モニタリングとは

モニタリングの目的

水産基本計画水産基本法に基づき水産施策推進のために国が策定する計画で、5年ごとに見直される
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では水産基本法平成13年法律第89号
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の基本理念である「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」に向け、水産業を支える調査・研究、技術開発の充実や水産資源管理水中あるいは水辺に生息する生物のうち、経済的価値のあるものを水産資源と呼び、これを様々な目的のために管理すること(長期的な漁獲量の最大化を目標とすることが多い)の強化が求められています。常に変化する水産資源や海洋環境のモニタリングはその基盤となるものです(図1)。

順応的管理
図1.順応的管理不確実性を有する海洋生態系や水産資源などを管理するため、モニタリングによる現状評価に基づく管理方法の見直しを継続する方法のイメージ

生態系の変化には、元の状態に戻る場合(可逆的)と戻らない場合(不可逆的)があるといわれています。不可逆的な悪影響が起こってからでは遅すぎます。例えば地球温暖化二酸化炭素など温室効果ガスにより地球の気温や水温が長期的に上昇することで、温度上昇の結果として海面上昇など様々な現象が生じているなどの社会・経済的にも取り返しのつかない影響を招かないように、あるいはその兆候を早期に検出するためにもモニタリングは役立ちます。

海洋の状態には、海の表面水温やクロロフィル光合成で光エネルギーを吸収する役割をもつ緑色色素で、葉緑素ともいう。このうちクロロフィルaは全ての緑色植物に含まれるので、藻類の存在量の指標となる。植物プランクトン水中に生息し遊泳能力がほとんど無い生物(プランクトン)のうち、微細な藻類の総称の指標)など、人工衛星に搭載されたセンサーにより観測できるものもあります。また、海の表面から中層の水温を自動的に観測して定期的に基地へデータを送信する自動観測ブイも展開されています。しかし、海表面から少し深いところの流れや栄養塩類植物の生育を制限しているケイ素、リン、窒素で、海水中に溶けている状態のものは、調査船で観測しなければわかりません。もちろん、プランクトン水中に生息し遊泳能力がほとんど無い生物(多くの魚類など遊泳能力が大きいものはネクトンと呼ばれる)や魚類なども調査船でしか採集できません(図2)。一方、海面から中層までの流れや基礎生産量などは、コンピューターモデル様々な自然現象を表現するため、主要素とその関連性をコンピューター上で再現するにより現状把握や予測が可能になっています。しかし、このモデルは海洋観測データを用いるため、モデルによる結果の正確さは、どれだけ海洋観測を行えるかにより大きく変化します。

このように、人工衛星や自動観測ブイなどでは不十分であり、精度の良いモデルの運用のためにも調査船によるモニタリングが重要となります。


図2.調査船・人工衛星・自動観測ブイによる海洋調査イメージ

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こんなモニタリングをしています

北海道周辺海域の調査船による海洋環境モニタリングでは、道総研北海道水試が1989年度から偶数月に1回、北海道周辺海域に設定した海洋観測定点(全部で179点)で、表面から深層(最大1000m)までの水温、塩分、海流などの海洋環境を観測するとともに、一部の定点では栄養塩類やプランクトンなども調査しています。また、資源調査では魚介類の卵・仔稚魚、魚群の分布などを調査しています。公開情報は、資源管理部海洋環境グループのページ(道総研中央水産試験場)からご参照ください。
 道総研観測点
図3.北海道水試による海洋観測定点

水産研究・教育機構では主に北海道区水産研究所と東北区水産研究所が連携して、親潮と直交する観測ライン(Aライン)の21定点を設定し、1987年から通常年5回(1月、3月、5月、7月、10月)の水温・塩分、化学成分、植物・動物プランクトンの観測を行っています。公開情報は、Aラインモニタリング(東北区水産研究所)からご参照ください。
 北水研Aライン
図4.Aラインの観測定点

また、北海道区水産研究所では、オホーツク海の経済水域内に定線(Nライン)を設置し、2000年より春季-秋季を中心とした定線観測を継続しています。観測項目や精度はAラインに準じており、基礎生産量、サイズ別クロロフィルa濃度、微小プランクトン定量採集、植物プランクトン分類群組成、水塊トレーサー(13C,18Oなど)のサンプリングも随時行っています。公開情報は、Nラインデータベース(北海道区水産研究所)からご参照ください。
 北水研Nライン
図5.Nラインの観測定点

これら沖合域における海洋観測のほか、各種の水産資源調査も実施しています。また、沿岸域や地先においても水温等の測定を実施しています。

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モニタリングからわかること

北海道周辺を海域ごと、季節ごとにモニタリングしたデータは、次のような水産資源の変動機構や漁場形成機構の解明や漁海況予測などを通じて、水産資源の持続的利用や海洋生態系の保全に役立っています。

  • 海洋環境の長期変動からみたスケトウダラ等の資源変動要因の解明
  • 温暖化など地球環境変動が資源変動に及ぼす影響の評価・予測
  • 海洋環境の短期変動から見た海況予報
  • 海況予測モデル(FRA-ROMS,JADE)の精度向上と再解析値データ(過去の海洋環境の再現)を活用した水産資源変動機構の解明
  • 貝毒プランクトン発生の予測手法を開発-食の安全・安心に貢献
  • 資源特性や資源量の推定から、資源水準と動向の把握、更に、資源変動機構の解明と資源評価・予測
  • 来遊状況、魚群の分布、漁場形成を漁期前に把握し、速報値として漁況予報を提供
  • 資源管理のための科学的な考え方の構築-例えば、ABC(生物学的許容漁獲量)の算出
  • 増養殖場における魚介類の管理
  • 斃死や疾病の発生原因の解明
  • 沿岸域の環境保全
  • Aライン観測線における海洋観測が北太平洋海洋科学機構の2013年海洋モニタリング賞を受賞(水産研究・教育機構平成25年度プレスリリース)

これまで漁海況モニタリングについて意見・提言としてパンフレットにまとめてきました。

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担当する人々

北海道ブロック水産業関係研究開発推進会議の主要メンバーは、国立研究開発法人水産研究・教育機構「北海道区水産研究所」と地方独立行政法人北海道立総合研究機構「水産研究本部」です。

【地方独立行政法人北海道立総合研究機構 水産研究本部】

北海道立総合研究機構シンボルマーク水産研究本部は、中央水産試験場函館水産試験場栽培水産試験場釧路水産試験場網走水産試験場稚内水産試験場さけます・内水面水産試験場で構成されています。モニタリングに関連して、中期計画のうち「安定した漁業生産に関する技術開発」を実施しています。

【国立研究開発法人水産研究・教育機構 北海道区水産研究所】

水産研究・教育機構(FRA)シンボルマーク北海道区水産研究所は、さけます資源研究部、さけます生産技術部、資源管理部、生産環境部で構成されています。モニタリングに関連して、第4期中長期計画のうち「重点研究課題3.海洋・生態系モニタリングと次世代水産業のための基盤研究」を実施しています。

【関係組織】

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