号(年月) | 今月の話題 | 研究の紹介 |
第117号(平成13年5月) | 「有珠山噴火による海洋・生物への影響緊急調査報告書」の発行について | 親潮の流動場の変動 |
第116号(平成13年4月) | 「水産総合研究センター」の設立の経緯と役割について | 係留系の設置・回収作業 |
第115号(平成13年3月) | 「水産総合研究センター」の設立 | 東シナ海のスルメイカ幼生 |
号外 (平成13年2月) | 厳冬による水産への影響と被害予防 | |
第114号(平成13年2月) | 平成12年度北水研運営会議(機関評価会議)開催される | スケトウダラ卓越年級群の確認 |
第113号(平成13年1月) | 日ロ漁業委員会及び日ロ漁業専門家・科学者会議に出席して | オホーツク海のスケトウダラ |
この報告書は北水研が北水試と連携して「現地連絡協議会」の下で実施した影響調査の報告です。
幸い、大噴火による噴火湾への直接的な影響はなかったため、報告内容は昨年4月及び5月に実施した事前調査の結果に止まっていますが、今後火山噴火が発生し、水産資源への影響が懸念される場合の事前調査の参考として利用されますことを期待します。
ここに報告書の概要を紹介します。
前号でご紹介しましたように、北水研では親潮の流動場の変動構造を解明するため、1991年より釧路の南南西30マイル(沿岸側)と60マイル(沖合側)の地点に流速を測る係留系を設置し、1時間毎の流向と流速を記録して、毎年回収と再設置を行っています。います。
今回、両点に設置した係留系のうち、沿岸側の水深1150mと沖合側の水深250、1260、3240m付近の流向と流速について、1991年から9年分のデータを整理したところ、親潮の変動について興味深い事実が見られました。
沿岸側の観測では、9年間の間、途中で欠測があるもののほぼ南西から西南西へ一定して流れる傾向が見られました。沖合側の観測でも、1997年夏までは3層すべてで南西ないし西南西へ流れる傾向が見られました。このうち、上・中層は変動が大きく、親潮以外の海況変動が影響していることを示唆しています。これに対し、1997年秋以降、上・中層では北東方向へ、下層では北西から西北西へ転流する傾向が見られました。 これらの流速計データの周期解析を行ったり、沿岸側の上層や他の流れのデータの解析を行うことにより、流れの方向が変わった原因について考察してみました。
その結果、1997年以降、釧路近海に暖水塊が居座っていることが多いことから、その影響を強く受けているからだと考えられます。
(海洋動態研究室 日下 彰)
4月1日付で水産庁研究指導課より現場に戻ってきました。黒潮域、瀬戸内海、混合域、(東京)そして亜寒帯域と北上してきています。4月より国研の太宗が独立行政法人となり、水産研究所も水産総合研究センターとして一つになりました。その中で、北水研は今後も亜寒帯域研究の拠点として活動していきたいと考えています。水産資源の回復、環境保全等問題は山積しておりますが、関係機関の方々と連携をとりつつ問題解決に努力する所存ですので宜しくお願いいたします。
(亜寒帯海洋環境部長 松尾 豊・まつお ゆたか)
[設立の経緯]
独立行政法人水産総合研究センター(水研センター)は,中央省庁等改革の流れを受け,水産に関わる調査・試験・研究を総合的に実施する機関として,これまでの水産庁研究所を統合し,平成13年4月1日に設立されました。
[役割]
水研センターは,21世紀の水産研究を担う拠点として,国際的視野に立った我が国水産業の振興と活性化を目指し,水産海洋,水産資源,水産増養殖,水産工学,漁場環境保全,水産利用加工,水産経済等に関する研究を基礎から応用まで総合的に実施し,その成果を広く普及していきます。
「水産総合研究センター」は本部を横浜市に置き、その下に九つの水産研究所が並置されています。北海道区水産研究所はその中に位置づけされます。
独立行政法人水産総合研究センター 北海道区水産研究所
北水研では、親潮の流動場の変動構造を解明することを目標に、1991年5月より流速計のついた係留系を設置し、1988年から開始された厚岸沖定線(Aライン)観測とあわせて、この海域を流れる親潮の観測を行っています。係留系は北海道南東沖の千島海溝大陸斜面上の水深1200m、3000m、3700mの3地点に設置しており、いずれも親潮の流軸に近いと考えられている海域です(但し3000mの地点は98年から観測開始)。
係留系とは流速計や、沈降粒子等を測定するセジメントトラップという機器をとりつけたものであり、全長は長いもので3000mを越えるので、系の設計から準備、および実際の現場作業に至るまで大変な作業を要します。それぞれの系には切り離し装置という機器がとりつけられていて、これに500kg前後のおもりをチェーンで繋ぎ、約1年間係留して観測を行います。回収時には切り離し装置に船上から音響信号を送って作動させておもりを切り離し、浮力体を使って系を浮上させます。
ときには切り離し装置が何らかの原因で作動しなかったり、作動しても不運にも系が流されたり、この海域に多発する濃霧に阻まれて発見できなかったりということがあるので、作業時は常に気が抜けません。しかしながら、今年も昨年に引き続いて系を無事回収、再設置することができました。
係留系の観測を開始して以来、今年回収を終了したことで10年分のデータを蓄積することができました。今年度中にはこの係留系の観測で得られたデータをとりまとめて論文等の形で結果を出したいと考えております。
(海洋動態研究室 日下 彰)
南千歳から釧路に向かう列車の窓外では、深く耕され、作付けを待つ黒い畑で、仲の良い丹頂のカップルが私を出迎えてくれました。霧の中に溶け込みそうに浮かんだ白樺の枝々が、北海道に来たのだという気持ちをかきたててくれます。
4月1日付けで日水研から企画連絡科長に赴任いたしました。独法センターに衣替えして新たな出発となった水研が抱える問題解決は、旧態の不合理を脱ぎ捨てるチャンスなのかも知れません。精一杯頑張りたいと思いますので、宜しくお願いいたします。
(企画連絡科長 長谷川誠三・はせがわ せいぞう)
北海道区水産研究所は、平成13年4月1日付けで農林水産省傘下の水産研究所から独立行政法人「水産総合研究センター」傘下の研究所に移行しました。
「水産総合研究センター」は本部を横浜市に置き、その下に九つの水産研究所が並置されていますが、各々の研究所の内部組織は従来と基本的に変わりません。
研究所の運営費は国からの運営費交付金と水産庁等からの受託費及び競争的に獲得するプロジェクト研究費で賄われ、研究業務は国が定める五カ年の「中期目標」に基づき策定した「中期計画」に従って実施することになります。また、毎年及び五カ年が経過した時点で研究成果や組織の効率化について外部評価を受けることになり、研究者についても厳正な業績評価が行われます。
日本の研究者も研究組織も競争的な環境の下での創造的活動という新しいパラダイムへの脱皮が求められます。
(所長 稲田 伊史)
夏~秋にかけて、北海道~東北地方の太平洋沿岸に来遊するスルメイカは、九州西方~南方海域で生まれた集団であると考えられています。これらは、産卵期間が主に冬であることから、スルメイカ冬季発生群とも表現されています。イカ類には寿命が1年である単年生の種が多く、我々になじみの深いスルメイカやアカイカなどもこれに含まれます。これら単年生であるスルメイカを資源に悪影響を及ぼすことなく、効率的に管理するためには、その年に漁場に加入する新規加入量を早期に把握し、漁業の方策等を検討する必要があります。そのため、北水研では1~2月に九州周辺の東シナ海で、スルメイカ幼生の分布範囲・出現量を評価する調査を行ってきました。過去に行われた調査の結果から,前年の漁獲量が多い場合には、東シナ海に出現するスルメイカ幼生の出現量も多くなる傾向が示されています。昨年の太平洋側での漁獲量は、北海道羅臼地区の記録的大漁に見られるように、前年に比べ豊漁でした。このことから、今年の幼生の出現量も前年より多くなることが予測されます。現在、浮魚・頭足類生態研究室では、今年の2月に採集した標本の分析を進めています。これらの調査結果は7月に行われるスルメイカ資源評価会議や漁海況予報会議において、スルメイカ資源の評価を行う上で重要な生物学的知見として活用されます。
(浮魚・頭足類生態研究室 森 賢)
先日、海外向けに日本の国立研究所を衛星放送を通じてPRするため、内閣府(旧総理府)の委託を受けた放送制作会社の取材・撮影がありました。撮影は所長の挨拶、研究紹介や研究風景などはスムーズに行われましたが、屋外からの庁舎撮影や近くの港の撮影では、厳しい寒さのためバッテリーが数分しか使用できないなどカメラマンも苦労したようです。が、このような極寒の日はとても空気が澄んでいて被写体も美しく映るらしく、港から望む「海氷と夕日とカモメたち」のコントラストがとても印象的でした。
(情報係長 竹谷 清児)
今年は、支笏湖が23年ぶりに凍ったり、オホーツク沿岸への流氷接岸が例年より20日ほど早く、2月早々、釧路にもやってくるなど厳しい寒さが続いていますので、流氷・結氷により予想される水産被害の記録と対策を収集しました。これを号外として配布します。
(北水研 企画連絡室 山本正昭)
去る、平成13年2月9日に行われました、平成12年度北水研運営会議(機関評価会議)は今年度で3回目の開催となりました。
今回は、広報・情報発信を通しての研究成果の公表ならびに利活用を重点的に取り上げました。本年度の主な議題は以下のとおりです。
この結果、「平成12年度の運営、研究、広報のいずれの活動とも評価できる。独立行政法人化後も、地域の発展を念頭におき、なお、一層努力すること」との総括的評価を頂いております。
また、今回の運営会議での主な評価・指摘事項とそれらへの対応状況につきましては、インターネット等で公表することとなっておりますことから、後日、準備が整い次第、北水研HPで公表します。
(企画連絡室)
北海道の太平洋側における,1999年秋以降の漁期中のスケトウダラの漁獲量は,それまでの過去数年間の漁獲量に比べ大きなものとなりました。
この漁獲量増加のもっとも大きな要因は,1995年の産卵期に生まれたスケトウダラの量が多かった事があげられます。この1995年生まれのスケトウダラを1995年級群(生まれた年が同じ魚の集まり)と呼んでいますが,この年級群が卓越年級群(平年に比べて極端に個体数の多い年級群)だったのです。
この卓越年級群の存在が確認されたのは,1997年度までの資料を元に資源評価を行った1998年になってからのことでした。それまでにも,東北海域などから1995年級群の豊度は高いという事を示唆する情報は得られていましたが,どのくらいの量がいたのかということは資源量の推定を行って初めて明らかになりました。
このように,卓越年級群の発生を確認するまでに,以前は,発生後3年以上の時間がかかっていました。1995年級群が道東で漁獲される2歳魚となるまでは,資源評価のための漁業からの情報が得られなかったためです。
現在では,毎年,調査船による計量魚探を用いて現存量を推定する調査を行って,太平洋系群の分布域にはどのくらいのスケトウダラが分布しているかを推定し,漁業から情報が得られる前に分布量に関する情報を得て,資源評価の重要な情報としております。
(資源評価研究室長 八吹圭三)
現在、北水研研究報告第65号の発刊の準備を進めていますが、新年度より研究報告につきましては、独立行政法人「水産総合研究センター」本部で各水研の研究報告を取りまとめ一本化することとなりました。そのため、北水研としての研究報告はこの第65号で最後となります。ところで、北水研研究報告の第1号は50年前の1951年に創刊されています。この1ページには当時の所長大島幸吉氏の辞(ことば)があり「益々の内容の充実を計り斯界(しかい)に貢献せんことを念願する。」とあります。研究報告が一本化されても、この辞は生き続けてほしいと思いました。
(情報係長 竹谷清児)
昨年12月に開かれた日ロ漁業交渉の結果、日本漁船のロシア200海里水域における漁獲割当量が決まりましたが、この中で、マダラに対する割当量が大きく削減され、根室の小型底はえなわ漁船は周年の操業が困難になり、休漁を余儀なくされています。
ロシア側のマダラに対する資源状況についての見解は、気候変動や海洋環境の変化によるマダラを含めたタラ類資源の減少期にあたり、マダラ資源はベーリング海、カムチャッカ水域等、その全域で減少し、一部では小型魚の過剰な漁獲も重なり、マダラの資源は大変悪い状態であるというものです。日本側としては、千島水域での沖合底びきによるマダラCPUEの低下はみられず、隣接する北海道の太平洋側でもマダラ資源の減少はみられていませんので、昨年並みの割り当てで問題ないと主張しましたが、ロシア200海里内の割り当てはロシアが決めますので、このような結果になりました。
この日ロ漁業交渉の前に、日ロ漁業専門家・科学者会議が開催され、主要魚種の資源状況についての意見交換並びに共同調査の結果と次年の計画について検討いたしました。対象種は、サンマ、マイワシ、カタクチイワシ、サバ類、イカ類、ニシン、スケトウダラ及びさけ・ます類です。時代とともに両国の漁獲対象種が変化し、魚種の変更を検討すべき時期になってきたと日ロ双方で考えています。マダラについても日ロの科学者間で資源状況について検討し、必要であれば共同調査を実施する等、科学的なデータを集めることが重要と思います。
(亜寒帯漁業資源部長 水戸啓一 )
我が国200海里内のオホーツク海南西部はスケトウダラの好漁場でしたが、近年漁獲量は低位な状態が続いています。北海道区水産研究所では、オホーツク海の重要底魚類の分布と生態に関する知見を得るため、1997年から着底トロールによる調査を夏期に行っています。1997年と1998年にはスケトウダラはあまり採集されませんでしたが、1999年ではスケトウダラ当歳魚(体長約10cm、ここでは尾叉長)がたくさん採集されました。2000年ではスケトウダラ1歳魚(体長約23.5cm)がたくさん採集されました。また、北海道立稚内水産試験場は1999年11月と2000年5月に着底トロール調査を行い、それぞれ体長14cmと16cmのスケトウダラを多く採集しています。紋別や網走の漁業組合の方からも1999年はマゴスケ(小さいスケトウダラ)が多かったと聞いています。これらの情報から、スケトウダラが小さいうちに漁獲されないで成魚に成長すれば、オホーツク海におけるスケトウダラの資源量が多くなるのではないかと期待しています。また、この卓越年級群を効率的かつ持続的に利用していく管理方策が必要であると考えています。今後、卓越群がなぜ発生したのかを海洋環境などの情報と併せて解析し、資源変動要因の解明に役立てたいと考えています。
(底魚生態研究室 柳本 卓)
新世紀最初の号をお届けします。地球温暖化が進む中、今年は流氷の訪れが例年になく早く、また、道内陸部では記録的な寒い冬になったようです。地球は暑くなるだけでなく気候変化の幅が大きくなっていると言うことでしょうか。水産にもサケの回帰率の低下や有明海の海苔の白化現象など種々の変化が起きています。海洋生態系の変化について基礎的事項から点検する必要があるでしょう。
(企画連絡室長 山本正昭)