応に順応することも必要になってきています。
(企画連絡室長 柴田 宣和)
本企画は、一般市民に馴染みの薄い水産研究の活動や成果を広く知ってもらうため、北水研、釧路水産試験場等からなる企画・実行委員会が主催し、今年8月から9月にかけてパネル展と講演会を開催します。今年の主題は「道東のニシン~資源増大へのチャレンジ~」です。かつて北海道で大量に漁獲されたニシンについて「つくり育てる漁業」のひとつとして、各地でニシンを増やす試みが行われています。そこで、今回はニシンをテーマにしました。
(おさかなセミナーくしろ‘97事務局長 大池 数臣)
昨年度は水産研究成果情報の取りまとめを「平成7年度水産研究成果情報」第1号として刊行され、関係機関へ配布されました。今年も同様に作業が進められております。この趣旨は水産関係の国公立試験研究機関の研究成果を学術的な専門紙のみでの情報提供ではなく、研究内容を分かり易く表現し、産業、行政、研究に携わる人々に有用な情報として提供することにあります。
平成9年7月3日に開催された北海道ブロック水産業関係試験研究推進会議において北海道ブロック平成8年度分の水産研究成果情報候補課題の選別・評価が行われ、北海道区水産研究所3課題、北海道立水産試験場6課題、北海道立水産孵化場1課題が承認され、秋期に開催される水産業関係試験研究推進会議にて評価、分類される課題として提出することが決定しました。
ちなみに、北海道区水産研究所から提出した課題名は下記のとおりであります。
(話題提供:企画連絡室長 柴田 宣和)
本誌の編集に長く携わっておられた高情報係長が退職され、その後任として、食糧庁静岡食糧事務所から4月1日付けで赴任してきました。前任地では、輸入冷凍マグロ類の荷揚げを横目で見ながら、外国産麦類の輸入や援助米の輸出業務を担当していました。
以前(10年程前)同じ水産庁の遠洋水産研究所で仕事をした経験があり、水産研究所の仕事に対しそれほど違和感はありませんが、当時と比べ情報通信の高度化にはとまどうばかりです。時代に取り残されないよう勉強していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
(企画連絡室情報係長 増田 芳男)
わが国200海里水域内の主要6魚種について、本年1月から漁獲可能量(TAC)による新たな資源管理制度がスタートしました。6月に公表された4月末までの漁獲状況によると、北海道の重要資源であるスケトウダラの漁獲量は、26万7千トンのTAC(全国)に対して8万3千トンで、消化率は31%となっています。漁獲量を即時的に把握することは、TAC制度の運用の要ですが、これまでのシステムでは翌年後半にならないと集計結果が利用できませんでした。新たに構築された漁業情報集計システムが、漁業者を始め多くの関係者の理解と協力によって初年度から円滑に機能しているようです。初年度のTACは過去の漁獲量を参考に設定されていますが、将来は生物学的許容漁獲量(ABC)を基礎に設定されることになります。それには、調査研究機関が収集する資源量や体長組成等の情報とともに、精確な漁獲情報が必要です。
(所長 佐々木 喬)
生い立ちがはっきりしない、水中に住んでいる魚の年齢はわかるのでしょうか。実は、彼らは履歴書を常に肌身離さず持ち歩いています。代表的な物が、耳石(内耳の三半規管にある、カルシウムなどが結晶してできた物)です。耳石を特殊な切断機を使って切断し、その断面を観察すると、木の切り株のように同心円の輪が現れてきます。多くの魚では、毎年一つずつこの輪が形成されていますので、その数を数えて魚の年齢を知ることができるのです。この耳石を用いて、釧路港に水揚げされているスケトウダラのほとんどは、5,6歳までですが、まれに、20歳をこえるようなものがみられることがわかりました。ベーリング海では28歳のスケトウダラが見つかっています。スケトウダラは、実はかなり長寿な魚であると考えられます。
資源管理部では、このように、耳石を用いて魚類の年齢を調べて、より正確な資源量の推定を行う努力が続けられています。また、年齢のみならず、本物の履歴書のように、その魚の過去に起こったことが耳石から、推定可能ではないかと考えられます。
(話題提供:浮魚資源研究室長 八吹 圭三)
今、トキシラズ(索餌回遊中の鮭の通称名)が美味である。焼いても、フライにしても、またムニエルでもとにかく美味い。とりわけ道東沿岸で獲れるトキシラズは脂の乗りが多いため、ことのほか美味である。限られた時期に、比較的僅かしか漁獲されないから値も高い。ふと、低迷する秋鮭の現状を思う。有効利用のため、その科学的性質を利用した新たな商品化の試みが新聞にも報道されている。付加価値向上による、秋鮭の地位回復は北海道に住む人々の願いです。
(資源増殖部長 大池 一臣)
このほどJAICA調査団の一員としてチリ国の水産事情をかいまみる機会を得ました。季節は秋、時差も12時間と、ちょうど日本の真裏にある国で見たものは印象的なものでした。
同国はかつて、水産庁北海道さけ・ますふ化場の協力のもとでシロサケのふ化放流を行ったこともあり、北海道とは縁浅からぬものがありました。現在では南部沿岸の地形を活かしたサケ類養殖が盛んで、その生産量はノルウェーに次いで世界第2位の生産を誇っています。巨大な円形活け簀には50トンのサケが収容可能とか。養殖サケの餌であるドライペレットの袋には大きな日の丸と「JAPON」の文字がくっきり。日本製かと聞けば、「違う、日本向けのサケの餌だ」とか。帰国後、市内のスーパーマーケットの鮮魚売り場で、チリ産と表示されたサケ切り身のパックがよく目に付いたのは、気のせいだけではないようです。
(資源増殖部 町口 裕二)
イトヒキダラは、水深300~1,200mに生息する底魚で、ねり製品の原料として利用されています。長い糸状の腹びれを持つことから、釧路の市場では「ヒゲ」と呼ばれています。イトヒキダラの漁業は、北日本の太平洋海域、千島列島沿い、オホーツク海などですが、特に道東海域(襟裳岬から色丹島にかけての太平洋沿岸の海域)で、我が国の漁獲量(年間2~3万トン)の大半が獲られています。ロシア漁船も日本周辺でイトヒキダラを漁獲していることから、国際的重要種として、その資源研究の重要性が増しています。
これまでの研究から、道東海域では秋と春に漁獲量が多く、秋には成熟途上の個体が、春には産卵終了後の個体がそれぞれ含まれていること、また、東北沖合域のものに比べ成熟の度合いが低いことなどが明らかになりました。イトヒキダラは、関東近海で2~4月に産卵することが知られています。道東海域に分布する成魚は、関東近海まで産卵回遊していると想像されます。
一方、幼魚は主にオホーツク海や千島列島沿いに分布すると報告されています。イトヒキダラの資源を考える場合には、日本周辺の分布域全体を見渡す必要がありそうです。
(話題提供:底魚資源研究室 濱津 友紀)
水産庁研究所における情報ネットワークの整備が進み、北水研でも昨年所内のLANシステムが更新され高速化されました。研究所内における日常的業務を含め、パソコンによるネットワークを利用した内外との情報や通信のやりとりは、今や業務を進めるうえで不可欠なものとなっています。また、公的機関には発信する情報の拡充が求められており、当面試験的に開設しているインターネット上の北水研ホームページの充実を図っていきたいと考えています。
(所長 佐々木 喬)
北太平洋の最も重要な漁業資源であるスケトウダラ、そしてその生産を支えるオキアミを中心とした生態系の動態について、他機関と、異分野を越えた共同研究や情報交換を目的とした北水研主催の標記会合が、3月19日、北水研において、北大、道立水試などから39名の参加をえて開催された。
5回目の今回は、①平成9年度から始まる農水省の研究課題「太平洋沖合域における海洋変動が漁業資源に及ぼす影響の解明」の概要紹介、②スケトウダラ太平洋系群の現状認識として、スケトウダラの初期生活史や海洋環境と資源変動との関係、幼魚から成魚期についての食物関係と成長、海洋環境の特徴などの研究成果、調査手法の紹介、東北海域のスケトウダラ研究の紹介、その他関連研究が報告され、活発な議論が行われた。
(資源管理部長 靍田 義成)
これまで水産資源研究の多くは漁獲の対象となる魚種だけをあつかってきましたが、近年では資源の変動機構を生態系や他種との関わりの中で明らかにすることが重要と考えられています。なかでも、魚が餌を食べて成長し人間をも含む天敵に食べられるという一連の過程は栄養動態と呼ばれ、資源量の移り変わりに大きく関わっています。そこで私たちは道東海域に分布するスケトウダラについて、この「喰うー喰われる」関係を中心に成長、加入、競争および漁獲等の過程をモデル化し、これらの過程が漁場に加入した後のスケトウダラの資源動態におよぼす影響を分析する研究に着手しています。この研究には、スケトウダラのみならずその餌生物、捕食者および競争者の分布、生物量、食性や成長に関するさまざまなデータが必要とされます。そのため多くの野外調査が必要であり、他の研究部門との連携が従来にも増して重要となります。また、数理モデル開発に関わる技術的な部分においても他機関との連携が不可欠で、現在はカナダ海洋漁業省太平洋生物研究所と共同で研究を進めています。
(話題提供:浮魚資源研究室 山村 織生)
例年、4月になると大幅な人事異動で人の出入りが騒々しくなり、新しい人々との出会いがフレッシュな気分にさせてくれる季節です。一方では、北海道地方は桜の開花で賑わっている本州とは全く異なった季節感があり、雪解け後の茶褐色の景色のなかに黄・緑色の福寿草や蕗の薹がひっそりと土のなかから顔を出し、まだまだ気温の低いなかでも、質素で静かな春の息吹きが感じられるものです。平成9年度当初に当たり、今後、こうしたフレッシュな感覚を維持していきたいものです。
(企画連絡室長 柴田 宣和)
この3月3日に北海道立の各水産試験場、栽培漁業総合センター、日栽協厚岸事業場、北海道大学、漁業協同組合、海洋調査会社、東北水研および水工研の許可を得て、北海道ブロック水産業関係試験研究推進会議の標記部会が開催されました。
今年度の部会では「海藻群落の変動要因について」というテーマで五題の研究発表があり、それをもとに問題点や今後の研究方向等について活発な討議が行われました。
さらに、゜写真撮影によるホタテガイの個体数推定システム゛というテーマで特別講演も実施され、この方法の、高い信頼性とともに問題点の説明があり、熱心な質疑が行われました。
次年度の部会の持ち方については、さらに充実した内容を目指して、関係機関との密接な情報交換をもとに検討していきたいと思っております。
(資源増殖部長 大池 数臣)
北海道東部には様々な種類のカレイ類が分布しています。以前にもこのミニ情報で紹介しましたが、北海道東北岸に分布するトウガレイ(ナツガレイとも呼ばれる)は極寒期に結氷した汽水域で産卵するという特殊なカレイです。当研究室ではこのトウガレイを用いて低水温で産卵、発生、発育する魚の特徴を調べ、寒冷地での水産研究に有用な情報を集めています。今シーズンも厚岸の漁師さんの協力を得て親魚を集めて人工受精を試み、受精卵を得ることができました。しかし、氷の下という特殊な環境で発生するためか飼育管理が難しく、なかなか孵化まで至りません。今回は氷の下の水温に近い-0.5℃で飼育したところ受精から約60日かかってやっと孵化しました。つまり以前に予想したように1月に氷の下で産卵された卵は3月に孵化し、氷がゆるむころ餌を取り始めるようです。また卵に含まれる成分についても現在分析中ですが、産卵環境に適した特徴がありそうです。
最近、厚岸ではトウガレイが少なくなったとの話も聞きます。トウガレイの苦味のある独特の味が、味わえなくならないようにしたいものです。
(話題提供:浅海育種研究室 大久保 信幸)
釧路地方の冬は、霧の多い夏とは対照的に晴れる日が多く、澄み切った大空に舞うタンチョウの姿は実に見事なものです。タンチョウ観察センターには、優雅な舞いに魅せられた大勢のカメラマンが、早朝から辛抱強くシャッターチャンスを狙っています。この時期、給餌場ではタンチョウの求愛行動が観察されます。
しらしらと息を吐きつつ雪の野に二つの鶴は寄り添いて立つ
(情報係長 高 幸子)
北海道区水産研究所は昭和二25年に余市町に発足いたしました。発足当時は、1課、4部体制、および4支所と5調査船で構成されました。その後、支所の廃止、利用部および遠洋資源部の他水研への移管、海洋部の新設等のいくつかの変遷がなされてきました。その間に、余市庁舎の狭隘化と老朽化のために、新築移転して近代漁業に対応する研究設備を充実させることが昭和四17年6月に庁議で決定されました。その後、数々の困難を乗り越えて、5年半の歳月を要して、昭和五52年3月に現在の釧路市桂恋の新庁舎が完成し、同年9月に余市町から移転し、9月20日より現庁舎での業務を開始しました。
この時期から数えて20年を経過した現在、庶務課、資源管理部、海洋環境部、資源増殖部および調査船、北光丸、探海丸から成る職員数八85名で水産研究を推進しております。この記念すべき時期に質素で、ささやかな行事をと所内で考慮中であります。
(企画連絡室長 柴田 宣和)
「氷の下」と聞くとワカサギ釣り、あるいはテレビで見る流氷の下で泳ぐクリオネを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、実際に海氷の下を覗くと海藻類が夏と同じように生えているのが見られます(海藻類は動けないので当然かも知れません)。しかも海藻類は冬でも活発に生育しているのです。地上の植物たちは葉を落としたり枯れたりして冬を過ごしているのと好対照です。海水温は下がってもマイナス2度まで、零下何十度にも下がる地上よりも植物にとっては 暖かい環境といえます。
問題は植物に欠かすことの出来ない光です。海面に氷がはり雪が積もるとただでさえ少ない冬の光が遮られてしまいます。実際に氷の張る藻場に光量計を沈めてその量を測ってみると、地上の1%以下の光しか射し込んでない日が続くことがありました。これは普段の水深数十メートルの海底での光量に相当します。海藻はそのような環境でも生育できる仕組みを持っているようです。それはどの様な仕組みか、興味深い研究テーマです。
(話題提供:藻類増殖研究室 飯泉 仁)
北水研では2月1日よりダイヤルイン方式を導入しました。従来の代表電話番号でも受信可能ですが、0154-92-のあとに該当研究室あるいは係の番号(1700~1723)をダイヤルしていただく方法です。なお、北水研のホームページにも一覧表を掲載してありますので参照していただければ幸いです。
アドレスは http://ss.hnf.affrc.go.jp/です。
(庶務課長 森田 二郎)
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申上げます。
水産業には依然として明るい展望が見えないまま新年を迎えることとなりましたが、変則的な施行とはいえ本年から主要6魚種についてTACによる資源管理制度が初めて導入されるなど大きな節目の年になります。
マイワシのように主として自然的要因によって資源が大変動する魚種もありますが、多くの沿岸・沖合資源は、長年にわたる過大な漁獲圧力の結果疲弊した状態にあり、魚価安とともに漁業経営を圧迫しています。資源の回復には、資源管理と資源培養の両面から相当思い切った措置が必要ですが、生産者の保護や資金・技術などの問題があります。長期的展望を持ってTAC制度をうまく運用し、地道に取り組む姿勢が大切と考えます。
国連海洋法条約の発効等に伴う新たな情勢に的確に対応するため、本年10月には水産庁行政組織の改正が予定されています。水産研究所にとっても、本年は21世紀に向けて研究体制の再構築を検討する重要な年となります。
(所長 佐々木 喬)
昆虫類は種数100万種を上回る超巨大な生物群です。あらゆる陸上環境に棲息し、生態も形態もきわめて多様です。しかし昆虫類の分布は陸上に限定され、海にはほとんどいません。彼らは所詮『陸の王者』に過ぎません。海洋には昆虫類に匹敵する多様性を示す生物群はいるのでしょうか?近年、青木優和博士(筑波大学)らを中心に「フクロエビ類は海の昆虫」と位置付けて、生態や行動・形態を含む総合的な多様性研究を進める動きがあります。
フクロエビ類は甲殻類を構成する分類群のひとつで、既知種数は1万種を優に越えます。体の大きさはほぼ数mm~数cmの範囲です。雌が抱卵用の袋状構造「育房」を持つのが特徴で、これが「フクロ」エビとよばれる理由です。卵は仔虫(ほぼ親のミニチュア版)になるまで育房で保育され、浮遊幼生世代はありません。アミ目・端脚目・等脚目・クマ目など沿岸浅海産の小型甲殻類の多くはフクロエビ類です。ただし、端脚・等脚の2目で全種数の8割以上を占めます。フクロエビ類は深海を含むあらゆる海洋環境にに棲息し、淡水や陸上にも進出しています。とくにワラジムシ類(等脚目)は海岸から砂漠にまで棲息する陸の成功者です。
フクロエビ類は種数でこそで負けるものの、生態・形態の多様性は『陸の王者』昆虫類に匹敵するといってよいでしょう。
(話題提供:魚介類増殖研究室 宇田川 徹)
冬期を迎えた北国は、カレイ類のおいしい季節です。店頭に並ぶカレイ類の口元を注意してよく見ると、マガレイのおちょぼ口からヒラメの獰猛な大口と、変化に富んでいます。おちょぼ口は動きの鈍いゴカイ類を、犬歯状の大口は動きの早いエビや魚を餌にしています。多様な口をして、多様の餌を食い分けているから、多種の魚が生息でき、その結果、我々は多様な味を口にすることができるのです。自然界の多様性をもう一度見直してみたいものです。
(資源管理部長 鶴田 義成)