号(年月) | 今月の話題 | 研究の紹介 |
第100号(平成11年12月) | さけ・ます類の国際会議 | 近年の北太平洋亜寒帯循環で生じている変動現象 |
第99号(平成11年11月) | パイセス(北太平洋海洋科学機関)第8回年次会合 | 植物プランクトンの色 |
第98号(平成11年10月) | 国の研究機関を巡る情勢 | 生態系をまたぐ研究 |
第97号(平成11年9月) | 養殖業の法律(持続的養殖生産確定法)が公布される! | 北洋さけ・ます資源調査 |
第96号(平成11年8月) | おさかなセミナーくしろ’99「サケの科学」開催される | 計量魚探の話2 (調査船と装備と稼働率) |
第95号(平成11年7月) | 北海道ブロック水産業関係試験研究推進会議の開催 | 北水研におけるベーリング海スケトウダラ研究 |
第94号(平成11年6月) | おさかなセミナーくしろ’99「サケの科学」 | マツカワの栽培漁業 |
第93号(平成11年5月) | 行政監察始まる | 環境ホルモン(内分泌かく乱物質)を測る(1) |
第92号(平成11年4月) | 着任にあたって | 生態系にやさしい種苗放流技術(その2) |
第91号(平成11年3月) | 機関評価のための北水研運営会議開催される | 高次生産の研究 |
第90号(平成11年2月) | 北太平洋溯河性魚類委員会(NPAFC) | 深海 |
第89号(平成11年1月) | 21世紀を海洋研究の時代に | 動物プランクトン-北太平洋亜寒帯周遊の旅- |
10月下旬に、日米加ロによるさけ・ます4カ国条約の会議が、アラスカのジュノーで開催されました。この会議では、98年の北太平洋全体におけるさけ・ます類の漁獲量が約81万トン(97年約84万トン)、人工ふ化放流数が45億尾(97年49億尾)と、それぞれ減少したことが報告されました。
また、ふ化場で温度を調節し、耳石にバーコードのような模様を付ける耳石温度標識が国間で重複しないように調整する標識作業部会、さらに漁獲されたさけ・ます類がどの国生まれかを遺伝的な手法で明らかにする系群識別作業部会が設置されました。11月中旬に、日ロ漁業専門家・科学者会議のさけ・ます分科会が、ロシアのウラジオストックで開催されました。ロシア側は、カラフトマスの一部の系群を除き、ロシア系さけ・ます類の資源状態が悪い、と主張しました。しかし、アムール系及び北東サハリン系のシロザケについては、「壊滅状況」という表現を「低迷状況」と改めるなど、資源見解に変化が見られました。日本側は、道東沖の日本200海里内におけるさけ・ます流網漁船によるベニザケ、ギンザケ、マスノスケの混獲量は少なく、ロシア系さけ・ます資源への影響はない、と主張しました。
今後、さけ・ます資源の「保存」や「最適利用」を達成するためには、さけ・ます類の資源状態を科学的に把握し、漁業の現状を見つめながら、真摯に対応することが望まれます。
(国際海洋資源研究官 石田行正)
ここ数年の間にオホーツク海やベーリング海などの縁辺海を含む北太平洋亜寒帯海域で大きな変化が起こっています。一つは表層の水温や塩分が低下の傾向にあることです。また、一方では200mから
1000mの中層で水温や塩分が上昇する傾向がみられました。このことについて、過去の資料を調べてみますと、オホーツク海、およびカムチャツカ半島の南では1994年以降に表層で低塩分化の傾向、北海道南方では1995年~1997年に表層の塩分が低下する傾向が認められています。これら2つの現象は、同時期に生じており、亜寒帯循環全体に及ぶ変動が生じていると考えられます。
これらの変動現象の原因を探るためには、国と国との境界を越えた広い範囲に及ぶ海洋や大気の調査・研究が必要であることは言うまでもありません。このたびロシア科学アカデミー極東支部の太平洋海洋学研究所よりロガチェフ博士を短期間でありますが招聘することができ、北太平洋に生じている海洋の長期的な変動現象について講演をして頂く機会に恵まれました。博士によると、亜寒帯海域における表層の低塩分化はオホーツク海北部からベーリング海にかけての降雨量の増加に原因があるということでした。ただし、海洋の中層における高温・高塩分化についてはその理由がまだ不明であること、また、降雨量の大きな地域がなぜ従来と異なった地域に移動したのかについても良く分かっていません。
地球環境に生じている大きな変動を捉えることは成果がすぐには挙がらず地味な仕事ですが”継続は力なり”を合い言葉に続けていきたいと考えています。
(海洋動態研究室長 川崎 康寛)
このはがきは100号になりました。月に1回ですから8年と4ヶ月経ちました。継続は力なりと申しますので、これからもお便りを続けます。さて、昨年の組織改正に伴う庁舎の増築も12月上旬に完成し、現在、引越の最中です。今回から関連する画像をインターネットの北水研ホームページに掲載することにしましたので、増築庁舎の写真を載せました。
(企画連絡室長 山本正昭)
パイセスの第8回年次会合が10月14日~25 日までウラジオストック市で開催されました。今回の会合には,いくつか特筆すべき点があります。 その第一は,ロシアで開かれたことです。経済状態や治安の点から不安もありましたが、チンロを中心にした現地実行委員会の努力もあって、会議は十分な成果を上げました。
第二には,新しい議長、科学評議会議長などの下での初めての年次会合で、事務局で国際科学機関の実務を研修するインターン制度の創設、年次会合ごとにメインテーマを定めて科学的な焦点を鮮明にすることなど、新しい動きが決まりました。
第三としては,海産ほ乳類と海鳥の研究を,パイセスの活動に組み込むための助言パネルが設立されました。日本の海洋生態系研究にも海産ほ乳類と海鳥を積極的に取り入れる必要があります。
第四として,気候変動が資源管理において持つ意味をまとめる作業グループと有害赤潮に関する作業グループが設立されました.水産研究所の研究者からもメンバーを送り出して、大いに活躍していただきたいものです。
第五として,西暦2000年の第9回年次会合の開催地を、函館市とすることが決まりました。
北水研のウェブページにPICES-JAPANのページを設けました。皆様のご意見を伺いながら役立つものにしていきたいと考えています。よろしく。
(亜寒帯海洋環境部長 柏井 誠)
植物プランクトンを濾紙に集めると、くすんだ緑色や、緑色がかった黄色に見えます。これは植物プランクトンが、様々な種類の色素を持つためです。私達が鉢植えの花を育てるときには、光が良くあたるように窓際に置いたり、逆に光が強すぎるときには紗で覆ったりしますが、植物プランクトンは、様々な色素を持つことによって、光エネルギーをより良く吸収できるように色素を組み合わせたり、光が強すぎる時には覆いの役割をする色素を増やしたりします。
北水研では親潮域において植物プランクトンの色、すなわち光吸収特性を調べることによって、親潮域の植物プランクトン種組成や光エネルギーの利用特性を明らかにしつつあります。植物プランクトンの"色"は冬から春にかけては変動が少ないのですが、初夏の、光が強く栄養塩が少なくなる時期に大きく変化し、特に強すぎる光を防ぐ役割を持つ色素が増えます。また、秋には特殊な色素を持つ植物プランクトンが増加することも明らかになりました。
海洋表面に到達する光エネルギー量は容易に知ることができますから、植物プランクトンの色を調べることは、光エネルギーの利用率、すなわち海洋生態系の"収入"を知ることにつながるのです。海洋生態系をよりよく理解し、賢明に利用するためには、今まで多くの力が注がれてきた、海洋生態系の"支出"である漁獲量や動物プランクトンの量に関する研究と同時に、海洋生態系の"収入"をより正確に把握するための研究を行う必要があると考えています。
(生物環境研究室 齊藤 宏明)
10月16日付け着任いたしました10年と7カ月ぶりの釧路勤務です。全く変わっていない場所や、逆に思いがけないところに大きなショッピング街ができていたり、懐かしんだり驚いたりです。
とくに食べ物のおいしさや価格の安さに感激しています。これから厳しくなる冬の寒さに負けないよう沢山食べようか、やはり健康を考えてダイエットをしようか思案中。体調を整えがんばろうと思います、どうぞよろしくお願いいたします。
(庶務課長補佐 五十嵐 啓喜)
現在、日本は不況という長いトンネルの中にありますが、再び「Japan as No.1」と言われる地位を占めるためには、科学技術の振興が最も重要と考えられています。このため、平成7年には「科学技術基本法」が制定され、二十一世紀の日本が「科学技術創造立国」として輝いているためには科学技術が国家的・社会的課題に向けた分かりやすい目標設定と基礎研究の推進が必要とされています。
すなわち、厳しい国際競争に打ち勝つためには情報通信やライフサイエンスのような基礎研究の成果を新産業の創成につなげることが重要であり、そのため自由で競争的な環境の下での創造的・独創的な研究の展開により知的ストックの拡大が求められています。
水産庁研究所は平成13年4月には他の国の試験研究機関の大部分とともに独立行政法人に移行し、右に述べた理念の下で国民へ安全で多様な食料の安定的供給に貢献すべく日夜切磋琢磨するつもりでおります。ご支援・ご鞭撻の程、お願い申し上げます。
(所長 稲田 伊史)
省庁をまたがったプロジェクトとして、沿岸と陸の生態系をひとつの包括的なシステムとして研究しようとする計画が進められています。このアイデアは様々なアプローチで以前から研究されています。例えば、農林関係では農耕地からの排水管理、河畔林による水質浄化機能、干潟における物質循環・水質浄化機能など、その他、河川工学・海岸工学などの工学部門でも取り組まれています。これらは個々の対象を管理するための技術ではありますが、実際は、農地・森林・都市などから河川や地下水を通して沿岸に様々な物質が流れ込み、沿岸生態系での様々な営みに影響を与えているわけですから、水産の見地からみれば当然ですが、沿岸における生物生産の管理のためには陸域の管理手法も含めた包括的な管理技術の開発が必要と考えられます。
水産の研究者と陸域生態系を対象としている研究者、土木工学関連の研究者との話がまだ噛み合わないことが問題ですが、分野の異なる研究者・研究機関がプロジェクトに向けてスクラムを組もうとしていることに注目していきたいと思います。
(高次生産研究室長 飯泉 仁)
昨年10月に行われた水産研究所の組織改正から1年が過ぎました。改正により新たに設置された研究室やポストでは、それぞれの任務が着々と果たされています。平成13年4月には、さらに大きな変化、独立行政法人への移行が予定されています。この様に、組織の変化が大きい時期ですが、その中で我々の任務は何なのかを、日々見つめ直していくことが必要と思います。
(企画連絡科長 中村 好和)
わが国の漁業生産のうち量で17%、金額で27%を、ぶり類、のり類、ホタテガイなどの海面養殖が占めています。しかしながら、過密養殖による品質低下や病気の発生、過剰投餌による漁場環境の悪化などの問題により漁業経営は安定していません。健全で、持続的な養殖生産を確保するために今年5月に漁場の改善や特定の伝染性疾病のまん延防止などの措置に関する法律が公布されました。
この法律は、「持続的養殖生産確保法」と言われ、漁業協同組合等が漁場を積極的に改善・管理すること、また、都道府県が改善勧告や疾病防止のために専門家を設置することなどを義務づけています。
わが国の養殖業は常に輸入物と競争している状態にあります。長期的な視野に立ち、環境を保全しながら、高品質の商品を消費者に提供することが漁家経営安定と生き残りの上から必要でしょう。
(海区水産業研究部長 靍田 義成)
北光丸は北太平洋東経165度線において6月21日から7月14日までの24日間にわたりさけ・ます資源調査を行いました。日本によるさけ・ます調査は,他に北海道大学練習船おしょろ丸・北星丸と北海道教育庁実習船若竹丸の合計4隻によって毎年6月から8月の夏期に広く北太平洋全域にわたって行われています。
この調査の中では,北太平洋全体に分布するさけ・ます類の分布や資源量を把握し,それらと北太平洋の環境との関係を把握する目的で,さけ・ます類の流網による採集,延縄採集魚にタグをつけて放流する標識放流,海水温や塩分濃度の測定,動物プランクトンの採集などをおこなう.今年の結果は現在とりまとめ中であり,10月にアラスカ州のジュノーで開かれる北太平洋溯河性魚類委員会の年次会議で報告されます。
また北水研は札幌のさけ・ます資源管理センターと共同で,さけ・ます類の肝臓などの組織に含まれる酵素(アイソザイム)と耳石につける温度標識(人為的にふ化水温を変化させて,耳石につける標識のこと)の確認結果や標識再捕された海域などから,生まれた川のある国(母川国)を調べます。この結果を用いて,北太平洋での日本系さけ・ます類の回遊状況を把握します。さらに将来的には日本系さけ・ますの資源量の変動と北太平洋の環境の関係を把握し,より精度の高いさけ・ます資源の管理をめざします。
(浮魚・頭足類生態研究室 福若 雅章)
(道東のコンブの陸揚げ風景)
9月19日、日曜晴れ。早朝コンブ漁の合図のサイレンを聞いた。7時頃、桂恋漁港から1km程離れた高さ40メートルの浜崖の上から眺めると、コンブ船が30杯ほど数えられる。近くの小舟を観察すると、2人が乗って、柄のついて長さ5メートルほどの竿を操ってコンブを採取している。 やがて、1隻の船外機が崖の崖下に近づいてき、離岸堤の内側に入ってきた。離岸堤に運搬用索道がアンカーしてあり、そのフックに、コンブをくるんだ網を掛け、再び漁場へ向かった。そのコンブは空を駈けてコンブ干し場へ向かっていた。
(企画連絡室長 山本 正昭)
前々号でお知らせしましたように、今年は「もっと知ろう、食べようサケ」をスローガンにし、試食を取り入れて講演会を開催しましたところ、130余名の参加者を得ることができました。
北水研からは、石田国際海洋資源研究官がサケの資源、サケの漁業、サケと環境収容力、サケと気候変動について話しました。これを紹介します。
北太平洋は巨大な「飼育池」です。そこに毎年50億尾のサケ・マスが放流されています。日本では約20億尾のシロザケの稚魚が孵化場から放流されます。オホーツク海から北太平洋の広い海域を回遊して成長し、約7000万尾が日本沿岸に回帰し漁獲されます。サケ・マスなどの尾数が増加すると1尾当たりの餌量が減少し、成長が悪くなり成熟が遅れると考えられています。母川国はこれを上手に利用し、サケ・マスを効率よく生産していくことがこれからの課題です。
冬のアリューシャン低気圧が強いと北太平洋の海水がよく混合され、海の表層の栄養塩が豊富になり、植物プランクトンが増え、動物プランクトンなどサケ・マスの餌生物が増加し、サケ・マスの生産量も増加するのではないかと言われています。
(おさかなセミナー実行委員会事務局 竹谷 清児)
1996年に,計量魚群探知機を用いたスケトウダラ現存量推定手法の開発について説明しました。
その後調査船の調達が出来ないなど紆余曲折を経ながらも,現在は初夏と冬の年二回,海洋水産資源開発センター主管で,同様の調査を継続実施することが出来るようになりました。
船の名前は第3開洋丸。1978年製造の21歳ですので,最新鋭の調査船に比べると使い勝手ではかないません。それでも高性能計量魚探が載っているというだけで,うまく使えばかなりの力を発揮してくれます。
音響調査を行う調査船には,他の漁労とは異なる性能が要求されます.船の揺れが大きかったり,ちょっとした時化で船底に泡が入ってしまうようでは,計量魚探調査に適した調査船とは言えません.残念ながら,第3開洋丸は船が古いこともあって,このあたりはどうしても弱いのです。それでも,うねりの向きに応じて航走方向を変えることによって,少しでもデータのロスを減らすなど,調査法の工夫によって,マイナス面をカバーしながら高品質のデータをとり続けています。
現在各水研で所有している最新型調査船では,このようなことにいちいち気を遣う必要はありません。魚探器に限らず,アンチローリングタンクや船底突出型送受波器など,最新技術の導入により,調査員が余計なことに気を遣わずに済むようになりました。そのような技術の粋を集めた高額な調査船が,十分にその能力を発揮できるよう高度に利用する方策を考えるべきでしょう。
前述の第3開洋丸は,乗組員を入れ替えながら年間330日稼働しています。我々も,現有の高価な調査船/機器類の有効利用を図るよう,真剣に考えるべき時期に来ているのではないかと感じています。
(資源評価研究室 本田 聡)
今月の話題でもお知らせしておりますが、今年で8回目を迎えます「おさかなセミナーくしろ」の講演会が8月24日に行われました。事務局では毎年、講演会終了後に、参加しました一般市民よりアンケートを集めています。その中に「来年のテーマは何がよいと思いますか?」という質問があるのですが、今回のアンケート結果では、気候変化と水産資源(第2位)、環境ホルモン(第3位)と今年の猛暑や環境問題に関心が集まっていることがわかります。
「これらのテーマは内容的に難しいのではないか?」との意見等もあるのですが、今後の企画・実行委員会で協議をして、これらのテーマが来年のセミナーで反映できれば幸いです。
(庶務係長 藤橋 孝)
平成11年7月7日から8日、厚生年金釧路市福祉会館にて、道立水産試験場(中央・函館・釧路・網走・稚内)、栽培漁業総合センター、道立水産孵化場、さけ・ます資源管理センター、日栽協厚岸事業場、北水研の機関長ほかの参加のもと開催され、下記の報告・協議を行った。
昨年10月に組織改正された北水研亜寒帯漁業資源部の新たな研究フィールドとして、ベーリング海のスケトウダラ資源があります。この分野の研究はこれまで遠洋水産研究所北洋資源部で行われていたものが、組織改正により北水研に機能移転されたものです。ベーリング海のスケトウダラの資源構造や生物学的な特徴は北海道周辺海域とは異なる点が多くみられることから、それぞれの海域の環境や群集構造を考慮に入れ、海域ごとの資源の特徴を専門的に研究していく必要があります。また、ベーリング海のスケトウダラに関しては、日本、中国、韓国、ポーランド、ロシアおよび米国が加盟する中央ベーリング海すけとうだら保存管理条約において資源管理と保存措置がとられており、この条約の中でも科学技術委員会において、科学的な分野における国際貢献が求められています。1999年の産卵期にも水産庁漁業調査船開洋丸に、北水研、水産工学研究所、および米ロの研究者が乗船し、ベーリング海アリューシャン海盆のスケトウダラ産卵群の資源量を計量魚群探知機により把握し、その生物学的特性を中層トロール採集物から明らかにする国際共同調査を実施しました。1980年代に公海域で140万トンを越える漁業を支えたスケトウダラ資源も今は低い資源水準にあり、1993年から漁業が停止された状態が継続しています。どのような原因でかつてのような高い豊度が維持されていたのか、そしてどのような要因で激減し、増えようとしないのか、容易には解けない問題ですが、地球環境の変化も視野に入れた研究が北水研において関係国との協力のもとに続けられています。1999年9月にはベーリング海スケトウダラの資源構造に関する知見を集積してワークショップが条約加盟国の研究者の参加を得て横浜で開かれます。
(底魚生態研究室長 西村 明)
持続的養殖生産確保法が5月に成立し、試験研究関連独立行政法人の通則法が国会承認され、個別法も準備されている。この様な研究環境も急速に変化する中、並行して農林水産研究基本目標の改訂が進められている。今後の研究開発は、安全・良質な食糧の確保、農林水産業の自然循環機能の発揮によるその持続的発展、農林水産業及び農山漁村が有する多面的機能の維持発揮等をめざして新たな政策の展開方向に即して行われることが必要である。
(企画連絡室長 山本 正昭)
一般市民に水産研究の活動や成果を知ってもらおうと、道立釧路水試、市立博物館などとともに始めたセミナーも、今年で8回目の開催となります。今回は、「サケ」を対象に、8月からパネル展と講演会を開催します。
サケは釧路でも馴染みのあるお魚です。年末だけでなく、一年中、お魚屋さんの店頭でサケ類を見かけます。世界のサケ類の生産量は養殖を含めると約150万トン、その約1/3の50万トンを日本人が消費しています。今回は、サケの一生、資源と環境、成分と利用、そしてサケの食べ方について紹介します。
これまでの反省と経験を踏まえ、分かり易く面白い内容にするため、製作担当者は一生懸命取り組んでいます。
皆様のご来場をお待ちしています。
(「おさかなセミナーくしろ’99」事務局)
マツカワは、北海道の環境でも成長速度が速く、ヒラメより高値で取り引きされることが多いなど、栽培漁業対象種として魅力が多い魚種です。近年、種苗生産法は確立されつつありますが、いくつかの問題点があります。そこで、マツカワに関係する情報を整理し、さらに栽培漁業において解決すべき問題点等を「マツカワの栽培漁業における問題点と将来展望」(安藤・渡辺・松原、北水研報、第63号、印刷中)にまとめてみました。
マツカワの栽培漁業において克服すべき問題点としては、(1)ウイルス病(特にVNN)の防除、(2)適正な性比の種苗を安定して生産すること、(3)放流後の種苗の死亡率をさらに下げることが上げられます。(1)については、一時、全く種苗が生産できない厳しい時期がありましたが、ようやく防除法が確立しつつあります。(2)については、育成時の水温を低温に保つことである程度は改善されますが、性比に影響を与える環境要因の絞り込みと生理的なメカニズムに関する基礎的な知見を収集することが重要です。(3)はマツカワに限らず、どの栽培漁業対象種にもあてはまります。ただ、マツカワは大型の種苗の場合、特に高い再捕率が記録されることから、放流直後の食害による死亡率をいかに下げるかが改善の重要な鍵になるでしょう。これらのことを解決することによりマツカワの栽培漁業はさらに現実的な事業に近づくと考えられます。
(資源培養研究室 安藤 忠)
私は今から12年程前に釧路港で漁業監督官として駐在していたことがあります。その頃はイワシをダンプカーで運び、港一帯の道路がイワシの油でギトギトになるくらいでした。先日、NHKの放映でクジラは人間の3~6倍の魚を食べているという科学データがあることを報じていました。釧路のおいしいイワシをクジラが食べているのでしょうか?!
(庶務課庶務係長 藤橋 孝)
今月から、北海道管区行政監察局釧路行政監察分室による北水研への行政監察が始まりました。
この行政監察は、科学技術に関する行政監察の一環であり、平成10年度の農水省試験研究機関等(第一次)の調査では、農業関係の試験研究機関等が対象となりました。第二次の本年度では、水産関係の試験研究機関等が調査対象になっています。全国の水産庁研究所、さけ・ます資源管理センター、その他の水産関係試験研究機関等で、現在、行政監察の調査が進行中です。
行政監察は、社会経済の変化に対応して行政の役割を見直すとともに、行政の総合性・効率性・公正性を確保する観点から、各省庁等の業務の実態と問題点を調査し、その結果に基づき、改善方策を関係機関に勧告することによって、行政の改革・改善を推進するものです。
5月から7月までの何回かの調査を通して、行政研究機関としての北水研の役割等が、問われることになります。
(企画連絡科長 中村好和)
私たちの身の回りにある化学物質の中に、本来の効能以外に弱いながら雌性ホルモン(女性ホルモン)と同じ作用をするものがあることが分かり、環境ホルモンと呼ばれるようになりました。このような物質がヒトを含めた生物の再生産(成熟、生殖や発生)に悪影響を及ぼすことが疑われ、社会問題となっています。また環境中に放出された化学物質は下水などを通して水中に入るため、魚介類への影響が懸念されています。このことから水産分野でも、水産資源への影響を明らかにすることを目標に環境ホルモンに関するプロジェクト研究を開始しました。しかし、これまで経験したことのない未知の問題であり、その影響の程度を測定する技術もまだ確立されていません。
当水研ではこれまでマツカワの種苗生産の基盤研究として、良い卵を効率的に得るため、親魚の体内で卵黄の元となるタンパク質がどのように作られて、卵に蓄積されていくのかを研究してきました。一方、本来雌だけが作るこのタンパク質を、環境ホルモンの影響を受けた雄も作るということが海外で最近報告され、環境ホルモンの影響評価に使えることがわかってきました。現在、我が国の沿岸河口域に広く分布するマハゼやウグイを対象に、このタンパク質量を測定する手法の開発に取り組んでいます。これまでに上記2種の測定技術をほぼ確立し、それを用いて野外調査を進めています。
(資源培養研究室 大久保信幸)
コンブ干しの準備が始まった。昨年は、余り良い漁ではなかったが需要の掘り起こしに組合婦人部が活動したと聞く。内地の人間は、出汁としてコンブに対する憧れは強いが、当地のスーパーで見かける緑のコンブは煮物としてとても美味しいと感じた。直接食べれば、需要も格段に増えるのではないか。長寿の県として知られる沖縄県では一人当たりの消費量がもっとも多い。効用などの
PRを強め、販売の拡大につなげたいものです。
(海区水産業研究部長 靏田 義成)
長崎にある同じ水産庁の西海区水産研究所から4月1日付けの異動で、佐々木前所長の後任として赴任してまいりました。研究者としては長年タラなどの資源研究を行ってきたので、北の海や魚には親しみを持っています。
ところで、最近の水産研究所を巡る情勢は、行政改革により国立の研究所を平成13年には独立行政法人に移行することが予定され、現在、その法案が国会で審議されています。法案成立後の水産研究所がどのような形になろうとも、水産研究所は我が国周辺水域の主要な漁獲対象となっているスケトウダラ等の漁獲可能量を算定する際の科学的根拠を行政に提供する責務を負っており、国の重要な施策の一助として不可欠な業務を実施していくことには変わりはありません。
北海道での勤務は初めての経験ですが、研究者がより良い研究成果が出せるように生き生きとした研究所とすべく頑張りますので、よろしくお願いします。
(所長 稲田 伊史)
自然海岸が比較的残っている北海道においても、ウニやホタテなど磯根資源の他にヒラメなどの海産魚の種苗放流が事業ベースで本格化しています。しかし、人工種苗を放流する際に、すでに天然に生息している対象種の遺伝的多様性をそこなわないよう、多様な遺伝的組み合わせを持った種苗を生産し放流することが重要です。そのため当所海区水産業研究部では、1)種苗の遺伝性多様性を確保するに足る親魚数の基準化と、2)必要数の親魚を効率的に管理するための早期雌雄判別法の開発の2つの課題を組み立て、平成7年度から研究を進めてきました。
その結果、1)現在、日栽協厚岸事業場が厚岸湾で行っているニシン種苗生産は、天然親魚を多数に用いていることから、天然の遺伝的多様性を損ねていないこと、2)孵化後27日目の仔魚の段階で、遺伝的多様性がチェックできること、3)カレイ類では、軟X線撮影装置等の医療機器による形態学的方法や免疫学的方法で雌雄識別が可能であり、特に、超音波断層撮影装置は生後1歳2カ月の魚の性別を瞬時に判別できることから最も有効であること、などが明らかなりました。
(資源培養研究室長 松原孝博)
4月は、別れと出会いの季節です。4月1日、この3年間所長として所を先導してこられた佐々木喬氏が退職され、後任に西海区水産研究所より稲田伊史が着任しました。また、世の中は行政改革の真直中で、水産庁研究所も選に漏れず平成13年4月1日から独立行政法人に変わります。母船式キャッチャーボートから独航船に変わるような感じです。
(企画連絡室長 山本正昭)
機関運営の評価は、研究資源の適正な配分と適切な運営管理を通じて、北水研の設置目的に即した研究開発能力が最大限に発揮され、着実に研究成果が上がるよう、北水研の運営について厳正な評価を実施し、その結果を所の運営改善等に反映させようとするものです。
外部より評価者として次の方にご就任いただいた。
このうち、井貫委員を除く6名の方々にご出席いただき、平成11年3月5日、北水研会議室において開催いたしました。
議事は、
について説明を行い、それらについての意見と評価をいただきました。
(企画連絡室長 山本 正昭)
去年(平成10年)の10月に研究所の組織改正が行われました。その中で海洋環境部は、北海道周辺だけでなく亜寒帯海域を対象とする亜寒帯海洋環境部と名前を変えるとともに、新しく高次生産研究室が設立されました。高次というのは、生態系の中で植物が無機物から有機物を作る一次生産者、それを食べる動物プランクトンが二次生産者、それらを食べる魚などのことをいうのです。これで海洋環境部、いや亜寒帯海洋環境部は、物理環境から低次生産、そして高次生産と海洋生態系の研究が部内で完結する体制に変身しました。
これには、次世代の漁業に求められている、生態系に優しく、生態系の保全と有効利用が出来る産業技術体系のための研究を推進せよという、時代の要請があります。一方で、魚の資源を研究してきた資源管理部、新しく亜寒帯漁業資源部は、許容漁獲量をより正しく算定するために、重要種の個体群動態の解明に専念することが求められているからです。
これから高次生産研究室で進められる研究は、これまでの水産研究には無かった側面です。これまでの水産研究は、今一番獲れている魚を主たる漁場で研究するものでした。しかし、新しい高次生産研究室で取り組むのは、漁獲対象にならないけれど、それらの魚種の餌となる魚がどれだけ資源を支える生産をし、漁獲対象の魚を食べまくる動物がどれだけ食べているのか、ということです。その中には、サケの幼魚を食べる海鳥や海産ほ乳類も含まれます。小型の鯨が、漁業と同じくらいの量のサンマを食べているらしいという話もあります。
海の生態系の一番てっぺんに位置する人類は、生態系の調和を保つ責任と、海を有効に利用し、子孫の生存を約束する義務があるのです。
(亜寒帯海洋環境部長 柏井 誠)
施設整備により3月から庁舎の増築工事が始まります。増築規模は約600㎡、総工事費は2億円です。本工事は業務拡大に伴う実験設備の拡充をメインとしており、現庁舎を13m延長する工事です。竣工は11月末日の予定となっておりますので、その節にはリニューアルされた庁舎を皆様にご披露したいと思います。
(庶務課長補佐 毛利 正樹)
NPAFCの第6回年次会合が昨年11月1日から6日までモスクワで開催されました。今回の会合の要点は次のとおりです。
取締りに関しては、昨年も一昨年と同様に加盟国の違反漁船は一隻も認められず、関係国の取締り体制が高く評価されました。しかし、非加盟国の流網漁船七隻の条約違反が認められ、取締りの必要性が再確認されました。
科学調査統計に関して、97年の北太平洋全体におけるさけ・ます類の漁獲量は約84万トン、人工ふ化放流数は49億尾であったことが報告されました。
また、新しい調査研究手法として、さけ・ます類の卵の時期に人工的に水温を変化させることにより、耳石にマークする方法が各国で流用化されつつあり、国別のマークを検討することになりました。
さらに、本年11月1日から2日に「さけ・ます類の海洋生産に関する最近の変動」をテーマとする科学シンポジウムが米国のジュノーで開催されることになりました。シンポジウムのトピックは、(1)さけ・ます類の海洋生産に影響する物理学的および生物学的要因、(2)歴史的なさけ・ます類や環境データにおける傾向、パターンおよび変化の発見、(3)さけ・ます類の動態の予測とモデル、(4)海洋さけ・ます類研究におけるあたらしい研究方法や技術です。多くの方々の参加をお願いいたします。
(国際海洋資源研究官 石田 行正)
深海といえば、気味の悪い生物が棲んでいるだけの約に立たない世界と思われがちです。例えば、フクロウナギ、ハダカイワシ、オニハダカ、アカチョッキクジラウオ、イレズミコンニャクアジなど、一体どんな化け物だろうと考えてしまうでしょう。太平洋の平均的な深さが6000m程度ですが、植物プランクトンが生きられるのはせいぜい表層の200mまで、最も生産の活発なのは表層50m程度です。ということは、海の生き物は皮一枚の厚さの植物プランクトンの生産を分け合って生きていることになります。当然、一般的には生物量も表層の方が多いため研究の中心も浅い方が中心となります。ところが、北太平洋を考えてみると、植物の生産に適した季節が短いため、多くの動物プランクトンは深海で越冬します。越冬する深さは大体500-2000mといわれており、今までの研究ではこの越冬期間に関する情報がほとんどありませんでした。当研究室では、深海で越冬、産卵する甲殻類動物プランクトンの飼育に部分的ですが成功し、産卵の様子や、卵から幼生にかけての成長が解ってきました。また昨年は、海技センターの「深海2000」で十勝海底谷を調査する機会に恵まれ、研究対象であった甲殻類プランクトン、ネットでは採れないクラゲ類、海底のシロウリガイ群集など観察でき目から鱗の思いでした
(生物環境研究室長 津田 敦)
北海道区水産研究所要覧ができました。これを含め北海道区水産研究所からの情報発信は6種類、研究報告(年1回)、北水研ニュース(年2回)、北水研ミニ情報北の漁り火(年12回)、北水研ホームページ、おさかなセミナーくしろ(共催事業:年1回)です。読者層と発行間隔に応じて情報発信の方法を再考する時期に来ているのではないか。
(企画連絡室長 山本 正昭)
科学分野における昨年の出来事を振り返りますと、向井さんの活躍に代表される宇宙開発やクローン牛の誕生のような生命科学分野の話題が、大きな関心を集めました。一方、海洋科学分野では、今世紀最大級とされるエルニーニョの被害が話題になりましたが、科学的な成果という点では、特に大きな関心を集めるような話題ではなかったように思われます。
宇宙開発にも、地球観測や新素材の開発など実用的な側面はありますが、どちらかと言えば、宇宙の神秘とか地球外生命の探索など、人類の知的探求の要素が強いように思います。しかし、地球環境の維持に係わる海洋の役割や、人類にタンパク食料を供給する、多様な海洋生物による生物生産の重要性などを考えますと、我々地球人が、当面重点的に取り組まなければならない、最も切迫した科学的課題は、宇宙開発よりも、むしろ海洋開発ではないかと考えます。
海洋も宇宙も同じ未知の世界ですが、人類が抱える差し迫った地球上の問題からすれば、海洋研究に研究資金をもっと集中的に投入し、21世紀が海を知る時代になることを願うものです。
(所長 佐々木 喬)
「プランクトン」は、浮遊生活をする生物のことです。サンマやマイワシの餌になる動物プランクトンも浮遊生活をしています。亜寒帯の動物プランクトンの一世代は一年です。春あるいは初夏に、表層の生産層に上がってきて植物プランクトンを摂食して成長し成熟し、夏あるいは秋に沈んでいって冬を深層で過ごします。たとえば、サンマが好んで食べる大型のコペポーダ、カラヌス・ブルムクルスは、6月から8月に道東沖の表層に現れ、夏の一次生産を利用して成長し成熟します。9月には1000m以深の深層に沈みます。
北太平洋亜寒帯には、親潮とそれに連なる亜寒帯循環が、ひとつらなりに流れています。動物プランクトンは、この循環する流れの上で、世代の交代を続けているのです。ということは、今年の夏に道東沖に現れてサンマを太らせたカラヌス・ブルムクルスは、去年の夏、親潮上流のどこかの表層で植物プランクトンを食べて成長し成熟した世代から、産まれたことになります。
北水研では道東沖に流速計を係留し、親潮の流れを測ってきました。その結果を参考に、動物プランクトンが流れに運ばれる距離を概算すると、夏の表層生活期に運ばれる距離は、南部千島から道東の範囲に相当し、その直前までの深層生活の間に運ばれる距離は、カムチャッカ半島沖から道東沖までに相当します。このことは、道東沖の動物プランクトン量が、一年前にカムチャッカ沖(あるいはオホーツク海のどこか)にいた動物プランクトンの生産によって大きく支配されていることを意味します。道東沖で行ってきたモニタリングの結果、動物プランクトン量には大きな経年変動のあることが分かっています。この動物プランクトン量、すなわち親潮水域の餌料豊度の変動を予測するためには、カムチャッカ沖(あるいはオホーツク海内部)の低次生物生産過程を調べなければならないのです。
(亜寒帯海洋環境部長 柏井 誠)
北海道太平洋側のスケトウダラは現在、1995年生まれが卓越して出現している。この年級は0歳で三陸沖でたくさん獲られたが、2歳、3歳になってからはむしろ道東水域で多く獲られた。果たして同じ群が道東に移動回遊してきたのか。そうであればその回遊の経路や時期はいつか。まだ、明確ではない。幼魚段階で資源豊度を判定し、資源動向予測を確立するためにも、スケトウダラ幼魚の生態解明の研究を進める。
(亜寒帯漁業資源部長 小林 時正)